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幸せになりたい。  作者:
2 精霊と冬
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「…すまなかった」

「………そうですね…」


 二人で食卓を並べ黙々と朝食を摂っていると、昨夜の件について軽く謝られた。けれども私は眠くて眠くて仕方がない。一晩中バックバクのドッキドキで心も体も疲れ果ててしまった。もう何回噛んだのかわからないトーストをゆっくりと飲み込む。甘くておいしぃ…

 ぼーっとスープと干し肉を眺めながらゆっくりと食事をすすめていると、がたっとレイさんが席を立つ音がした。いつもなら、もっとゆっくり噛め、食べるのが早いってお母さんみたいなことを言ってくるレイさんよりも今日の私は食べるのが遅いのだなーと思った。流しに食器を置く音が聞こえた。そして、こちらに向かってくる足音が聞こえる。そのまま通り過ぎるのだろうと思っていた。が、何を考えているのか、そのまま私の隣に座りだした。流石にそちらに意識が向く。どうしたんだろうと思い、重たい頭をレイさんの方に向ける。


「あの…どかしたんですか?」

「…」


 相変わらずの無言。もう慣れたもんなので、取りあえず食事を再開しようとスプーンを使おうとすると、レイさんが先にスプーンを掴み、とろみのある黄色い多分かぼちゃのスープを少量掬う。そしてそのまま私の口元に近づける。

 …食事介助されてる?介護か?


「あの、レイさん、一人で食べられますよ?」

「いいから食え」


 いやいやいやいや…レイさん突拍子もないことし過ぎ…

 けれどもそれを再度指摘するほどの気力もないため渋々差し出されたスープを口にする。器にあるスープは湯気が立っているけれども、流石に少量では冷めてしまっている。けれどもとろとろと甘くてお腹にたまりそうな感じがする。


「次はもっとたくさん飲みたいです」

「わかった」


 次に差し出されたスープを口に含む。やっぱり温かくてさっきよりもこっちのほうがおいしい。ゆっくりと少しずつスープを飲み込んでいく。最後まで飲み込むと次のスープを口元まで運ばれる。なかなかいい連携では?

 そうしていつもよりもゆっくりとした朝を過ごした。











「昨日私が見た精霊ってどなたなんです?」


 暖炉の前でゆっくりと過ごしながら昨日の話の続きを尋ねる。レイさんは片手で読んでいた本から目を離して私の方を見てきた。


「あれはこの森の精霊だ。とは言っても大精霊だがな」

「大精霊…精霊と大精霊の違いってあります?」

「前提として…精霊っていうのは世界の龍脈から溢れる魔力を蓄えて生きている。蓄えるためには器が必要だよな?生まれた年月の長さに比例して器も大きくなり、蓄えられる魔力も増えていく…衰えることのない、永遠に成長していく生き物みたいなものだ。」

「へぇ…」


 龍脈ってなんや…とりあえず頷いておく。


「大精霊はこの世界が生まれた時から生きているような精霊のことだ。そしてこの森は龍脈が大きい。龍脈の豊かな土地には大精霊がいるもんだ」

「この森の主みたいな?」

「実際に主だろう。昨日は精霊に好かれるお前の姿を見にきたんじゃないのか?」


 パチパチと暖炉の薪が燃える音がする。


「あー…わたし、失礼なことしちゃいましたかね…?」

「別に気にしなくていいだろ。何百年以上も生きていて、人間とは違う感性を持っている。見に来たけど見れなかった程度にしか思ってないだろ。不満なことがあれば今頃この家はない」


 そういい終えると再び本に目を落としてしまった。

 レイさん適当なこと言ってないですかね?

 でも、レイさんがそう言うならそれを私は信じるしかない。この世界の常識はレイさんからしか知り得ない。

 

「レイさん、何かあったら起こしてください…」


暖炉の暖かさに瞼が重たくなっていく。今日の仕事は終わっているし、少しお昼寝…


























「…寝たのか」


 静かな吐息をたてながらソファーに身を委ねるように眠っている美佐子の側に近寄る。

 身動ぎし顔にかかった黒く細い髪の毛をゆっくりと撫でるように顔の横へどかす。

 幼さが残る顔。本人の性格も相まって子どものように思うこともある。けれども時折、ふとした仕草に女を感じる。

 遠慮気味に指先で触れてくるとき、料理をしている時の静かな後ろ姿、近づいたときに感じる体温。信頼し、安心しきった顔を向けられたとき。

 段々と自分の中にあった感情が変化していっている。

 このままの関係をいつまでも続けられるのか。


「…お前が思うまま」


 お前が傍に居るのなら、お前の望むような関係であり続けよう。この場所でしか生きられないお前のためならばいくらでも自分の気持ちを誤魔化せる。

 お前のためならなんでもしてやれる。


「だから…俺に守られていてくれ」


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