26
「あったかい…」
まだ雪は解けきってはいないけれども、多くの地表が顔をのぞかせ、雪の下にいた新たな芽が出てきている。こういう風に春が訪れるのかと、しみじみ感じる。日差しが暖かい…けれどもまだ外は寒い。私はポチを膝に抱えて窓の内側から外を眺めていた。ポチは撫でられる手に顔を擦りつけて、もっと撫でて欲しいと要求してくる。もふもふと撫でながら、レイさんのことを考える。
気のせいではなく、レイさんが距離を詰めてきたというか、過保護になったというか…私が冗談のように思ってきたことがあながち間違いではないように思う。そう、レイさんが私のことを本当に娘のように扱っていることだ。
添い寝、食事介助に飽き足らず、外に出ようものなら「どこへ行く」「ついてく、待っていろ」、申し訳なくて、家でできる暇つぶしはないのかと聞くと「字は読めんよな、読んでやる」と読み聞かせが始まる…掃除をやっていてもたまに様子を見にくるし…
いや、子供じゃないから!!26歳!そして今年で27歳になってしまう成人女性ですから!
確かに、急に真冬の森に意図的?に放り出されたことはあったけれども、過保護すぎやしませんかね?
「でもあれかな。本当に娘みたく思ってくれてるのかな…」
そうだとしたら嬉しい。無論私には血のつながった家族はいる。けれども元の世界に帰れる可能性はない感じがする。召喚されたとしても召喚した人が不明。帰る方法が全くもって謎なのである。両親のことや兄弟のことを考えると暗い気持ちになる。会えないのは悲しいし、いきなりいなくなるなんて親不孝にも程がある。でも正直、帰れないんだろうなーって心に踏ん切りがついているのだ。だからこそ、この世界で家族と呼べるような人がいることは私が一人でない、心の寄る辺があるようで安心できる。
「…ん?」
そういえば、レイさんはいくつなのだろうか。40くらいだと勝手に思っていたけど、実際の年齢を聞いたことが無い。まぁでも、私のことを子ども扱いしてくるわけだし、そんぐらいの年齢だよなぁ。と、思うも気になってきた。
ポチを抱えてレイさんを探しに向かう。レイさんの部屋のドアを適当にノックし続けるが反応なし。リビングに向かうがいない。いつもいるはずのところにいないのならどこにいるのだろう?
「ポチ、レイさんどこにいるかわかる?」
抱えているポチに聞いてみるともたもたしだす。床に降ろすと台所に向かい、その奥にある裏口の扉の前をうろうろしだした。外にいるのなら、何か羽織んないと寒い…部屋から上着を羽織りポチとともに裏口を出る。日陰になっていて、寒い…ポチを抱えて歩きたいけれどもポチは前をスタスタ歩いている。寒くないのかな…と思っていると外に出て数十歩ほどのところでポチが振り向き私の脚に登ろうとしてきた。顔を上げるとレイさんの後ろ姿が見えた。ポチを抱えて「ありがとうね」と伝えると嬉しそうに「きゃう」と鳴いた。かわいい。
傍に近づくとなんだか油の匂いがする。暖炉用の蒔が積みあがっている風通しのいいところで何をしているのだろう。覗き込むようにして後ろから見てみるとナイフを拭いている。
「なんだ」
「何もないです。ただレイさんどこいったのかなーって探してただけですよ」
このレイさんの「なんだ」には「なんだ(どうした、何か用事でもあるのか?)」が含まれている。淡々と話すから自分に興味がないのかと思ことがあったけど、そういう話し方をするだけで、とっても心配性なのはこの冬で理解した…そんなことを思っているとレイさんは積み上げた蒔を取って「持て」と数本渡してくる。ポチは察したようにしてひょいと腕から降りてくれた。
「レイさんこの匂いなんですか?」
「油だな」
「ナイフに?」
「いや、バリカンにだ」
「へ?バリカンですか?」
手元にあるのはナイフなのにどこにあるのだろうか。というか、バリカン?
「あぁ。…春になったら会うといった奴がいるだろ?そいつは身なりにうるさくてな…」
「だからぼうぼうに生やしている髭を剃ると…」
「そういうことだ」
面倒だといわんばかりにため息交じりにそう言った。
家に入り、暖炉の近くに薪木を積み上げる。外にいたため身体が少し冷えた。台所でお湯を沸かしお茶の準備をしている間に本来の目的である質問をしようと話しかけた。
「レイさんはいくつなんですか?」
「32だが?」
「え゛」
「なんだその反応は」
「いや、噓でしょ…」
ショックすぎる。このもみあげの端から端まである立派なお髭をこさえているおっさんが32歳?パパと思っていたのに年齢差が5歳?パパ、若すぎる。
私が何とも言えないショックを受けているのがわからないのか「どうした」と聞いてくるが、反応できない。やっぱり、髭がいけないのかな?このもみあげの端から端まである髭を剃ったら年齢相応に見えるのかな………………どんな顔になるのだろう?
「レイさん、いつ髭剃るんですか?」
「あ?…明日剃るつもりだが」
「今日剃りません?」
レイさんが怪訝そうな目で見てくる。そりゃいきなりだけど、気になる。
「別にいいが…」
「やった!じゃ、剃ったら見せてくださいね!」
「毎日顔を合わせてんだから見せないわけないだろうが」
レイさんは落ち着いた表情で淡々と返してくる。
背後からピューッとけたたましい音が聞こえてビクッとする。そういえばお湯を沸かしてたんだ。思い出して席を立ったとき、目の前にいるレイさんと目が合った。目元が緩んでいる。そんな表情で胸がどくどくとした。動悸?なんだか恥ずかしくて急いでお茶の準備をした。




