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幸せになりたい。  作者:
4 別れと梅雨
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 ひとしきり泣き終えて、気持ちが落ち着く。レイさんに濡れたガーゼみたいなもので顔を拭かれる。


(…抱っこされて、泣いて、拭かれるって私は赤ちゃんかな?)


 段々と冷静になってきた。ここにはギャビンさんもいるんだよね?


(人前で介護されている姿を見られるとか羞恥プレイすぎる…)


 顔を拭いていたガーゼが鼻に当てられてなんだ?と思っていると「鼻をかめ」と催促された。え鼻をちーんしろと?はぁ…します。しないと離れない雰囲気を感じたので!大人としての何かを失ったような気がするのは気のせいなのだろうか…


「はい、これ持てるかしら?コップに水が入っているからゆっくり飲みなさい」

「はぃ…」


(ギャビンさん…私たちのこと見ていたはずなのに何も言わないその心遣い…聖人のようなもの私は感じてます…何も思っていないことを祈る…)


 ギャビンさんから渡されたコップで水を飲もうとしたけれど見えないからコップの蓋が鼻に当たった。でも距離感は掴めた!あとは任せろばりの気持ちなのにレイさんにコップを取り上げられて「飲めるか?」と唇の縁にコップを当てられた。


(一人でのめるよ!!!)


 過保護!という言葉がテロップのように頭の中で流れる。人前ですることなのでしょうか?私は、幼女だった…?いやないわ。多分レイさんは気を遣ってくれているだけ。そういうのは無碍にはできない…だから私も持てるアピールのためレイさんの手の上から私もコップを持って飲む。


(はーーうめーーーー!!!)


 冷たい水が喉を通っていき、体が潤されていく爽快感!ゆっくりと言われたのにごくごくと喉を鳴らして飲み切る。


「ありがとうございました」

「どういたしまして。ミサコ、お腹は空いてないかしら?何か作るわよ」

「いや、今はそんなに空いてないです」


 コップを多分ギャビンさんが回収してくれて、私もすっかり声が出るようになった。


「ミサコ、その…なんで切り出したらいいのかわからないから単刀直入に言うわ。何があったのか覚えてる?」

「…はい、覚えてます。あの、ポチは大丈夫ですか?あの子蹴られて…」


 蹴られた後、どうなってしまったのかわからなくて言葉が続かない。生きているのか、最悪死んでしまったのか、知りたくて知りたくない気持ちになる。


「ポチは無事だ。今は大精霊の住処で療養している」


 レイさんの返答に「よかった…」と安堵のため息がでた。ポチは生きている。そのことにまた涙が出そうになる。

 「はぁ…」と聞こえた難しそうなため息にちょっとびびる。ギャビンさんの気に障ることをしてしまったのだろうか。じっとしていると細い指が頬をそっと包む。い、いい匂いもする!


「同情なんてしたくないけれど、本当に可哀想なことになったわね」 

「可哀想なこととは…?」

「…話しても貴女は平気?貴女のことだから知っておくべきだと思うけれど…貴女は被害者よ、つらい話になるわ」

「私は知りたいです、何があったのか」


 手が離れ、きちんと話をきかないととレイさんの膝から降りて隣に座ろうとする。けれどレイさんの腕に阻まれる。


「レイ、隣に座らせてあげなさいよ」

「こいつに何かあったらどうする」

「隣に座らせるんだから直ぐ対応できるでしょ!」


 納得はしてなさそうな手つきで隣に座らせてもらった。レイさん…過保護…病んでいるのかな?心配をかけたのは認めざるを得ない。でもギャビンさんがいなかったらレイさん何でも危ないとか言って私に何もさせなさそうで怖いわ。

 なんとか座ったところでギャビンさんが話し始める。


「大精霊様とレイが貴女のことを助けた後に私のところまで来て匿うことになったの。ミサコ、貴女相当厄介な魔族に目を付けられたのよ」

「…あの、黒い髪の男の人、魔族だったんですね」

「そうよ。魔族の中ではとても…悪い意味で有名ね。魔族っていうのは好戦的で自分の都合のいいことしかしないのが多いんだけど、特に魔族の特徴を強く持っているらしいの…………………キツイことを話すけど、貴女に子どもを産ませようとしたのよ」


 鳥肌がたった。


「それ、どうしてですか…?一目惚れしたとか?」

「そういう感情があったなら…いえ、今のは聞かなかったことにして。

魔族には強い子孫を残そうとする本能があるの。魔族の社会は弱い者はいずれ淘汰され、生き残れないの。だから自分の血を残すために自分よりも強い魔力を持つ者との間に子どもを残そうとする…けれど、魔族ってプライドは高いから自分より強い相手に謙れないし、強い相手を見ると戦いたくなる面倒な性格持ち…ここまでで、子どもを残すのにとても面倒なことが多いのはわかったかしら?」

「えーっと…魔力の強い相手と強い子孫を残したいけど、プライドが高くて好戦的なこともあってスムーズに結婚できないってこと、ですよね?」

「そうね…結婚は、しないかしら…」

「え?」

「んー…結婚という概念がないのよ。強い子どもを育てるというパートナーみたいな関係になるのよ。だから子どもが独り立ちしたらパートナー関係は解消されて、また違う相手との間に子どもができることもあるそうよ」


 なんか、すごいな…私にはついていけない感性だわ。


「…魔族って恋愛感情とかあるんですかね?」

「…多分、あるんじゃないかしら?けれどそれを上回る本能には敵わないんだと思うわ。恐らく好きになっても自分の感情を理解できていないよの。…それで話は戻るのだけれど…魔力が強い相手というのは人間も対象よ。貴女は黒を宿しているわ。魔族でも黒髪で黒目な者は滅多にいないの。魔力が豊富というだけで貴女はとても魅力的というわけ」

「はぁ…」


 話について行きたいけれど、自分に関係のある話と思えない。魔力、魔法と言われてもピンとこない。かなり乱暴な目に遭ったけど、本当に私の体目的だったのだろうか?むしろ通り魔に襲われたと言われた方がピンとくる。目には目を歯には歯を精神で奴をぶん殴りたい。


「しかも貴女、あと少しで隷属できるほど魔力を流し込まれているわ。今付けている腕輪がないと居場所がわかってしまうくらいに」

「れいぞく?この腕輪は何なんですか?」

「隷属は…魔力を持っている生き物ができる魔法よ。隷属の刻印というのを体に刻まれるの。今体調が良くないでしょ?体調を崩しているのもあるけれど、自分とは違う魔力を流し込まれて体が拒絶反応を起こしていることも一因よ。魔力は時間が経てば抜けていくものだから安心しなさい。」

「わかりました。あの、隷属させられるとどうなってしまうんですか?」

「言葉の通り、刻んだ相手の配下になるわ。自分の意思とは無関係に体を操られる、それを貴女にしたということは…」

「その話はそこまででいいだろ」

「そうね…」


 言い淀んだギャビンさんにレイさんが話を切り上げる。多分とても恐ろしいことが続くはずだったんだろう。


「右手に付けた腕輪は魔力を吸い上げる上に魔力を隠蔽する機能がついているの。一定量の魔力を吸い上げると黒くなるわ。その腕輪を付けていると相手は自分の魔力を探すことができないから必ず外外してはいけないわよ」

「はい、ありがとうございます」


 腕輪に触れる。これが私の命綱!これからは早く魔力が抜けることを腕輪に願ってみよう。


「それで、これからのことなんだけど…レイと話して貴女は魔力が抜け切るまでここにいるということになったわ。あのまま家にいては危険だもの」

「そういえば、ここってどこなんですか?」

「ここは私の家よ」

「そ、そうなんですねーとっても綺麗な内装でした!」


 あの男の家かと思ったことは黙っておこう。


「私とレイさんがお邪魔して大丈夫ですか?」

「心配することはないわ。ただ、家から出ることはできないの。貴女が見つかったら無事では済まされないから。腕輪を外さないことと同じくらい大切なことよ。それとレイはこの家に留まらないわ」

「え!なんでですか、レイさん?」

「俺はお前たちに手を出した奴と会ってくる」 

「会ってどうするんですか…?」


 なんだか嫌なことが起こりそう。


「レイはこれから…貴女を襲った魔族を殺しに行くそうよ」


 は?


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