クマの子ライとウサギのシャオリー
ハルナ山は、アカシロ山のとなりに立っている山です。
季節の女王様たちは、お休みのあいだ、ハルナ山で季節を楽しむと言われています。
なので、動物たちも、人間たちも、ハルナ山に近づく者はあまりいませんでした。誰もがみんな、女王様たちのお休みを、邪魔したくはなかったからです。
そんな風に、国のみんなと女王様たちは、互いの住む場所をわけながら生活していたのでした。
「さあ、もう少しで、アカシロ山の出口だぞ。」
タロは、ライの背中から言いました。
「道案内ありがとう、タロ!」
「道もわからないのに、どうやってハルナ山まで行くつもりだったんだか、まったく!」
そう、クマの子ライは、アカシロ山から出るのは初めてだったのです。母クマから、山から出るとニンゲンがいる、ニンゲンは怖い生き物だ、と教わっていたからです。
そこへ、一匹の白ウサギがやって来ました。
「あれっ。そこにいるのは、タロじゃないかい?」
タロは、すばやくライの背中から降りて、白ウサギのほうへ近づきました。
「シャオリー!どうしたんだい、体が真っ白だ。君、茶色ウサギだったろう?雪の色に染まってしまったのかい?」
シャオリーと呼ばれた白ウサギは、笑いながら答えました。
「わたしたちウサギは、冬になると毛が生え変わって、真っ白になるのさ。わたしはこちらの毛色のほうが好きなんだ。柔らかそうな色だろう?」
「そうかぁ、俺は冬今時分はいっつも寝ているからなぁ。知らなかったなぁ。」
二匹はケタケタと笑い声を上げました。
シャオリーは、はたと気がついて訪ねます。
「そうだよタロ。まぁだこんなに雪深くて、寒くて、いつもだったら寝ている真冬だろうに。なんだってこんなところをほっつき歩いているんだい?」
ライは「あっ。」と、代わって答えます。
「春の女王様に会いに、ハルナ山に行くんです。季節を、冬から、春に変えてもらうために!」
「季節を変える、だってぇ?」
シャオリーは驚いて言いました。
「褒美でも欲しいのかい? あのお触れ。たくさんの人たちが挑戦したけれど、今もまだ季節は冬のままなんだよ。」
「いいえ、僕は、季節を、次の季節にちゃんと変えたいんです。それだけです。春のお花見を、お母さんと一緒に見たいんです。だから……。」
シャオリーは、「ふうん。」と言いながら、まじまじとライのことを見つめました。
「気に入ったよ。君、名前はなんて言うんだい。」
「ライといいます」
「ライ、ね。覚えておくよ。仲間たちにも伝えておこう。季節を廻らせるために、勇敢なクマの子が旅立ったと。いざという時には力になろう。」
ライは、ぱぁっと顔を輝かせて、言いました。
「わあ!ありがとうございます!」
「でもねぇ、ライ。忘れないでくれよ。」
シャオリーは念押すようにライに言いました。
「わたしは、白い毛でいられる冬が一等好きなんだ。冬がいつまで続いてくれたっていいんだよ。」