閑話
女を拾った。
魔石を集めた帰りだった。
生まれた時からの加護で夜であっても目が利くため、普通であれば森から身を引かなければならない時間であってもいられる。
そんな森の中、聞いたことのない言葉なのか、興奮して訳が分からなく話しているのか、聞き取れない怒声が聞こえた。
(この森に入るとは自殺者なのか)
声のする方へ静かに駆け寄ると、オークに殺されかけている場面に出くわしてしまった。とても面倒だ。
都合よく、どちらも自分に気づいていない。
聞き取れない怒声にオークは驚いたのか動きを止めていたようだが、目に殺気が戻っている。
(死んだな)
そう思いながら、死に様を見届けようと人間に目をやる。
黒髪を見た瞬間、剣に魔力を込めた。
家に着き、空いている客間に女を寝かせる。
背負っていたらいつの間にか眠った。警戒心はないのか。
女はやはり知らない言葉を話していた。知らない土地に来て、この森に迷い込んだのか?
目の前で横になっている女は動かない。気配を探ると微かな呼吸の音だけがする。
本当に寝ているのだとわかると呆れよりも関心する。
話は明日聞くことにして、今日は寝る。
目が覚め、あらかた仕事を済ませてから女のいる部屋へ向かう。
非力そうな女であっても魔力を宿している。
もしもの時のために短剣を忍ばせておき、客間へ行くと、引き出しに手をかけていた。
女は振り返ってこちらを見てくるが、…なんだ。
こちらを疑う様な眼差しをしてくる。
良い気はしない。
突っ立ているのも疲れるだろうし、さっさと話を聞きたい。
女に声をかけて、適当に座ると後をついてきた女も向かい合うように座った。
名前、そして黒について話した。何も知らなすぎる。
次第に一つの考えに行きつく。
「あんたどっから来た」
(異世界か?)
聞いたことがある。少し前に…大都にいたとき、どっかで発見された古書に異世界への魔法陣が載っていたと。しかし、実行するには膨大な魔力を必要とするため、不可能だと仲間が話していた。
あの話は本当だったのだろうか。
俯き、動かない。
下がった黒い前髪から覗く瞳は、次第に目が虚ろいでいく。
既視感。
あの人と同じ眼差しだ。
どうしようもないのに、誰にも助けを求められずに追い詰められた、あいつと。
咄嗟に声をかける。苛立った声だ。
お前に腹を立てているわけではない。
少しでもあいつとこいつを重ね見た自分に腹が立ったのだ。
同じであって同じではない。
それでも助けずにはいられない。
それ以外に自分が為せる贖罪がわからないからだ。
今日も女は笑って過ごしている。
笑いかけてくる。
「きいてくださいよー!さっき、庭で餌やりしてたら…」