クマの子ライと冬の女王
「「冬の女王様ー!」」
城下一面に、動物たち、人間たち、国に住む者たちが大勢詰めかけているではありませんか!
「見てください!雪まつりの写真です!」
「ゆきがっせん楽しかったー!」
「僕の毛並みどう?きれいじゃない?どう?」
「今年も寒くしてもらったから、美味しい野菜がとれたよ!」
「冬になると、ばあちゃんが手袋編んでくれるんだ!」
「クリスマスー!お正月ー!バレンタインー!」
「ご主人!ご主人!フリスビー投げて!ご主人!」
「うちの梅、もうすぐ咲くよ!」
「俺、スキーがとっても得意なんだ!」
「おかあさーん、いき、ハーッてすると、白くなるよー。」
「寒い冬に、こたつの中で食べるアイスが最高なんだよなぁ!」
わあわあと、口々にみんなが冬への思いを語ります。
「こ、これは……?!」
ライとタロは唖然としています。
「女王様たちが集めたのかい?」
タロは聞きました。
「しかしこれだけのニンゲンと、動物たちまで……!」
「ワタシたちはなにもしていません。」
「あなたたちの力です、ライ、タロ。」
「ぼ、僕たちの……?」
ライとタロがよーく目をこらしてみると、見えました。
「シャオリー!チャラ!タカ!ゴンヌ!」
この旅でお友達になった、1人と3匹です。
「彼らが話をして回ったようだ。」
ライとタロは驚いて、言葉がでません。
「あなたたちの話を聞いて、ココロを動かされて、そのココロがどんどん国中に伝わってーーこれだけの民を動かしたのですよ。」
「四季の廻りを愛する国のココロに火をつけたんだ!」
わあわあ。
「みんな……!みんな、ありがとう……!」
民のココロが、お城を、そして塔を包み込みます。
「……冬の女王様、出てきてください。」
「ここから見て、みんなの気持ちを受け取ってください……!」
ライとタロは、固く閉ざされたトビラの向こう、冬の女王様に語りかけました。
そして、3人の女王様たちもまた、話しかけます。
「……冬のあなたから見たら……春があたかも、愛されているように見えるかもしれません。」
花が咲き、生命が芽吹く季節、春。
「でもね……花も、生命も。冬の間、寒さの中にあったからこそ、美しく芽吹くことができるのよ。冬の雪と、寒さがなかったら、春は生まれないわ。」
「冬に、早く夏にならないかなぁ!なんて言ってるやついるだろ?あれ、嘘だからな!」
太陽が世界を照らし出し、緑の輝く季節、夏。
「そういうやつは、夏になったらなったで、早く冬にならないかなぁ!って言ってるんだよなぁ!あ!でもさぁ!夏暑いときは最大で裸にしかなれないけど、冬はいくらでも着込めるからいいよな!」
「春秋優劣論、なんてものが昔あったそうですが、ワタシにはわかりかねます。」
一雨ごとに寒さが増し、赤黄に木々が染まる季節、秋。
「秋は、夏でもなく冬でもない、大変中途半端な季節。いつ衣替えしたらいいんだ、半袖をしまっちゃったじゃないかとクレームをつけられるこちらの気持ちも考えてもらいたい。寒いなら寒いで白黒ついていたほうがいいではないですか。」
すると、さっきまでしんしん降っていた雪がーー
「雪が止んだ!」
誰かの声がします。
ライたちも、外をのぞきます。
すると。
国全体を包んでいた雪景色が、城を中心にしてワーッと緑へ姿を変えました。池の氷は溶け、つららもあっという間に消え去りました。木々の花も、いっせいに芽吹きます。
「は、春か?」
「春が来たのか?!」
「と、いうことはつまり……。」
振り向くとそこには、漆黒の髪に、ブルーのロングドレスをまとった冬の女王様が立っていました。
「冬の女王様!」
「みんな……みんなごめんなさい……!ワタクシ……!」
冬の女王様のココロの氷も溶けて、涙となって溢れています。
「いいのです。よくぞ、出て来てくれました。」
「アタシらも悪かったよ。」
「そんなに悩んでいるとは気づかなかった。」
「いいえ……いいえ……!ワタクシが拗ねて、勝手に勘違いして……みんなに迷惑をかけて……女王失格ですわ……!」
ようやく4人そろった女王様は、ひしと抱き合いました。
「「冬の女王様ー!」」
「よかった!ご無事で!」
「来年もよろしくな!」
「雪たくさん降らせてくれてアリガトー!」
「ゆっくり休んで、次の冬に備えてね!」
「ご主人!フリスビー!フリスビー!」
「ご覧なさい、冬の女王」
春の女王様は、言いました。
「民は、あなたのことを愛しているようですよ。失格だなんて、とんでもないわ。」
冬の女王様は、眩しいものを見るように、民たちを見つめました。
「ありがとう……!」
冬の女王様は、ライとタロに向き直りました。
「ライ、タロ。本当にありがとう。なんてお礼を言ったらいいのか……どうやってお礼をしたらいいのか……。ひどいことも、言ってしまいましたわ。ごめんなさい。」
タロは、小さな首をふるふると振りました。
「お礼なんていらないよな、ライ。」
ライはうなずきます。
「うんうん。お礼なんて、いらないです。」
「えっ……、どうして……?」
ライは、元気いっぱいに、言いました。
「だって、あいさつをしたら、もう僕たちはお友達なんです。お友達が困っていたら、助けるのは当たり前。お礼をもらうなんて、とんでもない!」
冬の女王様は、瞳をうるうるさせながら、ほほえみました。
「とっても素敵なマフラーね、ライ。……冬を楽しんでくれて、どうもありがとう。」




