32
レイさんの誤解?を二人で解き、落ち着いたところで3人分の紅茶を用意する。私はレイさんの隣に座った。これで顔は見えないし、傍にいてくれて安心する。一石二鳥!
ティーカップがないから三色のマグカップがテーブルに置かれている。
レイさんに来客用のティーカップを買うことを提案しておいた方がよかったかな?でも来客者がそんなにいる訳でもないし、知り合いならいいのかな、いやもう過ぎたことだし…と考えている間にレイさんが冬での迷子の件や手紙のことギャビンさんに話していく。
ギャビンさんは話し始めの時はふむふむと聞いていたが、次第に食い入るように「え」「ちょっとどういうこと?」と合いの手を入れ始めてこっちが不安になってきた頃にレイさんは話を終えた。
「で、どう思う」
レイさんは腕を組んでギャビンさんに意見を求めている。ギャビンさんは顔をしかめつつも元がいいからなのか、美貌を崩さない。美しい…
「精霊を呼び寄せたってことでしょ?契約もなしに…危険じゃないこの子」
「…私のどのあたりが危険なんですか?」
危険…何が危険なのでしょうか…今までの人生の中で、危険な人間と評価されたのは初めてですよ…そんなこと言われると余計に不安になってくる。思わず聞いてしまった。
レイさんと話していたギャビンさんは私の疑問の声でこちらに向き直った。
「ミサコ、あなた手紙に施された魔術がどんなものであったのか知らないでしょ」
私がそんなこと知る由もないことはわかっているためギャビンさんは話し続ける。
「あなたが手にした鳥形は宛先に手紙を届ける魔術をかけてあるの。でも魔術だけでは届けるだけで誰でも受け取れてしまうわ。だから精霊に対価を渡して宛先の主だけが受け取れるように契約していたのよ」
対価ってなんだろうと思うが話を折るのはよくないと話に集中する。
「つまりは…ギャビンさんはレイさんに宛てて手紙を届けたから、レイさん以外は受け取れないはずってことですよね?」
「そうよ。それなのにあなたは受け取れた。精霊を自分の元まで呼び寄せて、どういう理屈か知らないけど!契約を無効化させて!!手紙を受け取っちゃったのよ!!!」
興奮しているのか、怒っているのか徐々に語尾が強くなって私に詰め寄らんばかりに近づいてくる。思わずのけぞっていると、レイさんがギャビンさんを引っ張り定位置に戻した。ありがてぇ…
要約すると私がギャビンさんと精霊の契約に割って入ってしまったということ…悪気はなかったけれども、弁解の言葉もない。謝る案件ですね。
「すみませんでした!」
会社員だったころのように背筋を伸ばしビシッと謝ると、ぷっと堪え切れていない笑い声が聞こえてると頭上から明るい声が届く。
「いいのよ謝らなくて、仕方のないことだわ。私も詰め寄るようなことをしちゃったわ。ごめんなさいね。これでも一介の魔術師だからこういう話をすると止まらなくなっちゃうのよ~」
なんだかマッドサイエンティスト的なイメージはあながち間違いではないのでは?
「憶測だけれどもあなたのことわかったし…ほら、顔を上げて頂戴な」
あ、ギャビンさん優しい…と思い、言葉に甘えて顔を上げると美人がいる。女神か。いや、男の人だった。こんな綺麗な人がマッドサイエンティストなわけないよね、うん!
「魔族には特性を持って産まれる者もいるわ。私が会ったことのある魔族にもそういうのがいたわ」
「魔族…」
「なんだと思っている」
私魔族ではないんだけど…と思っているとレイさんが尋ねる。が、そのことへの回答よりも、特性の意味を知らない私に説明をしてくれることになった。やはり女神か…
「まずはミサコに説明させて!私が知っているのは『魔石の涙』っていうの。感情の強さで涙が魔石になるっていう特性よ」
「魔石って魔物の心臓ですよね?」
「そうよ、魔物は魔力を持つ生き物よ。魔力は魔物も魔族も同じく心臓に込められていて、体外に出ることにより凝集し魔石になるわ。そいつは体内にある魔力を…どういうわけか魔石にできるのよ、涙をね」
「…魔術と違うんですか?」
こう…魔術で涙を魔石にするぜっ!量産チート!!みたいな…
「全く違うわよ。人は基本的に魔力を持たない生き物なの。…何も教えてもらっていないようね」
そう言うとレイさんを何か言いたげに冷ややかな眼差しを向ける。決して自分に向けられたものでないことはわかっていても、身内がそのように見られると緊張感が増してくる。
「教える必要はなかった」
ちらっとレイさんの顔を覗くと、いつもの固い顔で淡々と返しているが、それに負けない声色でギャビンさんは話し出す。
「今は必要よ。この子自身魔力を持っていながらも今まで魔法を使わなかったことが奇跡みたいなものよ。………ミサコ、まず簡単に魔術と魔法の説明をするわよ」
「あ、はい」
レイさんとの冷めた会話の後に優しく話しかけられて、びっくりしたけれども私はよくわからないのでイエスマンになります。
「さっきの話に戻るわね。人は基本的に魔力を持たない生き物、だから魔術を使う方法は二つだけ。精霊との契約か魔石を使って施行する、この二つの方法を駆使しているわ。
精霊と契約できる者のことを魔術師と呼ぶわ。精霊との契約には基本は対価を精霊に渡さないと結ばれないわ。その分、詠唱ではなく私たちの想像力や言葉で魔術が使えるから容易に魔術が使えるわね。
逆に魔石は詠唱しないと発動しないから時間と手前が掛かるわ。でも魔術師でなくとも詠唱さえできればどんな人間にだって魔術が使えるわ」
「限られた人が使える魔術と、大変だけどみんなが使える魔術があるってことですね」
「ふふふ、そういうことね」
わーい、ほめられたー。
「そしてあなたみたいに魔力を持っている生き物が使うもの魔法よ。精霊の魔力ではなく、魔力を体内で貯蔵、放出…要は使うことができるから言い分けられているわね」
そう言うと一口お茶を飲み、ふぅと小さくため息をつく。様になっていて美しいです先生…
前にレイさんからどっちも魔法と説明されたけど…実際は違うってことだよね。
「…魔力を持つと稀に体内の魔力が身体に異変をもたらすのよ。それが特性よ、体質っていう方がわかりやすいかしら?精霊憑きの見た目が銀髪なのと同じようなもの……おそらくミサコは周囲の精霊があなたの気持ちに感化されるような特性を持っているんじゃないかしら?」
「え…」
「証拠にこの周囲の精霊は落ち着きがない感じだし…あながち間違いではないはずよ」
確かに今緊張しているし、落ち着いていないと言われればそうかもしれないけど…
「感化されるというのはどのような…」
「あなた…精霊が視えないのね」
「そうですね…ここに精霊がいるのなら視えてないです」
「感化されるっていう言葉の通りよ。ミサコの感じる喜怒哀楽、戸惑いや不安を精霊も同じ感情を持つのよ」
「…精霊が…それって、精霊が視える人には私の感情駄々洩れでは?」
プライバシーの侵害をとても感じる。
「その発想はなかったわ…いや、問題はそこではないのよ!鳥形の件はあなたもっと近くで見たいって思ったんでしょ?その気持ちを私の契約した精霊が感じてあなたの思う通りに近づいて、手紙の受け取りを許可したのよ」




