17
(この光は何なんだろう)
掴もうとすると手からすり抜けていく。
(…これ霊的なものじゃないよね?)
微かに手からすり抜けたとき暖かい感じがした。
(………これ、開き直るしかないよね。暖かかったことは気付かなかったことにしよう)
人魂疑惑は忘れて…折角周囲が明るくなったわけですし、あとはこの光が自動追尾機能的なものが備わっていればここから別の場所へ移動するのも楽になりそう。
ポチを抱えたまま来た方向とは逆であるはずの方向へ歩く。そして私たちに付き添うように光の玉も一緒についてくる。思惑通りに事が進み、満足である。
それにしても傍から見ればなんとも不思議な風景だろう。
魔法とか、精霊だとか色々話は聞いていたけど、今が一番ファンタジー感のある光景に出くわしている気がする。
ふと思えば、こんなに明るいならポチの姿が見れることに気づく。
腕の中に抱えられているポチを覗き見ると、犬にしては足は短く尾は太く、耳は丸く小さい。そんな生き物が私の顔を見てどうしたの?と言わんばかりに首を傾げている。
これは…たぬきだ!
うわー懐かしい!昔おばあちゃんちで一回見たことある!てか、かわいい!はー癒し…
でも私の知っているたぬきと違い、青い瞳に白と薄い青色の混じった体毛、目の周囲が薄い青色。焦げ茶と黒の毛色ではなかった。んーこれは異世界的な色の配合なのだろうか…
まぁ兎にも角にも、ポチの正体もはっきりわかったし、すっきりした。
それからしばらく歩き続けた。何にも遭遇することはなく、危険な道を避けて通り、ポチを抱え、周囲には光の玉が漂う。
もう歩き続けるのは飽きてきた。辺りは明るくなったから見渡せるようになったけど、景色は変わらず。
「ポチ、これからどうしよっか?」
もしこのまま誰も見つけられず、誰にも見つからなかった場合どうすればいいのだろう。
「だめだー暗い気持ちになっちゃう」
ははは…
力なく笑うと周囲の光が弱くなったような気がした。
ポチが慰めるように頬を舐めてくる。
ヌルっとしているけれども、私を気にしてくれているのがわかる。
そうだよね、暗い気持ちでいても仕方ないよね。
今できることはただ進むこと。出来れば魔物に合わずに…
気持ちを切り替えて歩み始めようとしたとき、
…何だろう、何か聞こえる
遠くから何かが聞こえる。
ポチもしっぽを動かすのを止めて、じっと音のする方を見つめている。
え、何、なに、なんなの。
次第にこちらに近づいてくる。
怖い、やだ、どうしよう。
その場から動けず、立ち止まったまま。
こわい、どうしよう、やだよ。
だって、まだ。
まだ、なにもできてない。
まだ、なにもしてあげられてない。
まだ、まだ、まだ、…
こわくて、しゃがみこむ、もうだめ、だって、すてられたんだよ、ここでどうなってもだれもきにしないよ。どんどんちかづいてくる。
きゅうにおとが、おおきくなる、わたしのことがみえちゃったのかな?
さっきよりいきおいがついたようにおとが、ちがづいてくる。
ごめんなさい、もうだめかも、れいさん、ごめんね。
おとがとまって、あらいいきづかいがきこえる。
「心配したんだぞ」
げんちょうかな?もう、わたしってばかだなー
めをつぶって、うずくまって、ぽちをだきしめて、あ、ぽち、にがさないと。
うでをゆるめてもぽちはでていこうとしない。ぽち、しんじゃうよ。
またほおをなめるかんじがする。こうなってからぽちにははげまされてばっか「おい!」
びっくりして、からだが、びくつく。
だって、このこえ、
「顔を上げろよ」
おそるおそる、かおをあげてみる。
だって、だって、この声…
「なんだよ、またそんな顔して」
「れ、れいさん…」
しゅういはもう、くらい、さっきまでのひかりのたまはどこにいっちゃったの?
でもわかる、この声、この感じ、つきあかりが、たよりなく輪郭をうつし出す。
近づいてきて、わたしのそばで、しゃがみこむ。
てを掴んでくる。
「…こんなに冷たくなって、痛いだろ?」
うん、いたいよ、てじゃなくて、ぜんぶいたいの。
「黙ってどうしたんだ?」
わたしに羽織っていたものを掛けてくれる。あたたかい。
レイさんだ、レイさんが来てくれた。
どうして、だって、わたしのこと、どうでもいいんじゃないの?
でも、もう、いいや、レイさん来てくれたんだ。
ぽろぽろ涙が溢れては、頬を伝う。
レイさんはぎょっとしたような顔をして、どうした、と聞いてくる。
嬉しいんです。こうして私を見つけてくれたことが。
そう伝えたいけど声が思うようにでなくて、嗚咽が森に木霊する。
そうしてると、レイさんが覆いかぶさるように抱きしめてきた。
暖かい。
間に挟まれているポチには窮屈だろうけれども、私はこの状況が、今日一番うれしくて、安心できた。