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幸せになりたい。  作者:
2 精霊と冬
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「あ゛ーつかれたー」


 最後の雑草を抜いて、うんと背筋を伸ばす。

 毎日抜いてるのに次の日になると「昨日もいました」みたいにしっかりと生えているのだ。おかげで毎日雑草を抜かなくてはならない。

 というのもこの畑には豊作の加護?がかけられていて、植物が育ちやすいのだ!すげぇ!流石ファンタジーな世界だぜ!

 この加護のおかげで野菜が早く収穫できるわけなんだけど、まぁ雑草も生える。

 レイさんは気にしていないらしく、週に1回やればいいと言っていたが、見た感じ雑草ぼうぼうは嫌なので抜いている。

 まぁ一番の理由は野菜と薬草、雑草の区別がつかなくなるからね!

 この世界には見たことない野菜もある。私からしてみたらそれ色的に食えんのか?青いじゃん…っていう感じ。

 一度間違えて薬草の苗を抜いてしまったとき、それが珍しい物だったらしく…あああああああああああああ思い出したくないからパス!あんなレイさんは二度と拝みたくない…

 というわけで雑草抜きを毎日頑張っているのです。

 空を見上げれば、もうオレンジ色に染まりつつある。

 私がこの世界にきてから一か月半ほど経った。季節で言えば今は初冬。日が沈むのが日に日に早くなってきている。


「…ふー、シャワー浴びてぇ」


 思うに私はこの生活に慣れてきたのだと思う。

 男の人と一つ屋根の下…自分にできるのか恥ずかしくなったり、挙動不審になったりしてレイさんに迷惑をかけるのでは…と思っていたが、私は私が思っていた以上に図太い神経の持ち主だったのだろう。ちゃっかり普通に生活している。

 

(なんかレイさんってお父さん味あるんだよなー)


 例えば、服を脱ぎっぱなしにしてると、「散らかすな」

 食事中臭みの強い野菜を端によけると、「好き嫌いするな、食え」

 足で蹴って扉を閉めると、「やめなさい」

 ん?お父さんよりお母さんみたい?まぁ安心する…実家のような感じを私に感じさせてくれるのだ。

 しかし私は思った。

 これは…もっとフレンドリーな感じでもいいのではないのかと…

 確かにレイさんは私より年上だ。いや年齢知らないけど。多分そう。でなければあそこまでの安心感は生まれないはずだ、うん。

 そう、レイさんは私からしてみて家主というより親のような感じがする!

 でも実際は血のつながりなんてないし、住まわてもらっているのも懇意でのようなものだ。

 だからこそ、もしもレイさんに恋人…ができたとして、私のことを見たら…黒いことは抜きにして子持ちと思われるのではないでしょうか?

 森に棲む浅黒くごつい口悪いおっさんと娘…

 レイさん結婚できるかな?娘心配…


 そこで、親子の関係から親しき友人のような関係を築いていこうと思う!

 レイさんが恋人を連れてきたら私はどうなるのかは考えない!むしろ私の所為でレイさんが結婚できないことの方が重要な問題だ。

 あの時は理不尽だとか悔しさだとかで生きたいって気持ちが強かったけど、今は平和ボケしてるんだか死ぬのはしょうがないことと思えるし。

 それに元々この世界の人間じゃないし、私が死んだところで迷惑掛からないし。

 いざとなったらチャチャっとこの森で野垂れ死んでやるぜ…


 ふふふ…と思わず口から笑いが出てしまう。

 その時はその時、何とかしてみようと思っていると両肩に重みを感じる。

 振り返るといつもの無愛想な顔をしたレイさんが私の肩を掴み見下ろしている。


「何気持ちの悪い声出してんだ」

「ひどいっ」

「それより終わったのか」

「それで片付けないでください!…まぁ見ての通り雑草は駆除してやりましたよ」

「別に毎日しなくたっていいだろ」


(もーいいじゃん!きれいな庭の方が恋人との好感度上がると思うんだけどー)


 まずはこの効率的な性格を直した方がいいのか…?

 いや、頑固そうな人間の矯正なんて無理だわ。この性格ごと好きになってくれる人を見つけてレイさん…


 薄暗くなったオレンジ色の夕焼けの中、恋人できるかなーと少し遠い目でレイさんを見つめる。

 なんか髭剃ったらワイルドな面になりそうだけど、そんなことしたら私が暮らしにくくなるのでアドバイスしない。ワイルドでイケメンなおっさんとか…はーヤバすぎる、息できなくなるわ。


 徐々に開拓しつつあるおっさん萌えに思考しているといつの間にか私は頭を撫でられている。


「ぎゃっやめろ!」

「なんだ、いやなのか」


 にやにやしながらがしがしと頭を撫でら…違う!首もげそう!痛ってぇ!


「やーめーてー!」


 レイさんの腕を掴み、離すように必死に抵抗する。しかし悲しきことに、びくともしない。くっ私は非力な娘なのだ…!


「よしよし、ほら家へ戻るぞ」


 ひとしきり撫でまわして満足したのか、手を放し私の背中を軽く促すようにしてたたく。


(…そのくらいの加減で頭も撫でてもらいたいものだ…)


 レイさんに恋人できるのかなーと思いつつ、「はぁーい」と間延びした返事をしつつ家へ帰るのだった。



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