ダイダロスの翼
あまりに暇だったので書きました。小説を書いたのは初めてなのでいろいろと問題点があるでしょうがお目こぼしください。
イーカロスが異変に気づいたのは余りの暑さに汗が滝のように流れ始めた頃であった。羽根を固めていた蝋が熱によって溶け始めていたのだ。イーカロスは狼狽した。既に何本もの羽根が抜け落ち太陽に達するどころか地上に舞い戻ることもできぬように見えたのである。しかし彼が恐れたのは地面に打ち付けられ息絶えることではなかった。「私が空から墜ちれば名工の誉れ高き父の名声に傷をつけることになろう。私が死ぬのは自らの未熟ゆえ致し方ない。しかし父の名を汚すことだけは避けねばならぬ。」イーカロスはクレータに名高い父を辱めることを恐れたのであった。「偉大なる太陽神ヘーリオスよ。これが貴方に対する不敬の報いならば私の命を捧げます。しかしながら父ダイダロスは私のために羽を作っただけなのです。私はいかな責めも甘んじて受け入れます。ただ父は、どうか父には御慈悲をお与えください。」イーカロスが太陽に向かって叫ぶとその心が太陽神に届いたのか暑さが幾分和らいだように感じられた。「太陽神よ感謝します。父よ、母よ、愚かな息子をお許し下さい。イーカロスは己の過信故に死にます。父の羽根の故ではないのです。どうか悲しまれぬよう。天地に遍き神々よ、どうかこのイーカロスの死に様を御照覧あれ。」そう唱えるとイーカロスは羽根を畳み真っ逆さまに墜ちていった。墜ちて、墜ちて、墜ちて、そして遂に地に激突し息絶えた。そのあまりの衝撃に地は揺れ大気は震え獣や木々までもが何事かが起こったのを知らないでは済まないほどであった。衝撃が収まるとたちまちに天の使いが現れ方々にイーカロスの死を触れ回っていった。「先刻の轟きはイーカロスの天より墜ちし故なり。太陽神ヘーリオスへの不敬により死ぬることと相成ったが、己の罪を恥じ父の名を惜しむ天晴な死に様であった。翼を作りしはイーカロスの父ダイダロス。天に届きし翼の作り手はダイダロス。天下一の名工なり。」