クマの子ライとニンゲンゴンヌ
チャラとタカにもらったリンゴをむしゃむしゃ食べながら、ライとタロは歩きます。
てくてくてくてく、歩きます。
「お外の世界も、悪くない。なぁ、ライ。なにしろ、こんなにリンゴがうまいんだ!」
「ほんとうだねぇ、タロ。新しいお友達も増えたよ!」
そうして歩いていると、ハルナ山がだんだんと見えてきました。
「ライ、あれがハルナ山だよ。」
「すごぉい!もうすぐ着くね!」
あと一息、がんばろう!と二匹で笑いあったときでした。
「う、うわぁ!クマだぁ!クマが出たぞお!」
人間の男の人です。大慌てで、「クマだぁ!クマだぁ!」と、叫んでいます。
「タ、タロ!どうしよう、ニンゲンに見つかっちゃったよ!殺されちゃうの?!」
「落ち着けライ!あのニンゲンは、クマを見つけてしまって、驚いているだけだ!なにもしないということをわかってもらえば、きっと大丈夫!さっきのチャラたちみたいに。」
「わかってもらう……!」
ライは、うーんうーんと、一生懸命考えました。
ライはそろそろと、お兄さんのところへ近づきます。
「こんにちは!」
ライは元気よく、あいさつをしました。
「僕はクマの子ライ!」
「う、うわあああああ!あ、あ?」
「よろしくね、お兄さん!」
「あ、ああ、よろしく……。」
ライは、母クマの言っていたことを思い出していました。
何度目の秋だったか。お友達ができない、と、泣きながらお家へ帰ったときのことです。
「みんなの遊んでいるなかに、入れないんだ。どうやったら、お友達になれるのかなぁ。」
すると、母クマはにっこり笑って、ライの頭を撫でました。
「なぁんだ、そんなこと。簡単なことよ。元気な声でごあいさつをして、僕の名前はライです、って自己紹介をするの。そうすれば、もう、お友達よ。」
「うん……わかった……!やってみる!」
そうして、次の日から、ライが、お友達ができない、と泣くことはなくなったのでした。
「ボクの名前は、ゴンヌ。このあたりで、農家をしているよ。」
「ゴンヌっていうんだね!よろしく!」
ライとゴンヌは、握手をしました。
これでもう、お友達です!
「あ、そうそう、こっちはリスのタロ。」
「おい、なんだい、オマケのような言い方をして……。どうぞ、よろしく。」
「かわいいリスだねぇ。よろしく。さっきは、騒いでしまってごめんね。こわいクマだと思ったんだよ。」
「僕のほうこそ、ごめんね。ずーっと、山で暮らしていたら良かったんだけど、実は、ハルナ山にご用があってここまで来たんだ。」
ライは、事情を説明します。
「ハルナ山にいる、春の女王様に、塔へ向かってもらえるようにお話をしようと思っているんだ!」
「お触れのやつかい!そりゃあまた、頑張るねぇ。僕なんかは最近は、しばらく冬でもまぁいいなかぁ、なんて、思っていたところだったのに。」
ゴンヌは、うんうんとうなずきながら、言いました。
「ボクの知り合いにも、春の女王様に会いに行った子がいたよ。でも、女王様、塔には行きたくないんだって。結局、交代させられないまま、帰って来てしまったよ。」
「そうなんだあ……。」
どうやら、春の女王様にお願い事をするのは、とっても大変そうです。
「でも、ボク!君のこと応援するよ!友達にも自慢しようっと。ボクの周りも、春を諦めたやつらばっかりでさ。驚くぞぉ。」
ゴンヌはそう言うと、いそいそと首に巻かれたマフラーを取って、ライに手渡しました。
「ほら、これ持っていくといいよ。マフラーだ。あったかいよ。」
「わぁ!ありがとうゴンヌ!」
なぁんだ、ニンゲンって、こわくないぞ。ライは嬉しくなりました。
「でもねぇ、ライ。忘れないでくれよ。」
ゴンヌは念押すようにライに言いました。
「確かに春にならないと、種まきができないんだけださ。冬は冬で、大根や白菜が食べ頃なんだよねぇ。うちでとれた野菜もとっても美味しくてさぁ。ライ、今度鍋食べにおいでよ。待ってるからさ。」