城下町でのイベント1
2日目がスタートです。まだまだ生活には慣れない日々が続きますぞ!
昨晩同様に席へつき運ばれてきた朝食をいただく。
メニューはパンとスクランブルエッグに見える黄緑の何か、ハムサラダ、ミルクだった。
気になったのでスクランブルエッグを女助司祭さんに尋ねてみたところ『エルイ鳥』という種らしい。味は卵のそれ。一応鶏もいるそうだ。
一通り食べ終えて今日について話を聞く。
「本日はこれより城にて国王様よりお話がございます。後程迎えが来るとのことですのでお部屋でお待ちください。」
「わかりました。」
部屋に戻ると俺はラルゴへ声をかける。
「異世界二日目というか、今日から本格的なことになっちゃうな。」
「うん!がんばろう。」
ほどなくしてノック音。
「はーい。」
ラルゴが扉を開けると女助司祭さんが立っていた。迎えが来たらしい。
出口まで行くと1台の馬車が止まっている。御者の人とあれは……。なんとアリア=ミラさんではないか。
今日は栗色の髪をサイドアップでまとめている。
服装は軽装というか一式支給されましたという感じだ。腰に差している剣と雰囲気がマッチしている。そうまるでエプロンにお玉、白衣に聴診器的な。
「剣。アリアさんは武闘派だったのか……。」
「どうしたのヤスツナ?」
「いや思いだし憂鬱だ。」
「おはようございます。」
こちらに気付いたアリアが声をかけてきた。
おはようございます。と俺とラルゴ。
「本日は私が救世主様達を道中、及び城内のご案内役を務めさせて頂きます。」
アリアは胸を張りビシっと直立で言う。ドキドキしているとラルゴから、
「えっと、ミラさん。救世主という呼び方やめてもらえませんか。」
という提案がでた。
「しかし、その……。」
ラルゴはジッと嘆願の目を向ける。
「いえ、ですが、それは……。」
クールビューティーの印象だったアリアはあっちこっち目を逸らして言いよどむ。困惑しているのがはっきりとわかるぜ。ラルゴのキラキラ凄し。
しかしこのまま見ていたい気もするが先へ進もう。
「ミラさん。正直"救世主"ではなく名前で呼んでいただけませんか。ちょっと恥ずかしいんですよ。ミラさんも突然大勢に救世主様って呼ばれたらちょっと困りますよね。」
「そ、そうですか。失礼しました。ではエクス様、ドウジギリ様。参りましょう。」
ガタガタ進む。昨日ラルゴと夕日の町を見ていた先へ。俺とラルゴは横並び、俺の前にアリアが座る形で進行中。
ラルゴは馬車の窓からニコニコと外を見ている。
「昨夜は――」
アリアの声に俺とラルゴは注目する。
わたわた手を顔の前でふっている。
「いやその、えっ~と……。」
ん?。どうしたんだ顔赤くして俯いたぞ。もう俺の中でクールビューティーの印象は薄れていく。
「ミラさん大丈夫?」
心配そうにラルゴが声をかける。
「は、はい。大丈夫でしゅ。」
噛んでるぞ。ゴホゴホと咳までしてあたふたしすぎだろ。
「あー、ラルゴ君ここまかせる。ちょっと飲み物買ってくる。」
「うん。わかった。」
俺は後ろ窓越しにコツコツ叩き御者に合図を送る。
「すみません。ここらで飲み物はどこで買えますか?」
「この辺ですと、そうですねー、今馬車用通路にいますから、そこの脇を抜けると商店街にでますんで目につくと思いますよ。」
どうも。と俺は駆け足に示された道を抜ける。本当は後でゆっくりみておくつもりだったんだがな。
俺は大通りにでると足を止めた。
馬車用通路だったとのことで台数制限がありあまり人も目につかなったが、大通りは人があふれていた。
「すげー……。」
ザワザワガヤガヤ。騒音ではない。活気がある声だ。
――へい、らっしゃーい!お買い得だよ!
――お目が高い。ちょっとここらじゃ手に入らない品ですよ!
――新鮮だよーみてって~
近くで威勢のよい声や笑い声が聞こえる。
――せっかくの王都に来たんですものあそこ見て行きましょう
――買って買って~
「テンションあがるな~!」
おっとそうだ。近場の飲食関係を探そう。
俺はキョロキョロ辺りを見回す。
「お!そこ行く兄ちゃん。王都は初めてかい?どうだね1本。おいしいよ!」
「ん、俺か?」
「そうそう兄ちゃん。君だよ。どうだいギャラの串焼き!」
鉢巻を巻いたオジさんが声かけてきた。
ゴクリ。朝飯は食べたが香ばしい匂いが刺激する。
「いやぁ今はいいです。そうだオジさん。飲み物扱ってませんか?」
「お?午前中から麦酒かい?」
「エール、いや酒じゃなくて。水とか、ジュースいや……果実系のやつ。」
「なんだい果実水か残念だな。ここにはねーが、ほら2件隣の果物屋見えんだろ?あそこで絞って売ってくれるよ。」
見ると店先で髪を二つに縛った女の子が呼子をしているところがある。
「オジさんありがとう。後で絶対買いにくるか!」
「お、ありがたいね!いいの取っておくよ!」
オジさんにそう言って俺は果物屋に足を運ぶ。
「お兄ちゃんいらさい~。とれたてですよー」
若干したったらずな女の子に果実系の飲み物について聞く。
「やぁ、ここで果実水にしてもらえるって聞いてね。すぐできるかい?」
「あいあい。できますよ~。おかーちゃーん。おかくさ~ん。」
店奥に声を出して恰幅のいい女店主が出てくる。
「はいはい。お客さんね。どうも~。どれにしますか?」
どれか。俺の世界と形は同じだが味と色が違うのがところどころある。面白いな。
「すぐできるやつでおすすめありますか?」
「全部おすすめ!って言いたいが、そうだねぇ~。今日はとれたてのブドウとちょっと熟したリンゴの併せ水がおすすめだよ。」
「じゃそれお願いします。」
「はいよ!何人分入用かね?」
せっかくだし俺たちの分もいいか。喉につまってるわけじゃないしな。
「3人分で。」
「すぐできるから店の中見てってよ。」
俺は店の中の品を見て回る。文字が読めないが赤紫、水色や黄色などカラフルだ。
言葉は普通に通じるが文字か。覚えておいた方がいいのかな。うーん。
ふと同じ形の文字を見て俺は焦る。これは品名と値段だろう。
「やば、金……が無い。戻るか?」
今更だった。スーツ姿の俺は普段財布はカバンの中で飯や飲み物は小銭入れで済ませていたのだ。
買うって言って来たのに金がないとか度忘れにも程がある。
「はいお客さんお待ちどうさま。」
なんてこったい。金が無く取りに行くとなると遠くはないが冷やかしの類になる。
「3人分だから75ルクだよ。」
「あーっと。」
どうしようかな、とってもどうしようもない。正直に言おう。
「すいません今――」
とそこへ聞き覚えてのある声が。
「もし。救世主様。」
振り向くと店先に女助司祭さんが立っていた。
「え?どうしてここに……。」
「お忘れ物です。」
と近づいてきて袋を渡される。
「これは?」
と中を見るとコインがじゃらじゃら入っている。
「この国の貨幣です。司教様より預かっておりました。」
お金を手に入れた!となんとありがたいことか。
「ありがとうございます。助かります。」
平伏の勢いで俺は頭を下げる。
「えーっと、救世主様?って……」
女店主が訝しそうに聞いてきた。
「いえ、なんでも。75…ルク…ですよね。えっと。」
じゃらじゃらしてる袋を女助司祭さんに向ける。
「お手を煩わせますが、どれしょうか。」
袋に片手をいれ必要数を取り出し女店主へ渡す。
「ありがとうございます~。」
「ありがとうござま~す。」
店先で送られ俺と女助司祭さんと大通りへ戻る。
「いやぁ助かりました。金もないのに買い物とかひどい話ですよね。ハハハ…はぁ…。」
乾いた笑いがでる。
「いえ。こちらもお渡しするが後だったもので。」
聞けば謁見後に渡す手筈だったようだ。買い食いするとは思ってなかった様子。
「では。失礼します。」
スーッと雑踏へと消えていった。
「不思議な人だ。着ているのは修道着だが中身は忍者か何かだろうか……。」
さてと。俺は馬車へと戻った。