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クマの子ライとリスのタロ

「ふあーあ。よく寝たぁ。もう、春になったころだろうなぁ。なにしろ、こんなにたっぷり眠ったんだから。」


アカシロ山に住むクマの子、ライがお家からのっしのっしと起きてきました。

寒い寒い冬を越え、季節が春になったのです。冬眠を終えたクマたちは、こぞって、新しい季節の始まりをむかえにいきます。


でも、その年は、少し様子が違っていました。


「あれ……?なんだろう?まだ、雪があるぞぉ?」

ライが暮らすアカシロ山は、雪だらけ。春に変身したようには、見えません。

「おかしいなぁ。こんなにたくさん眠ったのに、まだ冬だなんて。僕の勘違いかなぁ。」


あたりを見回しても、仲間のクマたちのすがたも見えません。

ライが起きてくるとき、母クマもぐっすり眠っていました。きっとみんなもまだ眠っているのでしょう。


「ふむ。なぁんだ、まだ冬だったかぁ。じゃあ、まだまだ眠れるなぁ。ラッキー。もう一度眠りにいこう。」

ライは、お家へ帰ってもう一眠りしようと歩きだしました。


するとそこには、雪に埋もれた木の板が倒れていました。

「まったく、誰だい。こんなところにゴミを捨てたのは。どれ、僕が捨てておいてやろう。」

ライが木の板をツンツンしてほりだしてみると、それはどうやら、カンバンのようでした。


カンバンには、こう書いてありました。



・・・・・

冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。

ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。

・・・・・



「はて。これはいったいどういうことだろう?」

ライが首をひねっていると、そこへお友達のリス・タロがやって来ました。

「やぁ、ライ。君も起きてきていたのかい?」

「あっ。タロじゃないか!」

ライはようやくお友達に出会えて、とっても嬉しくなりました。

「ひさしぶりだねぇ」

「ああ。秋の女王様が熱を出してさっさと帰っちまったあの秋の終わり以来だねぇ」

「そんなことも、あった、あった」

二匹はキャッキャと笑いあいます。


ライは聞きました。

「ところでタロ。僕はもう春がやって来たと思って起きたのに、まだ雪がこーんなに降っている。仲間たちも、ぜーんぜんいない。そして、このカンバン。いったいどうなっているか、知っているかい?タロ。」

「ああ、ああ。知っているとも、ライ。とはいえ、そこに倒れているカンバンのとおりのことが、今起きているんだよ。」

タロはピョコンと、例のカンバンの上に飛び乗ります。

「冬の女王様が、ずーっとお城にいて、ちっとも帰らないのさ。」

「ええっ。なんで、また。」

「わからないから、困っているのさ。」


どうやら、ライが起きてきた時期は間違っていなかったようでした。

時期と、季節が、ずれてしまっていたのです。


「冬の女王様が帰らないだけじゃない。春の女王様も、塔にやって来ないんだ。」

「だから交代させたら、褒美をって書いてあるのかぁ。なるほどなぁ。」


ぐるるるるるる〜。


ライのお腹が、大きな音を立てました。

「お腹空いたなぁ。」

タロは言いました。

「そりゃ、そうだ。今の今まで冬眠していたんだからなぁ。腹も減っているだろう。」


ライは、あたりを見まわします。

見えるかぎり、ぜーんぶ、真っ白。

雪がたっぷり積もっています。


「タロ。食べるものがないよ!」

「そりゃ、そうだ。冬だもの。」


ぐるるるるるるるるる〜。


「なんでみんなが女王様に交代してもらいたいって思っているか、わかったかい?」

タロはにやにやしながら、ライを見ました。

「このまんまだと、みーんな、飢え死にしちゃうからだよ。」



*・*・*・*



「ただいま!」


ライはお家へ帰ると、大きな声で言いました。

お家では、いつも母クマがライを待っていてくれます。「ただいま!」と言うと、優しい笑顔で「おかえり。」と言って、ライをだっこしてくれるのです。


でも、今日はやっぱり、いつもと違います。

母クマは、まだグウグウ眠っているからです。

「おかえり」も、だっこもありません。


「お母さん……。」

ライは、急にいっぺんに悲しくなりました。


ぐるるるるるる〜。


「お腹が空いたよぉ。さみしいよぉ。」

ライは、ポロポロ泣きだしました。

「お母さん、起きてよぉ。えーん。」

ライがいくらベソをかいても、母クマは、グウグウ眠ったままです。

「えーん。どうしたらいいんだよぉ。」


「いいじゃあないか、べつに。」

ライの背中に乗っかっていた、タロです。

「母親がいなくなって、俺がいるだろう?一緒に雪合戦してあそぼうぜ。冬もなかなか楽しいもんだ。池でスケートもできるんだぜ。すごいよなぁ。」

「でも……。」

ライは、母クマの「おかえり。」のないお家がこれからもずっと続くなんて嫌でした。

「春が、今年もやって来たねぇ」と、お話をしながら、母クマと桜の花を見るのが、ライは好きなのです。それがないと、起きた!なんて、ライは言えませんでした。


「タロ、僕、決めた。春の女王様に会いに行く。そして、冬の女王様と交代してもらうんだ!」

「な、なんだって?!本気でかい?!」

「もちろん、本気さ!季節を春に変えてもらうのさ!よぉし、そうと決まれば、ハルナ山に出発するぞぉ!」

ライはやる気たっぷりで宣言すると、タロを背中から下ろしました。

「タロ、君は留守番をしていてくれ!僕、行ってくるよ!」

タロは驚いて言いました。

「る、留守番ん?」

「大切なお友達である君を、寒い中連れ出すわけにはいかないからね。ここでぬくぬく待っていてよ。必ず、春を連れて戻るから!」


じゃあ、とライが背を向けて旅立とうとしたそのとき。ひょこん、とタロがその背中に乗っかりました。

「……ライ一匹じゃあ、心配だからな……。特別に、俺がついて行ってやるよ。とちゅうでさみしくなって、メソメソ泣かれたんじゃあ、かなわないからな。」

「タロ……!」


ぐるるるるるるるる〜。


ここでまたしても、ライのお腹が鳴り響きます。

「……。」

「しょうがねぇな、俺の秘蔵の木の実、一個やるよ。特別、だぞ。特別。」

「わあ!ありがとう!」

「それ食ったらでかけるぞ!」

「うん!」


こうして、クマの子ライとリスのタロは、春の女王様が住むハルナ山へと向かうのでした。

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