クマの子ライと黒犬チャラ、そしてミケネコのタカ
白ウサギのシャオリーにお礼を言って別れると、とうとうアカシロ山の外の世界にたどりつきました。
「ここがニンゲンたちの住む世界かぁ。」
ライはあたりをキョロキョロと見回します。
すると、目の前にたくさんのリンゴの木が並んでいるではありませんか。
「わぁ!リンゴだぁ!僕、もうお腹が空いちゃったよぉ。食べようっと。」
リンゴの木に向かってライが走り出そうとすると、背中のタロがライの毛を引っ張りました。
「こらこら、ライ。やめなさい。」
「痛い、痛い。なんでだめなんだい?あんなにリンゴがなっているのに!」
「あれは、ニンゲンたちが大切に育てているリンゴなんだよ」
「ニンゲンたちが?」
タロはコクコクうなずきました。
「ニンゲンが育てているモノを勝手に食べると、危ない目に遭うんだ。ここはもう山じゃないんだぞ。」
「うん、わかった……。」
やっぱり、山の外はこわい場所だったんだ。
ライがしょんぼりしていると、
「おい!おい!おまえら!オレたちのリンゴに近づくな!」
わんわんわん。真っ黒なイヌが吠えてきました。
「わあ!」
ライはびっくりして、道路にひっくり返りました。そのはずみで、タロも道路に転がります。
「わあ! 痛いじゃあないか!」
「ご、ごめんよお、タロ。」
その様子を見ていたミケネコが、にゃあにゃあと喜びました。
「あはは、おもしろい、転んだ転んだ。あはは!」
ライとタロは立ち上がりながら、イヌとミケネコのほうを見ました。
「ち、違うんだ。誤解だよ。」
ライは言いました。
「リンゴのこと、美味しそうだなとは思ったけれど、取ろうとはしてないよ。本当だよ。」
イヌは、信じられない、というふうに首をすくめます。ミケネコはまた、にゃあにゃあ笑います。
「あはは。うそつけぇ。そうでなかったら、どうしてクマの子が、真冬に、山の外にまで出てくるっていうんだい?」
「山の中にエサがなくて、ここまで降りてきたんだろう?このリンゴは、おまえらには、渡さないぞ。ご主人様の大切なリンゴなんだ!」
「ご主人様たちにご報告して、やっつけてもらいましょうよぉ、きゃはは」
信じてもらえない……。
ライは泣きそうな気持ちになりました。
母クマの忠告をちゃんと聞いておけば。
大人しく、春が来るのをお家で待っていれば。
「おい、ライ!泣くな!」
「いてててて!」
背中に飛び乗ったリス、タロでした。
「また、僕の毛を引っ張ったなぁ!」
タロは、ライの叫びを無視して、イヌとミケネコに向かって言いました。
「俺たちは、ハルナ山に向かっているんだ!」
「「ハルナ山???」」
二匹は声をそろえて尋ねました。
「なんだってハルナ山に?」
「あ、もしかして」
「もしかして、おまえら、春の女王様のところへ行くのか?!」
「にゃはははははは!そりゃあ、おもしろい!」
ライは、少し、むっとした気持ちになりました。
「なにがおもしろいんだい。僕は真剣だよ。」
真剣だからこそ、こわいこわい外の世界にまで、こうしてやってきたのですから。
「ハルナ山へ行って、春の女王様に会って、季節を廻らせてもらえるようにお願いするんだ!」
にゃっはっは!とひとしきり笑ってから、ミケネコは言いました。
「いや、ごめんなさいね、クマの子。悪い意味じゃあないんだ。最近じゃあめずらしい、オモシロイやつだと思ってね!」
「ええっ。」
ライとタロは、目を丸くしました。てっきり、バカにされたのだと思ったのです。
「ニンゲンならともかく、クマの子が女王様に会いに行って、お願い事までしようっていうんだ。こんなにオモシロイことはそうそうない、そうじゃないかい、チャラ」
ミケネコは、イヌに問いかけました。
「おう、タカ坊。しかも、オレの鳴き声でびびるような弱っちいやつがだろ。おもしれぇや、こりゃ。」
そうして、二匹はまたワンワンにゃあにゃあ笑いあってから、言いました。
「ご主人様には言わないでおいてやる。通りな。」
「い、いいのかい?!」
「もちろんだ。我々も、そろそろ春が恋しくなってきたころだったんだ」
「おう。冬はちょっとでいいんだ、オレは。イベント多くてうっとうしいしな。」
ライとタロは、顔を見合わせました。
「そのかわり。頑張って春を連れてきてくれよな。」
「ありがとう!」
「オレはチャラ、それと、こいつはネコのタカ。よろしくな。これ、持ってけよ。腹減ってんだろ。」
チャラは、リンゴを1個放ってライに渡しました。
「わああ、ありがとう、ありがとう。僕はライ。そして、こっちはリスのタロだ!」
こうして、ライとタロに、新しいお友達が増えました。
「でもねぇ、ライ。忘れないでくれよ。」
タカは念押すようにライに言いました。
「確かにそろそろ春になってほしいけどね。冬は冬で、おこたつの中で丸くなるのも、わるくないんだよねぇ。」
「あ!オレも!雪の中をご主人様と走り回るの、超好き!まぁ春も好きだけどな!」