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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

桜が散る時

作者: 白神の鱗



私の名前は凛堂 桜。



今日から花の女子高校生。



一度しかない高校生活を思いっきり満喫してやるつもりなのです。






なんて、思っていた時期が私にもありました。




入学から一週間が経つというのに私は今日も今日とてぼっち飯。


でもこれは致し方ない事なんです。


もちろん、私に自分から話しかけるという少しの勇気が足りないのもあります。


でもクラスのみんな同じ中学で固まってしまうんだもの。


話しかけ辛いったらありません。


同じ中学の子とクラスが離れてしまった私はどうすればいいのでしょう……。




とりあえずなんかモヤモヤするので購買にお菓子を買いに行く事にしました。


腹が減ってはなんとやら、です。



「さくらっ」



購買へと向かう道すがら、聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきました。


私はこの声の主を知っています。


振り返るとやはり。


中学時代からの親友、朝日向 真琴ではありませんか。


クールビューティー。


今日も可愛らしい短髪と眼鏡が似合っておりますなあ。



「久しぶり、まこ」



まこも購買に行く予定だったらしく、私たちは一緒に行く事になりました。


話題はもちろん高校生活の事に。



「まこー。友達ができないんだよー。どうしたらいいの?」



お恥ずかしながら、まこと話しているとこうして私の愚痴や悩み相談になる事がほとんどです。


いつも真剣に聞いてくれるまこに感謝感激雨あられ。



「うーん。確かに同じ中学で固まられると話しかけ辛いよね」


「そうなんだよー。どうしたらいいかな?」


「そうだね……。同じような境遇の子と仲良くするとか。さくら以外にも同じ中学の子がいなくてグループに入れない子もいるでしょ?」


「な、なるほど!さすが、私の知恵袋まこちゃん」


「誰が知恵袋じゃい」


「あだっ!」


そう言ってまこは私のおでこにデコピンしてきます。


まこの癖は私のおでこをデコピンする事なのです。


本当にひどい奴です。


と言うのは冗談で、まこはいつも私を助けてくれるので、ものすごく感謝しています。


口に出すのは恥ずかしくて憚られますが。



「でも、さくらは人見知りだから少しの勇気は必要だよ。人見知りなのは個性だから良いと思うけど、あまりにもだとそれは欠点になっちゃうからね」


「ぐうう、正論でございます。でも断られたらどうしようって思っちゃうんだよね」


「まあ、そこは当たって砕けろ精神でがんばれ!」


「もう、他人事なんだからー」


「桜の花みたいに潔く散ろうよ」



それだとまるで私が失敗する前提じゃないですか……。


結局私はまこ様のありがたいお言葉の数々をいただいた後、購買でチョココロネを買ってまことはお別れしました。


お菓子とか言いながらがっつり炭水化物なのは突っ込まないで下さいね。





数分後、私はチョココロネを片手に教室の前に立っておりました。


頭の中ではまこの助言が繰り返されております。


『同じ境遇の子と仲良くすればいい』


私は思い切って教室のドアを開けました。


するとどうでしょう。


よく見てみるとぼっち飯している子がたくさんいるではありませんか。


やっぱり私のクラスは友達を作りにくい環境って事なのでしょうか。


よし。


誰かに声をかけるぞ。


そう意気込んで、私は教室の中へと一歩踏み出しました。





なんて事でしょう。


私は無事に席にたどり着くことに成功しました!


そして、誰にも声はかけられませんでした……。



『人見知りなのは個性だから良いと思うけど、あまりにもだとそれは欠点になっちゃうからね』


まさに今、まこの言葉が重く私にのしかかっています。



「はぁ」



私はチョココロネを食べながら溜息をつきます。


チョココロネはおいしいのに、なんだかどんどん幸福が逃げていくように感じます。


そこで私はチョココロネを食べながら人間観察をする事にしました。


戦をするにはまず敵を知らねば、です。


すると、後ろの席の子もぼっち飯をしている事に気付きました。


こんな所に同志がいたなんて。


すごく身長が高くて、スマートで、シュッとしてて、凛としてて、とにかく丸っこくて小っちゃい私とは正反対の人でした。


いいなあ、スタイル良くて……。


じゃなくて!


今は友達を探すんだった。


あ。


そこで私は思いました。


今こそ、『少しの勇気』を出す時ではないのか、と。


私は決心して、その子の方を向きました。



「あ、あのお……」


「なに?」



思い切って声をかけると、その子からは思ったよりも乾いた低い声が返されてきました。


その子の足は組まれていて、高い視点から見下ろしてくるので、まるでどこかのお偉い社長さんに面接されているみたいです。


私は思わず視線を逸らしてしまいます。


でも、『少しの勇気』を出す準備はできています。



「ごはん……。一緒に食べませんか?」



遂に言葉に出せました。


どうですか、まこ。


私だってやればできるんです。


心臓が手で触ってわかるほどにバクバクしています。



「ヤダね」



今度は心臓が止まりました。


間違えた。


心臓が止まるような気分でした。


え。


なんで……。



「そ、そうですか……。ご、ごめんなさい」



私はそれ以上食い下がる事が出来ず、後ろを向いている事も出来ずにその子に背中を向けてしまいました。


もう恥ずかしさやら悲しさやら悔しさやらで悶え死にそうです。


それにこの子の低い声と態度がすごく恐いです。


私はその後一日中、恐くてその子の方を見る事ができませんでした。






そして、翌朝。


こんなにブルーな気持ちで学校に行くのは初めてかもしれません。


学校に行く前から憂鬱です。


私は登校中に考えました。


なんで、ごはんを一緒するくらいの事を断られたのでしょうか。


謎です。


だんだん考えていると、その子にムカムカしてきました。


ごはんくらいいいじゃないって感じです。


なんで私はここまで彼女の事を考えているのか分からなくなってきました。


ここで彼女とはもう話さないようにする事は簡単です。


でもそれだとなんだか私が負けたみたいです。


そこで私は決めたのです。



「絶対友達になってやる!」



こう見えて私は元来負けず嫌いなのです。


そうと決まれば敵情視察です。


今日一日、彼女の事を観察する事にしました。






キーンコーンカーンコーン。


なんて事でしょう。


結局大した事は知れずに一日が終わってしまいました。


分かったのはお昼におにぎりを食べている事。


今日はおにぎりを一つ残していた事。


授業中もずっと足を組んでいる事。


その態度の割には授業をちゃんと聞いているようである事。


そのくらいです。


今、私は帰り道で彼女の後をつけています。


どうしましょう。


自分がまるでストーカーみたいで、悲しくなってきました。


もうやめようかな、と思っていると、彼女は路地に入っていきました。



「えっ……」



気になってついていくと、そこには信じられない光景が広がっていました。


なんと彼女が猫にエサを与えているのです。


そのエサは彼女のおにぎりでした。


その猫は『広って下さい』と書かれた箱の中に入っていました。


どうやら捨て猫のようです。


まさか彼女は猫のためにおにぎりを残していたのでしょうか。


これは、なんというギャップ、なんというテンプレでしょうか。


萌え死にしそうです。



「その子、かわいいね!」



私は思わず声をかけてしまっていました。


彼女は勢いよく私の方を向きました。


そしてみるみる顔が赤くなっていきます。



「べ、別にかわいかねーだろ。普通だよ、普通」



もう本当にツンデレすぎます。


私を悶え死にさせる気でしょうか。



「その猫にエサあげてるみたいだけど、飼わないの?」


私が疑問を投げかけると、彼女はいつもの凛とした顔になって答えました。


「飼ってやりてーけど無理なんだ」


「なんで?」


「うちの母親が猫アレルギーなんだよ」



なるほどなるほど。


確かにそれは無理ですね。


あ。


そこで私はいい考えを閃きました。



「私が引き取ろうか?うち猫一匹飼ってるからもう一匹飼えないかお母さんに聞いてみるよ」


「ほ、本当か!?」



そういう事でその猫ちゃんは私が引き取る事になりました。


帰りの道すがら彼女は心配なのか、私の家まで着いてきました。


どれだけ猫ちゃんが好きなんでしょうかこの子は。


結局、お母さんは二つ返事でOKしてくれ、彼女もほっとした表情で自宅へと帰っていきました。






翌朝。


私が歯磨きをしながら学校に行く準備をしていた時でした。



「さくらー。お友達来てるわよー」



玄関の方からお母さんの声が聞こえてきました。


お友達?


まこかな。


そう思って玄関に行ってみると、彼女がいました。



「おはよう」


「う、うん。おはよう。タマ?」


「あ、ああ」



なんと彼女は昨日拾った猫(タマと名付けた)を見に来たというのです。


押しかけ妻か何かでしょうか。


かわいすぎます。


私たちはタマをひとしきり可愛がった後、学校へ行く事になりました。


横を見ると、凛とした彼女がいました。


こうして見てるとすごい横顔カッコいいんですよね。


あ。


そういえば。


この前から彼女って言ってたけど、本当の名前を私は知りませんでした。



「ねえねえ」


「なに?」



また乾いた声が返ってきました。


もしかしてこれは通常の声のトーンなんでしょうか。


とにかく、彼女のかわいらしい一面を知っている私はもう恐がりません。



「私ね、凛堂 桜って言うの。あなたの名前、聞いてもいい?」


さかきばら ふう



風ちゃんか。


いい名前。


凛とした見た目に似合ってる。


その時、ふとまこの言葉がよぎりました。


大事なのは『少しの勇気』。


私は再び決心しました。



「ねえ、ふう。私と……友達になって下さい!」



今度はちゃんとふうの目を見て言えました。


ふうはというと、また高い目線から私の事を見下ろしていました。


これはやはり、セットポジションかなにかなのでしょうか。



「あのなぁ……」



風はまたも低いトーンで話し出しました。


また断られてしまうのでしょうか。


私は思わずふうから目を背けてしまいました。


するとふうは私の肩をがっしり掴んでこう言ってきました。



「目、そらすなって。最後まで話聞けよ」



ふうの真剣味のある声を聞いて、私は再びふうと目を合わせます。



「友達ってさ、お願いしてなるもんじゃねえだろ。気づいたら……なってるもんじゃねえの」



そう言って今度はふうが恥ずかしそうに目をそらしました。



「あ、ずるいっ!私には目をそらすなって言った癖にふうがそらしてるじゃん!」


「う、うるせえよ!」



私達は、こんな痴話喧嘩のような会話を続けて学校へと向かいました。




という事で、私、高校生になって初めての友達ができました。


ちょっぴり自己表現をするのが苦手だけど、凛としていて、カッコいい友達です。





これにて、やっと私にも花の高校生活がやってまいりそうです。


でも、もしかしたら今回の出来事は、単に友達ができたって事では収まりきらないほど、大事な事のように思えます。


だって、『少しの勇気』を持つ事の大切さを知ったから。


その時、ふと冷たい風が吹き、私の頬に何かがぶつかりました。


私はそれを握りしめ、上を見上げました。



「ああ。もう桜、散っちゃったんだね」



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