クマの子ライと春の女王
アカシロ山からの旅は、ようやく終わりを迎えようとしていました。
「とうとう着いたぞ!ハルナ山だ!」
ライはゴンヌからもらったマフラーを首にぐるぐる巻いて、ぴょこぴょことはねました。
「春の女王様はどこにいるんだろう?」
ライとタロが、ハルナ山の中をぴょんぴょこ進んでいくと……丸太でできた小屋が見えて来ました。
「あのなかに、なにか食べ物があったりしないかなぁ?」
「よし、のぞいてみよう。」
ライは、トビラをとんとんたたきました。
「こんにちはー。誰かいますかー?」
「はーい、はいってまーす!」
キイッと木のトビラが開くと、そこにいたのは。
「は、春の女王様!」
タロはびっくりして、言いました。
「ここにいたんですね!」
「春の女王様?!」
「え、あっ、はい!あら、わたくしのお客様だったのね、失礼しました。いかにも……わたくしが春の女王ですわ。春の陽気と、お花畑を司っておりますわ。」
春の女王様は、青色の長い髪をいそいそ直しながら答えます。小さな花が、髪と、グリーンのドレスのまわりをかこみます。
「なにかご用かしら、かわいいクマちゃん、かわいいリスちゃん。」
「だぁれ?お客さん?」
小屋の奥から、さらに声が聞こえて来ます。2人の女の人が、トビラのほうへかけてきました。
「あらぁ、かわいいクマ!どうしたの?エサがほしいの?」
そう言ってライをなでるのは、赤い短い髪にゴールドのミニドレスを身にまとった夏の女王様でした。
「アタシは夏の女王。夏のギラギラの太陽と、海の流れを司っている。機嫌が悪いと嵐になっちゃうのが悪いクセなんだけどな!ははは!」
「悪いクセってわかっているんなら、直そうと努力しなさいよね。」
そう言って肩をすくめるのは、真っ白な髪にワインレッドのドレスに身を包んだーー
「わたしは秋の女王。秋の小春日和と、紅葉の色あいを司っています。よろしく。」
「よ、よろしく……!」
3人の女王様に囲まれたライは、どうしたらいいやらわからなくなってしまいました。
「僕は、クマの子ライ。こっちはリスのタロ。」
「よろしくお願いします、タロです。」
タロも、ライの背中から降りてあいさつをしました。
「君たちの用事はわかっている。」
秋の女王様は言いました。
「冬の女王のことだろう。」
「そうです!」
ライは答えました。
「春の女王様、お願いです。冬の女王様と、交代してください!」
春の女王様は、困ったように、首をかしげます。
「わたくしも、そうしたいのですが……。」
夏の女王様も、腕組みをして、うなります。
「アタシたちも、どうにもできないんだよ、これが。」
秋の女王様は、2人の女王様に、尋ねます。
「おい、この2匹にも、挑戦させるっていうのか?動物だぞ。」
タロは、その言葉につっかかります。
「動物でなにが悪いんだ!ニンゲンだって、動物だろう。」
春の女王様は、ふふっ、と笑いました。
「そうよ、その通り。それに。かわいい君たちにだったら、トビラを開いてくれるかもしれないわ。さっきの、わたくしみたいにね。」
ライは、なんだか嬉しくなりました。
「ありがとう、春の女王様!」
「でもね、ライ。忘れないで。」
春の女王様は、念押すようにライに言いました。
「わたくしは、春を司っているけれど、冬のことだって大好きなのよ。雪もとってもキレイだし、吐く息がほわっと見えるのも、ステキ。ただその期間、冬の女王に会えないのがさみしいのが、難点だけれどね」