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(あ、なんの、音だろ…)
聞きなれない高音が聞こえて目が覚めた。瞼は濡れていて、目を開くと水が当たった。
(…あー雨?)
体に当たる水が雨だとやっと理解するほど頭が回らない。体が全て濡れていて、全身が水になってしまったような感覚がする。
(それとなんだろう、すごく気持ち悪くて痛い)
濡れてしまったことが一因であるだろうけれど、それ以外にも何か原因があると確信できるほどの不快感と痛み。
(目がかすんでよく見えない…ポチ、ポチはどこ?)
首を動かそうとするも、力が入らなくて重たい頭は少しも動かせない。
(なんにもできない)
ポチはどうなってしまったのか不安で胸が一杯になる。
私なんかのために危ないことをして、きちんとしからないと、それで、ありがとうって抱きしめてあげないといけないのに。
考えることしかできない中、ひときは大きな金属音が聞こえた。
(さっきからキンキン音がする…何の音だろう)
ぼやけた視界の中に、動くものが見えた。
はっきりとは見えないけれど二つの何かが動いている。
(わかんない、こわい)
怖くて、寒くて、気持ち悪くて、不安で痛くて震える。
何もできず、体の奥から熱が徐々になくなっていく感覚だけがはっきりとわかる。
(なにもわからないまま、しんじゃうのかな)
なんだかそんな気しかしない。
(レイさん、レイさんに会いたい)
いつもみたいに不安でいっぱいな私を抱きしめて欲しい。
レイさんがいれば何でも解決してくれる。
こんな意味のわからない状況もどうにかしてくれると勝手に思ってしまう。
(ははは、レイさんレイさんってばっかりだな私、)
頼りになるから好きになり、かっこいいから恋をしたなんてほんと単純。
(だからレイさんに好きだって言えない)
言ったところでレイさんの負担にしかならない、自己満足にしかならない。レイに迷惑しかかけられないお荷物な私が嫌い。役に立てればいつか言える立場になれると思ったりしたけれど、迷惑しかかけてないな。
(でも、今日死ぬってわかってたら、好きって言いたかったかも)
雨に混じって涙が流れる。こんな風に気付かれない恋だったな。
目を開けているのも辛くなって瞼を閉じる。そして最期ならと強く願う。
(レイさんに会いたい、レイさん助けて)
「う゛ッ」
突然の浮遊感に吐き気が催される。
何かが私を抱きかかえている。
(まさか、レイさん…?)
頑張って目を開けてみるもぼやけて誰なのかわからない。
ゆっくりと私を抱き寄せてくれる。もさもさで暖かい?
「だ、れ?」
(レイさん胸毛深くはないよね…多分)
でもレイさんの髭凄かったよな…つまり胸毛も凄いのでは…と疑問に思いながら、意識が遠くなっていった。




