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夕食後、食器を洗ったらレイさんに「座ってろ」と言われた。
その言葉に甘えて暖炉の近くのソファーに腰を掛ける。今では私の定位置となっているが、元々一つしかなかったものを私が居候するにあたりレイさんが買ってくれたものだ。
…私が欲しがる前にレイさんが買ってくれるから私に欲しいものがないのではと思う…
そんな気が利くレイさんになぜ彼女がいないのかと考えているとレイさんがやってきた。
「ほらお前の分」
私のマグカップが差し出される。
「ありがとうございます」
それを受け取ると、レイさんは自分のソファーに座る。
マグカップの中を見ると小豆色に近い色の液体が入っている。…なんだろう小豆色ってすごく適切じゃない表現だと思う。おいしそ…
「っうごっ…!」
え?!なにこれ?!湯気でむせた!!
「ふっ」
ちょ、笑ったな?
温かいお酒なんて初めて多分気化したアルコールでむせたのだろうかわいそうというか間抜けとういか…ともかく私の姿を見て笑ったであろうレイさんを見ると、自分のソファーに浅く座り寛いでいる…少し微笑んでいるような…呆れているような…ってレアじゃん!!無表情じゃないレイさん!!はー心のレイさんアルバムに保存ですわ。たまらんわー。
レイさんは髭で顔がだいぶおっさんだけど、こう、髭がなかったらワイルドなおっさんだよなー身体は引きしまっていて、筋肉モリモリマッチョマンだし、焦げ茶色の短髪に切れ目で、本当に髭がなければ眉目秀麗ってやつだろう。
目じりを細めこちらを見ていたが、じぃっと見ていたせいか珍しい顔はすぐにいつもの無表情に戻る。
「どうした?」
「いや!おいしそうだなーって!!お酒が!!」
「なんで俺の顔を見て言うんだよ…」
そう言いつつマグカップに目を向け直しレイさんは飲んでいる。
ここにスマホがあればあの顔を撮れるのになー。いや、まずレイさんが撮らせてくれるのか?いやないな。そうしみじみ思いつつマグカップに口をつける。
…甘い?
もう一口飲んでもやっぱり甘い。
お酒ってもっとアルコールですからっていうような、さっきみたいにツンってくるようなものだと思ってた。
「甘いんですね」
「ああ、蜂蜜入れてる」
「えっ温めるだけじゃないんですか!」
「いや、蜂蜜とシナモン、クローブを入れてる」
「はーなるほどー」
いや、クローブってなんだよ。グローブ?野球の?
温めるだけでなく、色々入れてるんだなーって思いました。
暖かい暖炉の前で飲んでいると目的通り身体がホカホカしてきているように思う。
オレンジ色の炎を絶やさないように火ばさみで太い薪木を追加する姿を見ていると瞼が重たくなってくる。
(あぁ、眠いなぁ…)
部屋に戻って寝た方がいいと頭ではわかっていても、この心地よさを手放すのも惜しい気がして…
うとうとしていると何かに覆われるような感じがした。
ぼんやりとする視界で見るとブランケットが掛けられていた。
あーレイさんかな?ありがとう。もうここで寝ちゃうね。おやすみなさい。
そう心で思ったら、おやすみって聞こえた気がした。