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幸せになりたい。  作者:
4 別れと梅雨
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 ギャビンさんが訪れたころに比べて最近は肌にまとわりつくようなじめじめとした気候に移り変わってきた。このじめじめを乗り越えれば暑い日々の始まりだ。夏と冬、どっちが好きかと聞かれれば私は冬。季節の中でどれが一番嫌いかと聞かれれば夏と答える。夏は暑くて、暑いから薄着を着ているのにも関わらず肌に引っ付く汗をかく。この梅雨の時期すら嫌なのに、更に嫌な季節だと私は思う。けれどもこの世界での初めての季節は特別な感じがして少し楽しみでもある。


「でも、梅雨があるって日本みたい…いや、外国にも梅雨はあるっけ?」


 小学生のころに習ったような、そうでもないような…

 雨で濡れている外を眺めつつ記憶を遡っていると声を掛けられた。振り返るとレイさんがレインコートを羽織ってうずくまっている。


「あれ、雨降ってますけど出かけるんですか?」


 ひょこっと覗き込むと普段の靴から撥水性のある艶やかな靴紐を調節していた。


「街の方まで行く」


 雨靴の紐をぐっと引き締め、大きな指で器用に結ぶと魔石がずっしりと入っている袋を背負いながら玄関の戸に手をかける。


「……外には出るなよ」

「はーい。いってらっしゃーい」


 間延びした返事に空いている手で頭を撫でられて返事をされると嬉しさが心を満たしていく。子供じゃないけど子供っぽいよ、私…

 レイさんが扉を閉めたのを見送り、撫でられた感触を思い出しながら部屋に戻る。ポチはまだ私のベッドの中で丸まって寝ている。この丸々としたふわふわのもふもふボディ…私を誘惑している。

 飛びついて全力でわさわさしたい気持ちをぐっと押さえつけ、今日は先週ぶりの一人だと考えつつ、掃除用具を手に取ると掃除を始める。


「きれいにするといつも喜んでくれるんだよね…」


 レイさんが少しだけ雰囲気が柔らかくなる姿を思い浮かべながら物の少ないリビングの床を掃いては拭いていく。

 ふとソファーに掛かっているひざ掛けが目に入った。レイさんが暖炉の前でくつろぐときに使っているそれはいつ洗ったのが最後だろうと考えながら手に取る。

 洗濯物はガコンガコンと森の中では似つかわしくない音を出すこの世界での洗濯機で洗う。魔石で動くそれは術式が組み込まれているため、魔石を動力源にして水を発生させ、中のドラムみたいなのも回転させているらしい。ただし、脱水した水はホースから流れ出ていくから置き場所は必然的に外になる。性能がいいと脱水した水を蒸発させるタイプもあるらしいけれど、何でもありなんだなと思った。

 外に目を向けるとガラス窓には雨が打ちつけられている。今日は洗いに行きたくない。晴れた日に洗わないとなーと思いながらひざ掛けを広げ見てみる。ゆったりと腰掛ける足にグレンチェックのひざ掛けをかけて暖炉前で私には読めない文字で書かれた本を読むレイさんの姿を思い出す。最近は夜も寒くなくなってきて、背もたれに掛かってばかりなこれはもう仕舞わなくてはいけない季節となった。

 

「……これ前もそう思ってたのに忘れてた」


 一昨日も同じことを思いながらも洗濯し忘れていたことに気づく。


「次の洗濯日和な日に…それまで…ここにいて…」


 結局レイさんのソファーに戻す。そしてまた忘れるんだろうなーと思いながら次の掃除場所である廊下に出る。

 そこで気づいた。玄関の扉を叩く少し湿り気の混じった音が廊下に響いている。

 一応リビングの時計を覗き見れば半刻が過ぎていた。レイさんが忘れ物をするなんて珍しいなんて思いながら扉に小走りで近づき「はーい」と間延びした声で鍵を開ける。


 この家にいれば安全だという思い込みが、なぜ家主であるレイさんが自分で入ってこない疑問を思い浮かべさせなかったのか、ここに訪れる人なんて誰もいない生活が気の緩みを生んだのか。


「え」


 見上げた先、そこには見送った姿の黒いレインコートを着たレイさんがいると思っていた。

 けれども私の予想を反してそこには見知らぬ誰かがいた。


大変久しぶりの投稿です…区切りが良いところまでしばらく連日投稿する予定です。よろしくお願いします!

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