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幸せになりたい。  作者:
4 別れと梅雨
42/48

独白

(あぁ、今日はなんて日だ)

 ベゼッセンは雨に打たれながら美佐子を見つめ歓喜した。










 「同胞潰しも大概にしろ」と言われ自分よりも強者を相手にするまでは楽しかった。そこから捕らえられ拘束された退屈な謹慎が明けた。その初日、彼の暴虐が咎められたことへ嘲り哂いに来た女魔族を顔が潰れるまで殴り、紫色に変色した四肢をへし折った。それを遠目に隠れて見ていた下等な同族に投げやる。ベゼッセンからすれば同等に下等な女だが、あれからすれば上等な素質を持つ孕み袋なのだ。あとはどうなろうが興味はないと女を物にしようと争いが始まる前に飛び去った。 




 「魔族は乱暴な生き物だから近づいてはいけない」「巻き込まれたなら命があってよかったと思いなさい」人間の親は子供にそう教える。そう教えるほど人間とは違う尺度で生きる生き物であり、どうすることもできない存在だった。

 魔族は幼いころから「強者と戦う楽しみ」「手の届かない相手を踏破する快感」を本能で知っている。それは種を残すために組み込まれた遺伝子のようなものだという。

 幼い子がまず初めに見る強者は自身の親だ。親に愛情を注がれ、また親愛を覚えながらいつが超えたいと思う。親を超えたとき、子供は大人と認められる。その時、親を生かすか殺すかは子にゆだねられる。

 ベゼッセンは両親を殺した。それは彼の中で「弱い者は淘汰され、強い血のみが残ることこそが正しい」という理由であった。両親は生かすに値しないほど弱いとベゼッセンは判断したのだ。

 魔族は長寿であるがその数は人間よりも圧倒的に少ない。子を残してよいと認める相手を厳選することが一つの原因であった。自身よりも強者である魔族を屈服させ、孕み孕まされるか。あるいはその身に黒を纏わせる魔力の濃い者に侍るのかの二択が大抵だった。中には処理のために用いた人間が魔族の血を継いで産まれることはあるが、魔力を持たない出来損ないしか産まれないあいのこを魔族と認める魔族はいなかった。

 しかし、例外が一つだけ存在した。人間であってもその肉体に黒を宿す者はその濃い魔力が作用するのか魔族との間に魔族を孕み孕ませられることができた。


 ベゼッセンは誰彼構わずに争いを吹っ掛け相手を生かすに値するか定める。値しなければ何者であれ、殺していく。そのことを咎められればまた殺す。

 強きものが生き残ることは魔族にとって本能であるが、ベゼッセンの行いは余りにも同胞を減らしていった。目に余る行いだと思った同胞が集い、幾人かが重傷を負いながらもベゼッセンは拘束された。その際、ベゼッセンは自分と同じように両親を殺した魔族に話しかけたが、自分とは異なる考えに興味をなくした。

 拘束されたことは不愉快でしかないが、久々に骨のある者たちと戦えたことに満足し、彼らの顔を立ててやろうと静かに謹慎が明けるのを待った。

 謹慎が明けた日からベゼッセンは再びに強者を探した。ベゼッセンは全く自身の行いをやめることはなかった。これは本能に従い行っていることなのだ。例え、行き過ぎた行いだといわれようとも止めさせたければサシで戦い、従えさせる他にベゼッセンは止めるつもりはなかった。

 だが同胞たちはそうはしなかった。もしくは、できなかったのだろうとベゼッセンは考える。大勢多数で囲わなくてはベゼッセンを倒せなかったのだ。


(あるいは魔族の本能を否定する行いだと考えたのか)


 兎にも角にも、ベゼッセンは世に放たれた。同胞を2人殺し、3人生かした。次はどこへ行こうかと気まぐれに暁の森の上空を飛んでいると、僅かな違和感を感じた。よく気配を探してみると巧妙に隠され一点に集中してかけられている結界を見つけた。魔物が跋扈する人のいないはずの森。

 降り立ってみると鬱蒼とした森の中に小さな家があった。中には明かりが灯っている。

 人間ならばそう思うだけだが、魔族であるベゼッセンはさらに興味を持った。近寄って結界を見てみれば特殊な魔封じが施されている。

 魔力を持たない人間の中には精霊使いがおり、精霊を使い魔物除けの結界を張っている。それだけならまだしも態々魔族を指定した結界。この結界の中に入れば魔法は使えなくなる。そしてこの結界の魔力源はあの家の中からする。

(どんな同胞(魔族)がいるんだ)

 ヴァズレイが密かに美佐子のために施した結界は奇しくもベゼッセンの興味を搔き立てた。

 扉の前に立ち、ノックをする。蹴破った方が早いが、向こうから正体を見せてくれた方が面白い。中から近づいてくる気配を感じながら、かちゃりと鍵の開く音を聞く。

 扉はなんのためらいもなく開かれた。ベゼッセンは目の前に同胞が現れるのだと予想していた。争い嫌いの本能の薄い奴。そう予想していたからこそ、目の前にして驚いた。

 小さなそれは同胞ではなく、人間。そして精霊使いでも精霊憑きでもない、黒を宿していたのだった。

 美佐子の黒く柔らかな髪に揺らぐ黒い眼。見事としか言えない魔力。魔力だけであればベゼッセンを優に超すその力を一目見て決めた。これほど見事な黒に孕ませれば今までで一番出来のいいのが産まれると直感させたのだ。

 ベゼッセンは手を伸ばそうとするが、身動きが取れない。精霊が闇魔法を使い、ベゼッセンを拘束しているのだ。早く逃げろと言わんばかりに身を削りながら拘束するが、精霊の視えない美佐子は身に迫る危険を感じながらもヴァズレイはいないと話す。


(精霊が視えていない上に、この結界を張っているのはこいつではない。レイという奴がこいつに掛けたのか?おそらくこの家には今こいつしかいない)


 闇魔法の拘束とは施術側と施術される側の魔力量の差により拘束時間が決まる。魔法が使えないベゼッセンは精霊の魔力が切れなければ動くことができないが、生まれたての小さな精霊の魔力量であればすぐに底を尽きると知っていた。が、拘束していた精霊の魔力が尽き世に還ったら新たな精霊が同じ魔法を施術してきた。

(?精霊憑きではないはずだ…特性持ちか)

 拘束していた精霊の魔力が尽き世に還った瞬間に歩み出す。美佐子のために献身的な魔法を代わる代わる続けていたが、代わる合間を縫うようにベゼッセンは追うための行動を進めていく。小さな精霊たちもベゼッセンが美佐子を諦めるつもりがないことがわかったのだろう。美佐子がリビングへ逃げると何処かにせわしなく一方は美佐子に二手に分かれた。

 ベゼッセンは一度美佐子を追い、窓の外に出たことを確認すると結界から出た。空間魔法から剣を取り出すとゆっくりと美佐子を追いはじめた。


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