6
「…ならいいが、話がある」
来い、と言って扉を開いたまま向こうの部屋へと去っていく。
私も聞きたいことがある。男の後を追い、部屋を出た。
男は先に座っていて、向かい合うようにして椅子がある。ここに座ればいいのかな。
椅子に座ると、男は腕をテーブルに置き、私を見る。
(お、抑えろ私、萌えとか考えるな、冷静になれ…)
「まずは名前からだな、俺の名前はヴァズレイだ」
「昨日も言いましたが、成井美佐子です」
「ああ、そうだったな。なるいみさこ?でいいのか」
(もしかして名字も名前と思われてる?かわいい…ちがう、違います)
「あ、成井が家名で美佐子が名前です」
「そうか」
「バズレイさんでいいですか?」
「ヴァズレイだ」
「バ…ば…ズレイさん…」
(い、言えねーー)
ヴァズレイさんはため息をついている。いや、こんな発音滅多にしないからむずいよ!てか何が違うの?!
「知り合いにはよくレイと呼ばれている」
「…すみません、うまく発音できないので、私もそう呼ばせてもらいます…」
名前もわかったし、話を変えよう、聞きたいことがある。
「あの、なんで助けてくれたんですか?」
「元々助ける気はなかった」
(おい)
「だが、お前の髪が黒かったからな」
(…What?)
「えーっと、髪が黒かったから助けてくれたんですか?」
「そうだな」
(えー茶髪だったら見殺しだったのかよ、黒髪でよかったけど…)
「なんでですか?」
普通に疑問になることだ。何か訳があるのか。
少し眉を顰めて私を見てくる。なんだか探られているような視線が少し怖い。
「黒は魔力を宿すとされる色だ、偏見や差別に晒されやすい。だからだな」
「…」
ファンタジー…魔力って、これ魔法ある感じだな。
(でも、差別って?イメージ的に魔力って魔法を使うとき必要なんじゃないの?嫌厭されることなの?寧ろ憧れるようなことだと思うのだけど…んー?この世界では違うのかな?)
「あの、魔力を宿す?ことは悪いことなんですか?」
よくわからないため、尋ねてみると、は?っと言わんばかりな片眉上げをされた。
「…お前は閉じ込められてたのか?世間知らずにも程がある」
テーブルに置いていた腕を組み、レイさんはどかっと椅子に寄りかかった。
「…まぁ色んな事情を持ちやすいからな」
仕方ない、というような口調だ。
確かに色んな事情を抱えてますよ、この世界の人間じゃないし。
「基本的なことから話すか…まず、人間の扱う魔法は精霊の力を借りるものだ。そして魔物や魔族は魔力で魔法を扱う。
さっきも言ったが黒は魔力を宿すとされる色だ。だから魔物は瞳が黒い。魔族も瞳か髪が黒いが魔法で色を変えていることが出来る。人間に紛れるためにな。
話は戻るが、精霊の力を借りるにはその度に誓約が必要だ。しかし必ず力を貸してくれる訳ではない。それに土地によって精霊の性質が異なるからな。扱うのには才能と時間が必要となる。その点、魔力は自己の体内で作り出すものだ。魔力は契約や才能が必要じゃないから便利だろうな」
手間がかかるのが精霊。パッと使えるのが魔力。ここまで聞いていると魔力の方が便利そう。
(…なんか想像できて来た…もしかして…)
「…………魔物も魔族も気性が荒い…人間を襲い、殺す。意味もなくな。魔物でも長く生きてるのには理性があるのか、こちらから何もしなければ害はないが、基本襲ってくると思え。
…魔族の中には人間の話を聞くやつもいるにはいる。人間と一緒に暮らしているやつもいる。けれども大抵は自己中心的な奴や、好戦的な奴ばかりでこちらを殺しにくる。
はっきり言って魔力を持つものに対しての認識は最悪だ。…もうわかったとは思うが、人間でも魔力を持つものは髪や瞳が黒くなる。推測だが、人間は魔物と同じく体内の魔力が溢れて容姿に影響するんだろう。それで黒を宿す人間は人間として扱われないことが多い。魔物や魔族と同じ力を持っているわけだからな」
だから黒は忌み嫌われる、そう言い口を閉じた。
(やっぱりなーーーー!!!)
さっきまで黒髪でよかったわー茶髪にしてたら見殺しにされてたわーラッキーって思ってたけど、全然だわ。どうするよ、私、どうする?ひょろって人前に出たらやばそうな感じ。
気付いたら頭を抱ていた。まぁ抱えたくなるわ…どうしよ…
「…本当に知らなかったんだな」
その言葉に俯きながらも頷く。
「安心しろ。俺は別に嫌ったりはしていない」
「え、なんで、」
思わず顔を上げる。
「初めに言ったが、黒髪だったから助けた。黒を宿していれば、家族からも差別される。無論周りからもな。だがそれはまだいい方だ。黒を宿しているとわかったら大体は生まれたときに殺されるからな。それに生きていても無理やり契約…隷属の契約を交わされて好き勝手に扱われることもあるからな」
「壮絶すぎだわ」
これが色んな事情のことかっ!
「はは、そう思うか。だがそれが当たり前なんだよ」
あきれたような、悲しいような声だった。
「お前を見たとき、馬鹿が迷い込んだと思った。こんな森の奥にな。だが、よく見ると黒い髪だとわかってな、助けた」
「…よく暗かったのに黒髪ってわかったね」
「普通の眼じゃないからな」
目元をちょんと指で指し、悪戯が成功したように笑う。
…わらった…?!ぬおおおおかわいいよ!おっさん!!ギャップ萌えだわ!おっさんの面してるのに、そんな風に笑いやがって…私をどうする気だっ!おっさんの沼に沈める気か?!
「それでも本当に黒髪なのか疑ったが、なんか喚いていて、おもしろそうだったからな。…寧ろこっちのほうが理由か?」
「あの、懸命に叫んでたんですけど?」
「ははは、すまん」
く…む、胸キュンが…鎮まれ、鎮まれ…
「で、本題に入るが、あんたどっから来た」
きちゃったよ、この質問…スルーしてくれたらよかったのに。
…これ正直に答えて大丈夫なんすかね?