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注意:ちょっとグロ描写があります。
…少し寒い
目を開く。マフラーを顔に当てていたため、涎が付いている…
辺りを見るがやはり森。
(夢ではないのか)
寝起きだからか頭がぼーっとする。
だが次第にはっきりとしてくる。
夢ではなかった。かなりの絶望だけれども寝る前のような怖さはなくなっていた。
ここにずっといる訳にもいかない。少し日が傾いている。どこか人のいるところに行かないといけないと思った。
かれこれ30分ほど歩いているが、木木木木木木木ばかり。これ森だわ、人いない森だわ。
なんとなくこっちだと思う方向に歩いている、不安。
川が見つかれば、人里に行けると思うんだけど、木しかない。あと岩…
元いた場所よりも木が更に生い茂っているように思う。
(…森の奥に来ちゃってる感じ…?)
それに動物も見ない。元々人前に姿はあんまり現さないとは思うけど、鳥の鳴き声も聞こえない…
日も起きたころよりも傾き、オレンジ色の光が森を照らしている。
それらがより私を不安にさせる。
だめだ、暗くなっては、明るい気持ちでいないと!
つまり…
「あっるっこーあっるっこーわたしはーげんきー!」
歌うしかないっ!
こんなに歌うの久しぶりだわ、高校以来。カラオケとか行く友達いないし、一人カラオケは恥ずかしいからなー。
歌を歌ってみたけど、歌詞なんて覚えてないから、同じフレーズを繰り返し歌っている。正直すぐに飽きた。そして恥ずかしい…
(歌うのやめようかな…)
と思っていたら、遠くから何かの音がする。どきっとする。思わず立ち止まる。何の音だろう。
音のする方角に顔を向けようとするが、いやな予感がして、向けない。
どす、どす、どす…とゆっくりと、次第に近づいてくる。
…人の足音じゃないよね、お相撲さんでもこんなに草生えているところでどすどす歩かないと思う。
じゃあ、なんだこれは。
どくどくと心臓が拍動する。逃げなきゃと思うが、張り付いたように足は動かない。
段々足音が大きくなってくる。
こわい、どうしよう、どうしよう
頭の中が混乱して、何もできない。
がさり
大きな音がなった。思わず音の鳴った方を見る。
そこには緑色の皮膚、とがった耳、下顎の犬歯は鋭くでている、ひと…
…ひとじゃねーよこれ、でかい、これオークじゃね?
そう思ったとたん、私は走り出した。
「はぁ、はぁっ」
鞄は邪魔でさっき投げ捨てた。途中でヒールが折れたけど止まれない。
当たり前だわ、オーク(仮)が追いかけて来ているんだもの。
止まったら奴の持っている剣?でなんかされそう。私の予想だとパックリいきそう。剣?がなくても、筋肉質な体でメキメキされそう。つまり死ぬ!!デスだよ!!
でも、オークは図体がでかいからか、私に追いつくほどの速さで追いかけてこれない。だからといってずっとこのまま走り続けることは不可能だ。今でさえ、喘いでいる状態なのに。奴が私に追いつくのは時間の問題だ。
とにかく、草や木をかき分けて逃げる。走ることなど滅多にないから足がもつれそうになる。ヒールの靴なんか履かなきゃよかったよっ!!!ぬおおおぉ…(後悔)
「あっ」
痛い、やばい転んだ!
木の根っこに足が引っ掛かったんだ。
急いで立ち上がろうとするが、体が重く感じて持ちあがれない。
必死に走っていたから体力を全て消耗しちゃった感じ?てへっ
(てへっ、じゃねーよばか!!)
とにかく逃げようと這いずるように前へ進む。手や膝が汚れることなんか考える暇はなかった。
しかし、私を覆うように影がさす。
陰は縦にも横にも大きく、獣臭さが後ろからする。
振り返らなくてもわかる。追いつかれた。てかくっさ!
(あー、もうあれだ、助からねーわ…死ぬんだ……)
逆にこんな状況になると冷静になれるのか、他人事のように思えてきた。
陰の左腕が大きく上がる。手には剣が握られている。
死ぬんだな、やだなー、喰われるなら死んだ状態にしてから喰ってほしい。
力が抜ける。目を閉じて、来るであろう死を待つ。
(なんてできるかっ!!!)
力を振り絞って左の方へ転がる。
なんか少し諦めちゃったけど、無理だわ!
「死ぬならベッドの上で死にたいっ!!」
言うつもりはなかったのだが、思わず大きな声で言ってしまった。
それと同時に普通に生きたかったのになんだこの仕打ちは!という気持ちが爆発したかのように私の頭を埋め尽くす。
「なんであんたなんかに殺されなくちゃいけないわけ、最悪っ!
もう穴なんか覗かなきゃよかった!もうあの時の自分をぶん殴りたい!!!ちきしょう!
こっちくんな!!臭いんだよ!!バカ!はげ!」
動けないから、思ったことを吐き散らした。
オークは言っていることは理解してはいないとは思うが、さっきまでじっとしていた獲物が活き活き?しだしたことに驚いたのか、目をくわっと見開いている。
しかし、すぐにまた剣を振り上げる。
最悪死ぬ
なんでか悔しくて涙がでてくる。恨んでやると思い、オークを睨み付ける。
剣が私に向かって勢いよく振りかかってくる。
死んだら呪ってやる、いっそう強く睨み付けた。
次の瞬間目の前を何かが横切った。
風を切るような音とともにオークが消えた。
間を置かずに大きな音がする。何かがぶつかった音だ。とたんに血生臭い臭いが微かに鼻にくる。
思わず横切った何かが来た方を向く。
そこには男がいた。
背は高く、漫画でよく見る冒険者の姿をしている、と思う。
気づけば辺りは暗い。月と星の光だけが唯一の灯りで、あまり様子はわからない。
(助けてもらったのかな?)
「あ、ありがとうございます…」
何か言わなくてはと思い、口にするが、男は無反応だ。
これ言語が通じないパターンですか?
ぶつかった音のした方から呻き声が聞こえる。オーク生きてんのかよ。
すると男はオークに近づいていく。右手には剣が握られている。
私は男の動きを目で追う。
なんか喋ってはいけない雰囲気だ。黙っておく。
オークは木の幹に寄りかかっていて、息絶え絶えのように見える。肩から腹にかけて大きく斜めに斬られたらしい。
顔を向けるとより強く血生臭さと元々の悪臭がする。
吐きそうになる。
すぐに口元を手で押さえる。臭いは軽減されない。少しの気休め程度のものだ。
男はオークの前にくると、持っている剣でそれを刺した。
刺す音はしなかった。しかし、ぐちゅぐちゅと肉を掻き回す音がする。
気持ち悪い。
頭がぐるぐるする。
意味の分からない世界に来たこと、あり得ない生物に追いかけられて、殺されかけたこと、何かが殺される場面を見てしまったこと。
もうなんかいっぱいいっぱいな気持ちだ。
気がつけば男が目の前にいる。俯いているため男の足しか見えない。
なんか言った方がいいのか、しかし言葉はでない。
もしかして、私も殺される?
理由なんて思いつかないが、殺されるような気がしてきた。
怖くて、ただ男の反応を待つしかなかった。