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幸せになりたい。  作者:
1 出会いと秋
3/48

3

 …反応がない。

 かれこれ何分か私は俯き、男は目の前に立っている。もう首が疲れてきたわ、頭を上げたい。怖い気持ちはまだあるが、なんとかなりそうな気もしてきた。うん。

 それにどうにでもなればいいような気持ちもある。

 私は疲れと投げやりな気持ちに押され、顔を上げた。


「!」


 男はこちらに顔を向けていた。

 首痛くないのかよ…ずっと見てたわけ?こわ…

 少し驚いたが、こちらも目がありそうなところを見つめてみる。


 …は、反応がない…!生きてんのかこいつ…

 それか立ったまま寝てんのか?嘘です!起きてますよね!?

 声をかけるべきか?でもなんて言って?

 さっき日本語で話しかけたけど無反応だったし、…もしかして喋れない?もしくは聞こえないの?


 ふと男から目を逸らし、木々の隙間から見える空を見る。

 別に面倒だと思ったからではない…反応しないやつが悪い。


 普段見ている空は街の明るさに負けて暗く、星は小さくぽつぽつと光っていた。たまに見上げてきれいだなーと思っていた。月が大きかったり、きれいな色をしていると、なんでかテンションが上がったりした。

 今見ている空はきらきら光っている。真っ暗な空の中、赤、青、白きれいな光を小さくても輝かせている。くさい言い方をすると宝石みたいだ。月はここからは見えないが、星がこんなにきれいなのだから同じようにきれいなのだろう。


 昔の空もこんな感じだったのかな。

 こんなにきれいな星空を見てしまったら、住んでいる街中の夜空がショボく感じる。

 星空に見とれていたら、視界の端にいた男が動き出した。


「うひっ」


 ちょ、おま、いきなり動き出すなし!びびるわっ!

 再び視線を男に戻す。驚いて後ろに引き下がるが、男は私の頬に触れた。

 大きくてごつごつと硬い感触がする。触れられた右の頬から温かい体温が伝わってくる。

 思わず顔に熱が集まる。


(だって男の人に触られている!彼氏いない歴=年齢だぞ!なんだ、恥ずかしいいぃ!!

 この顔の火照り具合はやばい。今の顔は真っ赤だ。見せられぬ。夜でよかったーーー!)


 なんて一人考え込んでいたら、


「-------」

「は?」


 喋った。男のバリトンボイスと私のまぬけな声。

 喋ったことで、話せる人なのだとわかった。てか、いい声だな。どきっとしたわ。

 でも何言ってんのかさっぱり分からねってばよ…


「…あの、何を言っているんですか?」

「……-----」


 ……あ゛ーだめだ、やっぱり言語通じない系だー(絶望)

 困るー。でもなんか殺されそうな感じじゃない。向こうもなんか困っている様子だ。多分。

 少し安心して、自然と顔の強張りがなくなる。


「えっと、その、」


 安心したら喋りたくなってきた。でも言葉は通じない。そのため、何を話せばいいのか戸惑い、黙った。


「…ーー」


 すると男の方が何か言い出した。

 頬から手が離れる。思わずその手を掴みそうになった。

 …男も手を引っ込めるのを止める。

 私の手は宙に浮いたまま、何も掴めずにいる。自分でもなんで掴もうとしたのか、わからない。


 …いや、わかっている。頬に感じた温もりが遠ざかるのがいやだったんだ。

 男の人に触られるのは初めてだったから、恥ずかしかった。でも、ここで初めて会った人間だ。…多分人間。

 殺されるとか思ったり怖かったけど、今はそう思わない。

 むしろ、私に安心感を与えてくれたこの人が離れそうで、離れてしまうことが怖い。

 でも我儘は言えない。まあ、それ以前に言葉が通じないけどな。


 あー恥ずかしい、腕を下げようとした、が、不意に掴まれた。

 彼を見る。暗くて顔はわからない。

 力強く腕を引かれる。


「うおっ」


 私が勢いにつられて立つと、何かを喋りだした。


「---- ーーーーーーーーーーーーー ーーーーーーーー」


 ?やっぱりわからない。

 でも理解したいと思って聞き返そうとした。


「っう゛ぐ」


 突然、じくりと頭が痛くなった。脳みそが揉まれるようにじくじくと痛む。右腕でぎゅっとスーツごと掴んで握る。痛みを紛らわそうとする。しかし痛みが引かない。彼は何かをずっと話している。


(痛い、いたい、痛い、)


 余りの痛さにしゃがみそうになるが、彼が腕を持ち上げ、無理やり立たせる。

 痛すぎて涙がでる。私は彼の腕でやっと立てている状態だ。


「----」


 彼が話し終わるのと同時に鋭い痛みが頭に刺さった。


 けれどもそれで痛みはすっとなくなった。

 今までの痛みが嘘のようで、ぽかんとしてしまう。

 状況が読み込めなくて、戸惑っていたら、


「聞こえるか」





 …Oh

 げ、幻聴か?いや、目の前から声は発された。

 んんん?よくわからなくなってきたぞ?


「…おい…その腑抜けた面、やめたらどうだ」

「は?」


 こいつなんだ?喧嘩売ってんのか?元々こんな顔だっ!


 って、やべーーーー!!!言っちゃったよ!よくわかんないけど、言葉通じ始めたのに、交わした最初の会話これかよっ「は?」かよっ感じ悪っ!

 これご機嫌損ねちゃうと死ぬとかないよね?…ぬおおおぉ(後悔)


 さっきまで赤かった顔が一気に青くなっていくのを感じる。


「…」


 男は無言だ。つらい。

 気まずくて…いや失言をしたことを後悔して俯く。


「…はぁ」


 頭上から重い溜息が聞こえた。びくっとする。

 恐る恐る男を見上げようとしたが、その前にぐいっと掴まれていた腕を引かれた。


「着いて来い」


 突然のことで前のめりになりそうになるが、踏ん張って体制を整えようとする。

 しかし、男は私を気にすることなく腕を掴んだまま歩き出す。


 (あーもう、どうにでもなれっ)

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