第五話 同じ問
模擬戦のあった一週間後。
今日も大河は懇願される形で、指導をしに来ていた。
魔法空間の中で大河は、外から持ってきたベンチに座り込みながら二人の練習を眺めていた。そんな大河の元に由依が作ったばかりのスポーツドリンクが入れられたボトルを持ってやってくる。
「はいどうぞー」
由依は満面の笑みでスポーツドリンクのはいったボトルを大河に手渡す。
妙に嘘っぽさのある笑顔のように感じた。一瞬何かの罠なのでは? と大河は疑うようにボトルを見てしまう。だがすぐに、フェアリーダンス部の中で唯一何を考えているのかわからない相手に警戒しても無駄だと悟り、素直にボトルを受け取った。
「ありがとうございます」
「体を動かしてなくても喉は渇くからね。水分補給をしないと」
ごもっともな意見に納得しつつ、大河はスポーツドリンクを飲む。冷たい液体が喉の渇きを少しだけ潤してくれた。
由依はその様子を眺め口の端に笑みを浮かべる。そして大河の隣に腰を下ろし、栞たちの練習を眺め出した。ただし、それは表面的にだった。
一応練習の様子を眺めているものの時折ちらちらと大河の様子を窺っている。何か言いたくて仕方がない、といった風に大河には見えた。
そんな挙動不審な由依に遠回しな言い方をせず、大河は直接的に尋ねた。
「何です? そんな風にちらちら見られてたら気になるんですけど」
「あははは、やっぱり気づいちゃってるかー。大河くん、ごめんね」
「別に謝る必要はないですよ。気になるだけであって実害はないですから――で、何か尋ねたそうにしてますけど、言いたいことがあるんだったらさっさと話してください。今なら都合のいいことだけなら何でも答えますから」
原因が由依にあるとはいえ、大河は自分の物言いが失礼だと気が付く。しかし、大河が謝罪の言葉を言う前に、由依は気にした素振りを見せることなく尋ねてきた。
「じゃあ、お言葉に甘えて尋ねさせてもらうけど、ぶっちゃけ君から見てしおりんと樹君はどう映ってる?」
「どうって何がですか?」
「それはもちろんフェアリーダンスプレイヤーとしての実力だよ」
「ああ、そういうことですか……そうでんすね。お世辞と本音のどちらが聞きたいですか?」
その言葉だけで由依はあまりいいことを言わないなと察した。
あまりはっきりしたことをあえて言わず、大河のように選択肢を用意してくるということは人間の心理的には褒めることが少ないということだ。もしも本当に褒めるようなことを言うのであれば、わざわざ選択肢を用意せずに話すはずである。
しかし、由依は選択肢を突き付けられても迷うことはなかった。
「じゃあ、本音の方でお願い」
予想外の言葉に大河は大きく目を見開き驚く。
明らかにわかる大河の変化に、由依は可笑しそうに笑いながら呟いた。
「そんなに意外なことかなー?」
「……はい。由依先輩はお世辞でも良いから褒められたいタイプの人だと思っていたので意外でした」
「そう、かな? アタシって意外と灰色よりも白と黒で分けて物事を考える方だよ。中途半端なのが嫌いだからね」
「なるほど、だから栞先輩とかみ合ってるんですね。理由がよーく分かりました」
「私は熱血馬鹿じゃないよ?」
「そういう意味じゃないですよ」
もちろん由依も大河が言わんとしていることは理解している。
性格や趣向が一致しているのではなく、方向性が同じ場所を向いているといっているのだ。
「まあ、しおりんとは付き合いが長いってのもあるんだけどね。でさ、君から見てしおりんたちがどう映っているのかを聞かせてよ」
「わかりました」
練習を続ける栞たちの様子をもう一度眺めながら、大河は由依の問いに答え始めた。
「はっきり言うと無茶苦茶ですね。俺がいる時は良いですけど、いない時の練習を聞くと頭が痛いです。だって、自分が得意なことしか練習をしていないんですよ」
「ああ……確かにそうだよねー。しおりんは得意分野を中心に練習してる。特に射撃練習とか高威力砲撃の練習とか」
由依の納得する顔を見て大河は話を続ける。
「別にそれが悪いわけじゃないんですけどね。自分の武器を磨くことはいいことですから。でもそれだけじゃ基礎的な部分が欠けます。栞先輩のポジションは狙撃手ですけど、フェアリーダンスって言うのは競技の性質上、常にフィールドを動き回ります。ですから、基礎体力を上げるためにランニングをしたり、沼地や崖といった足場の不安定な場所でのトレーニングが重要なんですよ。なのに栞先輩はそれをしていないんですよ」
「アタシが言うのもおかしいけど、反論の余地がないよ。私はまだフェアリーダンスについて詳しくないけど、大河くんの言っていることがフェアリーダンスに置いてどれだけ重要かっていう程度の知識はあるから、ぐうの音も出ないよー」
本音を聞きたいといった時から覚悟をしていたとはいえ、痛いところを思いっきり突かれ由依は軽い頭痛を感じ、額を押さえる。
その様子を見て話していた大河も、自分がどれだけきついことを言っているのかを認識させられる。とはいえ、本音なのだから彼女のためにも事実を捻じ曲げるわけにはいかない。
しばらくしてから頭痛が引いた由依は、顔を上げ大河の顔を見る。そして恐る恐るといった風に尋ねる
「ほ、他には何かある?」
「悪いところはそれぐらいですかね。他に言うことがあるとすれば、栞先輩も樹も身体的な部分を除けば、それなりに実力があると思います。詳しいことはわかりませんけど魔法技能だけなら、ある程度の水準には達しているようですから――ただ」
「ただ?」
奇妙な区切りに由依は小首を傾げる。
わざとらしく間を置いてから大河は呟く。
「それを戦闘スタイルにまで昇華させられていませんね。ああでも、樹のほうはそうでもないですかね」
「ええっと、つまり、しおりんは戦い方が下手ってこと?」
「そうですね。高威力砲撃魔法が当たればどうにかなると思っているように見えます。確かに強い魔法を使えることはそれだけで武器になります。けれど、その魔法に繋げるまでの戦い方が身についていないです」
どれだけ強い魔法を使えたとしても、それを生かすことができる土台となる技術がなければそれは宝の持ち腐れだ。RPGゲームで強い武器は持っているけど、それを扱えるだけのレベルに達していないようなものだ。それでは結果を試合で残すことができない。
由依も大河の言いたいことを理解したらしく、再び頭を押さえている。
そんな由依の気持ちを屋我下用と大河は口を開いた。
「それなのに、休憩時間中に勝負を挑んでくるんですから、良い根性していますよ」
はあ、と大河は本気で疲れたため息を吐く。
由依も目撃していることだが、栞は休憩時間になるとよっぽどこの前の模擬戦で負けたことが悔しかったのか、何度も勝負を挑んでいる。もちろん少し練習した程度で、大河との圧倒的な実力差が埋まるわけではないので返り討ちにあっているのは言うに及ばずのことだろう。
由依は苦笑しながら、大河の疲れた表情を見る。大河の顔には面倒くさいとか、勘弁してくれといった感情があった。しかし、由依は大河の表情がただ疲れているわけではないということに気が付く。
それが一体どういった感情なのかは分からなかったが、次の大河の言葉で思い至った。
「まあ、今は無理でもこの先自分らしい戦い方が出来上がれば、試合に勝てますよ」
「そっか、勝てるようになるのか! うん、うん! 大河くん、本音を話してくれてありがとう」
「いえ、由依先輩の頼みですからね、無下にはできませんよ」
素っ気ない態度をとる大河だったが、由依は照れていると感じた。
その証拠に大河の口の端が緩んでいる。誰から上手も強がって照れた表情を隠していることがバレバレだ。
そんな大河の様子を微笑を浮かべながら、
「大河くんってさ、口ではフェアリーダンスをもうやらないとか関わりたくないとか言いながら、誘われたら断ってもいいのに練習を見に来ているし、今みたいにしおりん達の練習状況も教えてくれる」
「……先輩に頼まれたら断れませんよ」
「そうなのかもねー。大河くんは頼まれたら断らない。そういった性格をしているからかもしれない」
しかし、由依は大河の言葉を肯定したうえで言う。
「でもねー、それって未練があるからじゃない? 君がフェアリーダンスをどうしてやらないのかはわからないけれど、未練があるから関わろうとしていることだけはわかるよ。現にフェアリーダンスの話をしている時の大河くんって、面倒くさそうな風を装っているけど凄く楽しそうにしてるし」
「そんなことは――」
「――あるよ。だって、君がフェアリーダンスの話をしている時とても生き生きしている。だからきっと未練があるんだよ」
大河の言葉を遮り、由依ははっきりと告げる。
焦りのような表情を浮かべる大河の顔を見ながら、由依はさらに言葉を続ける。
「だからこそ言わせてもらうよ、大河くん。今みたいな気持ちで栞たちのフェアリーダンス部に入部したくないって言わないで。君の本心から見える栞たちを見てしっかりと判断して」
そして最後に好付け足した。
「お願い。真摯にフェアリーダンスをやっている栞たちを裏切らないで」
先程まではっきりと話せていた大河は返す言葉を見つけられず、口を噤ませる。ただただ自分の心の中で反響する由依の言葉の真意を考えていた。
♪♪♪
由依との会話の後、栞たちが休憩をしようとするタイミングを見張らかって大河は鴨井高校フェアリーダンス部を後にした。
もっと練習を見学してほしそうな表情をしていることに大河は気が付いたが、由依のあの言葉が胸を刺しそれどころではなかった。
一刻も早くこの場から離れたい。自分の中の何かが崩れそうになる。そんな不安に駆られ、魔法空間から逃げるようにして去った。
しかし、帰路につこうとしていた大河を阻むかのように、教室との角を曲がったところでフェアリーダンス部の顧問であるリーシャと出会う。
「おや、轟クン。もう帰るんデスカ?」
リーシャは意外そうな声を上げる。
驚くリーシャに、大河は素っ気ない口調で、
「そうですよ。練習を見てるのも飽きたので――それで、何か問題でもあるのでしょうか?」
失礼と受け取れる言葉に、リーシャはたしなめるように厳しい口調で指摘することなく、大河の問いに対して首を横に振る。
「いいえ、特に問題はありマセンヨ。ただ――頼まれたら断れない君のことですから、頼まれたからには最後までいるものだと思っていました」
「俺はそこまで人情に厚くありませんよ」
これまた素っ気ない態度で大河は言葉を返す。
しかし、リーシャはこれまたたしなめるようなこと何も言わず、大河の顔をじっと見つめ薄く笑い出した。
「ふふふ、それにしては賢宮さんとの約束を守って、昨日も今日も練習を見に来てくれているではありマセンカ。これが義理人情に厚いといわずして何といいマス?」
「相手をするのが面倒くさいだけですよ。練習さえ来ていればそれ以上突っかかってくることはないですから」
「ふふふ、そうデスカ」
あくまでも義理堅いことを認めようとしない大河に、リーシャは薄く笑う。
「まあ、そういうことにしておきましょう。ところで、彼女たちの練習はどうデスカ? これから様子を見に行こうと思うのですが、私はフェアリーダンスについては素人ですから何とも言えなくて」
「あー……そのことですか、はあ」
大河は疲れが混じったため息を吐きながら、体育館裏の練習場の様子を思い出した。リーシャは今のため息が一体何なのかわからずに首を傾げる。
やがて、考え込んでいた大河は慎重に言葉を選ぶようにして話し始めた。
「さっき、由依先輩にも話したんですけど、基礎的な身体能力が鍛えられてません。あれじゃあ、せっかく一等級の武器は持っているのに惜しいです」
なるべくやんわりと伝わるように心掛けた大河だったが、リーシャの表情からどれだけやんわりと伝わったか読めなかった。変に彼女は察しの良いところがあるので、もしかしたら今大河が話した以上のことを想像しているかもしれない。
別に悪いことではないのかもしれない、と大河は思う。だがただでさえメンバーの足りないフェアリーダンス部で必死に試合に勝つために練習をする栞たちの心を折るようなことを言いたくはなかった。
由依には頼まれたから大河も本音で話したし、フェアリーダンスから遠ざかっているとはいえ隠し事なく事実を伝える性格である大河でも、栞たちのような状況を知れば気を使いたくなる。
しばらくして黙考を終えたリーシャは、眉間にしわを寄せた表情で口を開いた。
「なるほど、気を使われていることが丸わかりデスネ」
「あははは、気を遣っているのに見事にぶった切りましたね。はあ……」
先ほど以上につかれたため息を吐く大河をまるで気にすることなく、リーシャは淡々と語る。
「私は中途半端、曖昧、グレーなことは嫌いなんデス。白黒をはっきりとつけたいタイプなんデスヨ」
「由依先輩と同じなんですね。気を遣って損をしましたよ」
やれやれとばかりに大河は額を叩く。そして澄んだ双眸でリーシャを見据え、一瞬だけ先ほどまでいた体育館裏の方へ視線を向けた。
「これで先輩たちへの義理は十分に果たしましたよね」
「つまりもう来ないということでデスカ?」
「ええ」
一瞬すら迷いもせずに答える大河を、リーシャはつまらなそうに見る。それはまるで期待していたことに裏切られたような顔つきだった。
何を期待されていたのか大河には容易に想像がついた。しかし大河はその期待に応える道理も理由もない。むしろ、ここまで付き合えばもう十分だろうという思いがあった。
「残念デス。経験者の君がいてくれると色々と助かるのデスガ。ねえ、そう思いませんか――かつてジュニアの部フェアリーダンス世界大会優勝者の轟大河クン?」
「――はあ、面倒な先生ですね。わざわざ調べたんですか?」
大河はため息を吐くだけで、表情を少しも変えない。
その反応にリーシャは先ほどとは違った意味でつまらなそうに見る。
「少しは驚いてくれませんカネ――ええ、君の言う通り少し調べさせていただきマシタ。少し手間取るかと思ったのデスガ、案外簡単デシタ。君の名前を検索エンジンにいれるだけで、すぐに見つかりましたカラネ」
「驚けと言われても、いつかはばれることだと思っていましたし――で、何が言いたいんですか? さっきからわざと本題から一歩離れた場所で話しているように聞こえるんですよ。さっさと要件を言ってくれませんか」
教師に対していらだちを隠しもせずにぶつける大河の物言いに、リーシャは怒らなかった。むしろ楽しげに笑っている。
それは大河を弄ぶことができたからではない。表だって真意を確かめるのではなく、試すようにして真意を確かめる自分の言動に気が付いたからだ。
リーシャは笑みを浮かべたまま、ピリピリとした空気を纏う大河をまっすぐに見据えゆっくりと告げる。
「簡単デスヨ。先ほど話した通り私は白黒をはっきりと着けたいんデス」
「どういうことです?」
「今の君は実に中途半端デス。出水クンのように入部する気持ちがあるのであれば私も文句は言わないデス。デスガ、君は違う。入部をする気はないのに部活の見学に来る。はっきり言って邪魔なんデスヨ」
リーシャの言葉通りだった。
大河はフェアリーダンス部に入るつもりはない。栞や由依、樹に頼まれているとはいえただ見学することは、相手に期待を持たせ冷やかしているようなものだ。そしてそれは人をだましていることと同じである。
大河にそんなつもりはなくとも、傍から見れば彼は人を裏切っているのだ。
「安心してください。さっきも言いましたけど、もう部活にはいきません。義理を十分に果たしましたから」
「それならいいんデスヨ。デスガ――先ほどからあなたが言っている義理とは何デスカ?」
今まで見せていた笑顔を消し、きつい眼差しで睨むように大河を見据える。まるで、大河の本心を見透かそうとしているかのようだ。
それでも大河は表情を変えることなく、けろりとした表情のままリーシャの言葉に耳を傾け続ける。その様子がリーシャには、自分を守るために必死に何かを押さえ続けているように見え、少しだけ追求の手を緩めそうになる。しかし緩手に路線変更しそうになる気持ちを振り払い、再び口を開いた。
「あなたの義理は果たしてただの義理人情でしょうか? 違いマスよね? 本来ならあなたは義理などではなく頼みを果たしたというべきです。なのにあなたは義理という」
リーシャは一拍を置く。
「あなたの義理とは何か? 考えられる筋があるとすれば、自分をまたフェアリーダンスという世界に引き戻してくれたという恩義に対する義理デスよね?」
「――、」
そこで大河は初めて、目を驚きで大きく見開いた。
「違いマスか? 私はあなたがまだフェアリーダンスに未練を持っていて部活を見学しに来ているようにしか見えないのデスヨ」
「違うっ!」
今まで黙ってリーシャの話に耳を傾けていた大河が吠えるように叫びながら口を開いた。
嫌だ。聞きたくない。
そんな拒みの色が言葉に宿っている。
言葉だけでなく、開いた瞳孔には明らかに拒絶の情念が見えた。
しかしリーシャは追及の手を緩めず、言葉でさらに距離を詰める。
「いいえ、あなたには未練がありマス! 先ほど私が彼女たちのことを尋ねた時も、ちゃんと答えてくれたではないデスカ! あなたはフェアリーダンスに興味がないと言い張りつつも、実際は今も昔の気持ちを持ち続けているンデス!」
「違うっ! そんなことない! 俺は……俺は、ただ――」
ただ何だというのだろう? 大河は紡ぐ言葉が見つからず、リーシャから逃げるように目を逸らす。
反論するための言葉が思いつかない。必死になって自分の頭の中に記憶されている語彙から、リーシャの馬鹿げた言い分をねじ伏せる言葉を探し出そうとするが、どれだけ時間をかけても何も出てこない。
ただ目を逸らして逃げることしかできない。
ふと、そこで大河は我に返った。視界の端で職員棟の物陰から二人の様子を窺うようにして見ていた栞の姿が映ったからだ。
「栞せん……ぱい」
「あ、えっと、ごめんっ! べ、別に盗み見てたわけじゃないよ。ただ、リーシャ先生が話しがあるからって言っていたのに、あまりにも来ないから様子を見に来ていただけで……えーと、言い訳にしかならならないよね……あははは」
大河もリーシャも栞が故意に話を聞いていたわけではないというのは理解できている。物陰に隠れて話を聞いていたことを咎めることも、責めようとは思わない。
リーシャは今まで周りに掛けていた圧力をふっと消し、温かい笑みを浮かべる。
「お待たせして、すみません。雛森サンと出水クンには後で伝えるとして、ちょうど良いですからここで二人にお話をしましょうか」
「俺も……ですか?」
「はい」
リーシャは長い金髪を揺らしながら首肯する。
部員ではない自分に一体何のようなのかさっぱり見当のつかない大河は、首を捻りながら栞のほうに視線を向ける。栞も栞で何の話なのか想像ができずに首を傾げてしまっていた。
そんなある意味意気投合している二人の様子を可笑しげに眺めながら、リーシャは話し始める。
「実は、急ですが明後日の日曜日に練習試合を組みマシタ。対戦校は岩間高校――なのですが、うちは絶賛メンバーが足りていません。そこですが、轟クンに助っ人として試合に出場して頂きたいのデス」
さっきの今でよくそんなことを言えるな、と心の中で突っ込みながら、落ち着きの戻った大河は首を横に振る。
「もう俺はフェアリーダンスをやらないといったはずですよ」
「安心してくダサイ。君はあくまでも助っ人ですから、試合場で突っ立っているだけで構いマセン。万が一助っ人に何かあれば私の責任になりマスカラ」
「いや、でも……俺は――」
「大河くんお願い!」
断ろうと言葉を探していた大河に、栞は必死な顔で懇願してくる。出会ってからまだ一週間もたたないとはいえ、彼女のフェアリーダンスに掛ける思いの強さを知る大河には、これまでで一番の思いが言葉に込められているように思えた。
さらにそれなりに整った顔立ちをしている女の子に上目遣いに見られ、大河は顔を赤くして視線のやり場に困る。視界の端でお菓子層に自分のことを見るリーシャの顔が見えたが、今はそのことに対処する余裕がなかった。
そして、大河はさんざん悩んだ末、
「わ、わかりました、出るだけでますよ」
「ありがとう、大河くん」
こうして大河は練習試合に出ることになるのだった。