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幸せになりたい。  作者:
4 別れと梅雨
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 目を覚ますと見知らぬ天井。ここはどこ?

 こんな頻回に暗転後の状況に遭遇するなんて、私、前世でどんな罪を犯したんですかぁ…それに死んだと思ったら生きていた。ラッキーだけど死にかける経験はもう、二度としたくない。


(…ポチは無事なのかな)


 あんなに小さいのに、頑張ってくれた。私がこうして無事…少なくとも五体満足ならポチも無事な可能性が高いのでは?と明るく考えてみる。ポチの安否が知りたい。

 まずはこの状況を理解しなくてはいけない。そう思って一番に思い出すのはあの黒髪の男。あの仄暗い目、人を見下しているような威圧感、されたことを思い出すと体が少し震える。…いや違う、これは恐怖ではなく、怒りだ。臆してはいけない。いつだって助けれくれていたレイさんはいないんだ。頼りにしちゃいけない。私がやらないといけない。自分を鼓舞していると日本にいたときのような気分になってきた。この世界に来てからずっとレイさんに頼り切っていたなと思う。右も左もわからない状況でたった一つの正解のような存在だった。それは今も変わらないけれど、レイさんがいないからといって何もわからないままじっとしているなんてできない。私が決めないと進まない。

 何をされたのか思い出す。あの男、初対面の相手に何しているんだ、首締めが挨拶か?ポチにも酷いことをしやがって…お前の腹もぶん殴ってやりたい…首めっちゃ痛いし全身打撲したみたいに痛い。殺されたと思った。


「あの男ぜってぇゆるさねぇ…」

  

 喉がかさついて、凄みのある声が出た。か、乾きすぎっ!

 声を出したら喉の奥がひりつく。ポチの敵討ち、私の復讐の前に水があった方がいい気がする。あとここは本当にどこですか?あの男の家?首を動かして周りを見渡す。

 土で汚れていた服はワンピースタイプのパジャマに着替えられている。体は汚れた感じはしない。知らない白い蔦柄が刻まれたブレスレットが右手首に付いている…一部分が黒くなっている謎の配色だ。ふわふわで寝心地はいいけどお高そな感じがするベッド。ベッドサイドにお高そうな花瓶に生けられた花弁の多い綺麗な花。白地に家紋みたいなのが描かれた壁紙。向かいの壁際にアンティークな机と椅子。右を向けばこの部屋の扉、左を向けば窓の向こうに灰色の雲がかかった空が見えた。

 

(うち)ではないことは確か)


 知らない家。やっぱりあの男の家じゃないだろうな。緊張して汗が滲むけれど大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせる。落ち着こう、まだ何もわからない状況だ。行動しなくてはいけない。ポチの仇を討つ。レイさん、私頑張るから応援していてください!

 

(体が痛い!ぐわんってする!気持ち悪っ)


 気合を入れて勢いよく起き上がったら猛烈に吐き気を催す眩暈に襲われた。

 

「う゛ぇ゛っ…」


 胃の中に何か入っていたら絶対に吐いていた。


 











 吐き気が治ったところでずりずりとベッドから這い出ることを試みる。パンツが見えそうだけど誰もいないから気にしない!足をベッドの端に出して慎重に足を床に着けてから体をゆっくり起こしていく。


(気持ち悪い…)


 これは、あまり長くは立っていられないとわかる。

 窓の外を確かめたいけれど、部屋の外に出ることが優先。素足で壁伝いに扉の方は向かっていく。カーペットがふかふかで足を取られそうになる。贅沢な罠を仕掛けられた気分だ…

 ゆっくりと急ぎながら扉の前まで来た。ドアノブを回して、扉を開く。当たり前の動作を行おうと、ドアノブに手をかけた瞬間、青白い光がぴしゃりと起こり静電気のような鋭い痛みが指に生じた。思わず指を引っ込める。


(せ、静電気?!)


 もう冬ではないのに静電気が起こった。


(いや、今の光何?)


 異世界の静電気は光るのかーなんて思わない。普通に痛いし光らないことは経験済みだから。

 まるでここから出ることを邪魔されているような気がする。


(そう思うとすっっっっっごくムカつく〜〜〜!!!私を閉じ込めようってか?それはつまりここはあの男の家?!?!あの男ゆるさねぇ…!!!)


 私の頭の中に浮かぶのはあの黒髪の男!!!ここが、あの男のハウスね…!!!!お前をぶん殴るまで止まれない!!!!お前を倒す!!!!

 もう一度ドアノブを握る。さっきと同じことが起こる。だけどここで引かない。痛いのを無視してドアノブをひねり押す。けれど扉は開かない。次は引いてみるけれどやっぱり開かない。手が痛い…けれど離さない。


(…どんな小細工をしているのか知らないが、私はお前に負けない。この先に行ってお前を()つ。だから開けろ(・・・)


 そう固く決意して、倒れ込むように扉を押すと今まで出ていた静電気がぴたりと止み、扉が開いた。


「うげっ」


 そして私は勢いのまま床に顔から着地した。わー痛いー。カーペット敷かれててよかった…なかったらもっと痛かったと思う。

 べちゃっと潰れたまま顔だけ上げて辺りを見ると広くて静かな廊下。


(お屋敷…?)

 

 廊下を挟み、いくつかの扉が向かい合わせにある。片っ端から開けていくのは残された体力的に不可能に近い。


(私の直感に従うとあっち!)


 ゆっくりと立ち上がって突き当たりに近い方へ壁伝いに歩いてみる。


(こっちでいいのかな…)


 数歩あるいて直ぐに自分の直感へ不信感を抱きながらも次の扉まで頑張って歩く。歩くけれど、このお屋敷広すぎだと思う。次の扉までとても距離があるように見える。広くて大きいってこと?足を前に出しているのに近づいている気がしない。それに目眩のせいか、視界がぐわんぐわんする。目眩?私の頭がぐわんぐわんしているの?廊下が何重にも見えてきた。気持ちわるい。

 頭が一番強くぐわんとして、ふっとなったと思ったら天井が見えた。私、倒れかけてる?


(顔の次は後頭部かぁ…)


 受け身も取れずに倒れる。と、思っていたらぽすんと何かに支えられた。何か言われているけれど、耳に入ってこない。

 ぐわんぐわんする頭と視界、なんとか見上げてみたけれどはっきりと顔を確認する前に意識がなくなった。意識がなくなる前、少しほっとした。見上げて見えた髪の色は黒くなかったから。















………

………-…----

……-----------…---

………ーーーーーーーー、ーーー?」

「ーーー」

「ーー!ーーー!」

「ーーーー」


 話し声がする。私は今どこにいるんだろう。頭の後ろに固いものがある。話し声がするのに何か隔てるように声が聞こえて内容がわからない。現状把握すべきなのに目を開けるのさえ億劫な疲労感。他の人がいることへの緊張。ここがあの男の家なら話している人たちはあと男の仲間?けれどこの声、聞いたことがある。

 どうしようか悩んでいる間にそっと頭を撫でられた。髪を梳くような優しい触り方にレイさんのことを思い出す。


(レイさん…)


 レイさんのことを想うと途端に一人であることへの不安が押し寄せそうになる。


「ーーーー」

「ーー…ーーで、算段はあるの?」


 やっぱり聞いたことがある声だ。もっと、はっきり聞こえればわかる。聞くことに集中して、声を聞く。


「ーーー、ーーーーーーせよう」

「ーーーでしょ!死にに行くつもり?!」


 噛み付くように大声を出した人、この人の声を知っている!


「ッびん、さん?」

「!!ミサコ!目が覚めたのね!」


 カサカサな声なのにきちんと聞こえたみたい。レイさんの友人のギャビンさん。目は開けられていないけれど、声色からとても安堵した様子だ。


(つまり、ここはあの男の家ではない?)

 

 そうわかった途端、体からどっと力が抜けた。意識していなかっただけで想像以上に緊張していたようだ。ものすごい疲労感に内心驚いていると頬をそっと撫でられた。レイさんみたいな撫で方だな…初めて会ったとき顔色がコロコロ変わるって茶化されたことを思い出す。


「ミサコ」

「れいさん…」


 頭の上からレイさんの声がする。ん?つまり?頭の下のこの硬いのはレイさんの膝??いやそれよりもレイさんがいる。


「う゛、う゛ぅ゛…」

「大変だったな、もう安心しろ」


 安堵から泣き出した私をレイさんが起こして抱きしめる。そのまま私は泣いて、レイさんはずっと泣き止むまで優しく声をかけてくれた。


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