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「そうやって聞くと、私の言うことなんでも聞いてくれるみたいですね」
ただ思ったことを口に出す。便利そうだなぁと思う。けれどもなんだか違和感がある。私の気持ちに感化しただけで、契約とやらを放棄してまでお願いを聞いてくれるものなのだろうか。
疑問が増えた…と思っていると「それどころじゃないわよ」とため息交じりにギャビンさんは話し続ける。
「黒が精霊を意のままに操れるなんて…他の人に知られてみなさい。もう、どんな残酷な目に遭うのか、想像ができないわ……
…………………レイ、この子のことどうするの」
頭を抱えてしまったギャビンさんは保護者のレイさんに話しかけるが、レイさんからの返事は私の想像通りだった。
「ここで暮らすこと以外ないが」
「ちょっと!人が真剣に考えてんのに、何ズレたことほざいてんの?」
青筋を立ててギャビンさんがレイさんのことを憤怒した様子で見ている。私もそれを傍から見ることしかできない。私の話なんだけど、私に主導権がないまま話が続く様は三者面談を思わせる。「この子の進学にお母様はどのようにお考えですか?」「この子は〇〇高校に通わせる予定なんです」…的な…。そうして流されるままに意味もなく生きてきたけれども、ある日運命的な出会いを…的な乙女ゲームありそうだな。
どうでもいいことを考えているけど、私自身この話に興味がない。だから真剣に考えてくれているギャビンさんには悪いけれども、この話し合いはレイさんが私が不便にならないようにするための原因探りだった。もう原因はわかったことだし、ここで暮らすための対策を考えて、お開きにしましょう。そう提案したいが、目の前の二人は私には理解できない専門用語を繰り出し、終わりの見えない問答を続けている。
どうにかしてこの険悪な状況を打開しなくてはと思いつつどうすればと悩んでいると、「あ…」とギャビンさんの焦ったような漏れた声が聞こえ、静寂がその場にたちこめる。
二人の顔を見て、途中から話を聞いていなかったことを後悔する。ギャビンさんはばつが悪い、言ってはいけないことを言ってしまった様子だし、レイさんはいつもと変わらない顔だけど、雰囲気がなんだか違う。
どうすればいいのか尚のことわからなくなってしまい焦りかけると、それに気づくようにギャビンさんが私に謝り、レイさんに声をかける。
「レイ、一旦帰るわ。私達一度冷静になってから話し合ったほうがいいわ。
……………あんなこと言ってごめんなさい。貴方が一番わかっていることなのに……」
「別に構わない。事実だからな」
「そんなわけないでしょ!ってあぁ、もう!この話はおしまいよ!ミサコ、魔法は使っちゃダメよ!また来るからよろしくね」
来た時のような調子を取って付けた様子でそう言うと玄関まで行ってしまった。あっという間のことで、すぐに反応できなかったけど、お見送りしないと。ここは近くの町まで半日かかる距離の所にあるって前レイさんが言っていた。
慌てて椅子から立ち上がり、レイさんに「お見送りしてきますね」と早口に告げて玄関まで走る。
玄関の扉を急いで開き見るとそこにはギャビンさんの後ろ姿が見える。思いっきり開けた扉の音にギャビンさんが振り向いた。
「ギャビンさん!」
「ミサコ、どうしたのかしら?」
「えっとお見送り、です」
どうしたと聞かれても事実は一つ、お見送りのみ。それがおかしかったのか、ポカンとした後くすくすと笑いだした。この人の笑いのツボわかんないな…と思っていると先ほどと違い、繕った顔でなく、スッキリした表情になっていることがわかる。
「ありがとうね、ミサコ。私の見送りはそこでいいわ。今はレイの傍に居てあげて」
「あ、はい」
それじゃあまたね、と言い森の奥へと再度歩み始めたギャビンさんを見て、徒歩で来たのか…と知りつつ、家の中に戻る。
ギャビンさんは問題なさそう。問題ありありなのはレイさんだなぁ…




