1人目と2人目の召喚者②
しばし目を伏せるオーズ=ソルティ団長。
「戻ってきた3人の話によれば村の山間の館に奴がいたそうだ。10人はそれぞれの隊長と副隊長クラス。1人討ち取るのには余裕すぎる人選だな。」
隊長クラスが7人もやられた……。
「外に4人、中に6人で突入という作戦だった。もちろん仲間がいる可能性も考慮してはいたそうだぜ。」
包囲作戦か。団長みたいなのが家の周り囲んでたら俺は即投降だな。
「やはりというか、数人仲間がいたそうだ。無論奴以外は雑魚。そして、奴の部屋の前までついて扉を開けると、――ドカンと火が舞い1人がやられた。」
仰々しくオーズ=ソルティ団長は両手で形作る。
「その隙に奴は窓から逃走しようとしたが、逃がすわけにはいかねぇってんで1人が飛びつき一緒に3階の窓から落下。外を見張ってた4人に声を出す。『入口より東側だ!逃がすな!』と。4人がそちらに向かうと息絶えた2人目と、点々と続く血の後を見る。」
オーズ=ソルティ団長の低い声が一層険しくなる。
「4人が血の後を追い、隣接してある納屋へついた。館の仲間と合流を待つか算段をしていたところに、空からバケツ1杯分の水の塊が落ちてきて2人は被ってしまう。威力なんてのはない。」
オーズ=ソルティ団長は自身の目の前のコップを取り、ゴクゴクと一気に飲み干す。
「今俺が飲んだのは水。ただの水。」
まさかと俺は気づく。
「毒ですか。」
「そうだ。今も昔も製造禁止、製法封印、持っているものは例外なく処罰される代物を奴は少量入手していたらしい。これで犠牲になったのが4人。」
毒まで使ったのか卑劣なと思う。
「仲間と合流して納屋へ突入、奴が仕掛けた罠は多少あったそうだが突破。だが姿は無い。見ると隅の方で血の跡がプツリと消える。」
「隠し扉か何かですか。」
「そう地下通路へと続いていた。このままでは危険と1人を城へ伝える為に帰すことになった。生還者1人。」
結末は聞いていたものの俺はホッと一息。
「残り5人で地下へ進んだそうだ。逃げ道らしいことに罠の類は無し。血の跡を追いしばらく進むと村の酒場へ繋がっていたって話だ。」
「酒場って色々な人が来るんですよね。それじゃ酒場の店主も。」
「あぁ奴らの仲間だったそうだ。さすがに――」
オーズ=ソルティ団長はラルゴに見て苦笑い。
「詳しくは言えねーけどな、酷いことしてやがったってことだ。」
想像したくもないな。
「作戦は夕刻に行われたから酒場についたころは夜だった。んで酒場の本番は夜。ヤツは客の大半を殺し、客の1人を人質に取って待ってたのよ。」
無差別に…外道だな…。俺の顔が渋くなる。
「子連れで旅をしていた旅人がその晩運悪く居合わせちまったそうだ。飯の食い処は村じゃ酒場が兼任してるからな。奴はその子供を盾に薬と馬を要求してきた。」
許せないと思う。
「こいつを逃せば後のことは目に見えている。隙をつくことができれば一撃の腕前揃い。じりじりと焦るヤツは緊張が切れて早くしろと大声を出す。隙ができたわけだ。仲間の1人が斬りかかり、ヤツはナイフで迎撃の構えを反射的に行う。その間にもう1人が捕まっている子供を助ける。そのまま切り伏せられれば良かったが……。」
コップに水を注いでゴクリとオーズ=ソルティ団長は一息。
「肩からざっくり斬られた奴はあろうことか、異世界の力、最初にドカンとぶっ放した火の玉を子供に向けて放ちやがったそうだ。」
「そ、それじゃ。」
俺は声を出す。
「子供を庇って1人が犠牲となった。残り4人はしぶとく生きている奴に止めをさす。最後の最後でヤツが死に際に何か言った直後、村の外で大きな爆発音がしたそうだ。」
最後で爆発音。村が犠牲になる何かが起こったのか。
「奴の首を斬り、4人は外に出ると山間の館があった辺りが消し飛び、土石流となって押し寄せてきていた。異世界の水の力を使ったのだろうってのが後の見解。奴は軍隊相手の準備もしていたようだってな。」
水の力で勢いを加速させたのか。
「酒場の騒動で右往左往の村人も多々いる中、館からの距離もそう遠くはない。全員避難なんてできやしなかった。4人は大声で逃げろと言ったがそうだが厳しいものだ。4人は各々耐えられそうな物陰に村人を誘導した――。」
俺は閉口した。惨いだろうこの結末は。
「3日後か。先に報告しに城へ戻った1人が一団を連れて向かうと村は土砂に埋もれて無くなっていた。生き埋めになったのだろうと手分けして捜索したところ、1人と子供の生存を確認。もう1人もすぐ見つかったが周りは老人ばかりのためか体力的に彼以外はダメだった。その後捜索しまくって1人を発見するも時すでに遅し。」
そんな……。
「だが彼は覆いかぶさるように女の子を守ってたそうだ。眠るように衰弱していたがなんとか持ちこたえたとの話。」
助かったのか。良かった。
「残り1人は行方不明のままだな。これで事の顛末は以上だ。ほぼほぼ合ってると思うぜ?なんせ、生き残りの1人は俺の親父だしな。」
「ソルティ団長殿ありがとう。この事件は自然災害として処理されました。」
ミラ宰相がそう言う。自然災害?大事件じゃないのか。
「え?どうしてですか?」
「無用な混乱をさけるためです。デール国、いえ、このオーラウン大陸は救世主を必要としています。そんな時に救世主たる異世界の者が異能の力を使い事件を起こすなど知れ渡れば畏怖の対象になるでしょう。それでは誰もが反対し災厄を退けることはできなくなる可能性があります。」
この世界は未知の知識・力は神か悪魔の所業に分けられちまう。悪魔の方に傾いたら救い処じゃない。人々は離れちまうのか。
「個人的に言わせてもらえば救世主には信用も信頼もない。」
とオーズ=ソルティ団長は言う。
「親父から聞いて育ったのもあるが、2回目の召喚で目の当たりしたからな。」
ポリポリ頭をかくオーズ=ソルティ団長。
人死にの話はもう御免こうむりたいところだぜ俺は。
「2回目も何か大事件が。」
「いえ。殺生などの事件はありません。」
「それじゃ何が。」
「そうですね。簡単に言うと逃げたんですよ。」
「逃げた……?」
意外な話だった。逃げたってどういうことだろうか。
「1回目の召喚の儀が約100年前、3代目暴走が50年前、そこから計画は凍結となりました。2回目が計画が始まったのは今から10年前となります。」
「1回目の二の前にならないようにこちらで管理する流れになりました。」
「管理ってそんなあんまりじゃ」
俺は反発する。
「何も身動きを取れなくさせるわけではありません。不満がでないように快適に近い生活は保障、それにはこちらから提示したことの飲むが条件としました。」
相手が快適だと思えば50・50の取引。悪く言えば飼い殺しか。
「召喚した理由を真摯に聞いていただき了承、1回目の話を聞いて憤慨し涙まで流してもらいました。」
いい人そうではある。
「そんな人がなんで逃げたり。」
「我々もそう大丈夫だと考えました。」
「そうだな。俺も親父から聞いていた程のことじゃないんじゃないか思ったわ。」
「当初は周りから大反対があったのですが世を考えると必要事項と説得、そして彼の人当たりの良さから信頼も厚くなった。」
ミラ宰相、オーズ=ソルティ団長が言う。
「いやぁ、あれには見事に騙されましたね。」
ホーラル=アムズ副団長は呆れ笑い。
「騙された?」
ミラ宰相を見て尋ねてみる。
「そうです。全て演技だったんですよ。」
演技?
「真摯に聞くことも、涙を出すことも、親しくなることもです。」
「……。」
俺は言葉がでなくなった。国の要人相手に騙したって事か。
「信頼を獲得していった彼は当時の国庫管理の1人に目をつけ親交を深めていきました。複数いる管理者から彼女に目を付けたのは優秀ではあったがまだ若いからでしょう。甘い言葉に惑わされ国庫について喋ってしまった。」
展開が読める。ほいほいついていったのか……。
「ある日の晩、この城の宝物庫に侵入し1つだけ盗んで姿を消したというわけです。」
「1つだけですか?」
「ええ。1つだけ。金銀や持ち運びやすい物もありましたが一切手を付けずです。」
「何か凄い豪華な物をってわけでは?」
「盗まれたのは骨董品です。錆びて切れないナイフ。古くから存在はしているが由来も由緒も無い代物、歴史的にみて古いからとっておいただけです。」
「なんでまたそんなもの。えっと宝物庫って厳重なんですよね?」
「とりわけ生命線ですのでそれはもう。」
「謎ですね。」
「そうだな。」
団長と副団長は当時を語っているようだ。
「2回目の召喚の儀の話は以上です。1回目と2回目の経験から召喚などしない方がよいとの意見が大多数で可決となりました。」
「それじゃ俺達が来たのはどうしてですか?」
そもそもの話だ。呼ばなくていいのに呼んだのだから理由があるんじゃないか。
「それは……。」
ミラ宰相が言葉を選んでいるようだ。そこへデール国王から、
「よいグレゴル。すまぬな今回はわしの独断で召喚の儀を行った。」
「いえ陛下。陛下がお決めになったのですから私どもは何も。」
国王が決定したのならそれは国の決定だ。
俺はデール国王に尋ねる。
「理由をお聞きしても。」
「昨日も話した通りわしは災厄の危機を防ぎたいと思っている。ただそれだけだ。」
やはりズバッと言われた。
「この国が好きでな。建国300年で潰えさせるわけにはいかぬ。」
虎は子供を大切に育てるという。猛虎王の二つなだっけかなるほどな。