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幸せになりたい。  作者:
1 出会いと秋
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「ふんふんふーん」


 畑仕事も終わって、昼ごはんの準備を始める。

 電気もガスもないから、竃を使って調理をするのかと思っていたけど、そんなことはなかった。水をタンクから出すのも、火を使うのも全て魔術なのだと言われた。

 なんでも魔物は倒すと心臓が石化して、魔石になり、その魔石を使って日常的に使うものを動かしたり、魔術を使ったりしているそうだ。…あのオーク(・・・・)からも採れるらしく、オークから採ってきた魔石を実際に見せてもらった。それは真っ黒で、ビー玉ぐらいの大きさだったけど、艶のある光沢を持っていて、オークの心臓とは思えないほどきれいだった。

 魔石は消耗品だから、取り換えが必要だけど、ギルドで魔物を討伐する依頼や素材集めついでで倒した魔物から採ってくるって感じで、数には困らないし、値段も普通のサイズなら高くないから便利らしい。

 町へ行くのも半日かかるここ(森暮らし)ではどうしているのか聞いてみたら、ギルドの依頼や店で買わずに自分で魔物を倒して魔石を採ることもできるから、問題ない、とのことでした。

 まぁ、確かにオーク倒したもんな…あのぐちゅぐちゅ音は…うん、そうなのね…

 生身では魔術を扱うことはできないけど、道具を介してなら魔石でも魔法が使えるらしく、戦闘においては杖がその代表らしい。

 魔石は大きいほど魔力を有しており、価値も高く、普通では買えないほどのものらしい。中には普通の大きさ(ビー玉よりも大きめ)でも莫大な魔力のある魔石もあるそうだが、そういうのはガチャのSSR並みって感じな説明だった。

 

 取りあえず水を沸かしたいから、栓をひねる。すると魔石から魔力をガスコンロ似の機械のなかに流れていくらしく、そうするとすぐに青い火が円になって点くのだ。わーガスコンロみたーい。

 あとは火力を調節して、水の入った鍋を置いて、コンソメみたいな味のする粉を水に入れ、蓋をする。


 沸騰するまでの間に、ニンジンは賽の目、玉ねぎはみじん切りにして、キャベツは細かく切る。

 沸騰したら、野菜を入れて煮込む。


「…そこそこ料理していてよかったわ」


 本当に思う…一人暮らししといてよかった…

 やっぱり、一応男の人と暮らすことになった訳でして、掃除はできない、畑仕事もできない、料理もできないんじゃ愛想尽かされそうだもん。捨てられたら終わりだからな。THE ENDダヨ…

 それでも掃除も畑仕事も料理もレイさんの方が断然上手…てか手慣れていて、私の立場ないけど、いいんだよ!全く出来ないよりかはましだ!









 午後の畑仕事もして、することがなくなった。

 薬草採取は…やらなくていいって言われたから、しない。

 部屋を見回してみるけど、面白いものはない。レイさんは余計な物を置かない人らしく、小物や遊び道具を持っていなかった。その分掃除は楽だけど、何もないのもなー…

 時計を見ると15時過ぎ、昼寝すると夜寝れなくなりそうな時間帯。

 

(…川まで散歩してみようかな)


 獣道が整えられたような道を歩き、川辺へ向かう。今日はいい天気だから、木漏れ日が程よく暖かで、昼寝に最適な感じだ。寝たらダメだけど。


 5分ほど歩き、川に着いたけど、することがない…

 水汲み以外で来ないし、なんか探索しようかと思ったけど、何処までを精霊さんが守ってくれているのかわからないからフラフラできない…








 しばらく川辺に座って辺りを眺めていたけど、体育座りが辛くなってきて、寝っ転がった。

 辺りには草が生えていて、いい感じにクッションになっている。ちくちくしない!いいよ!いいね!!


 昼寝はしないって決めたのに、眠くなってくる…寝っ転がらなければいいんだけど、いい天気だよ、それにいい感じに暖かくて、しずかで……

















「…ん、…あ…」


 少し寒くて目が覚めた。

 気付けば辺りは薄暗くなってきている。川辺の向かい側の空がオレンジ色になっていて、寝てから大分時間が経ったのがわかる。


(帰って、夕食作らなきゃ)


 家に帰ろうと思い立とうとしたとき、ふと考えた。


「…レイさんいつ帰ってくるんだろう」


 半日かかるからまだだよね。

 帰ろうとしていた足を止める。なんだか不安で、このまま帰るのが嫌なように思う。


 別にあの家が嫌なわけじゃない。帰ってまだレイさんが居なかったら、帰ってきていなかったら、嫌なの?


 仕事をしていると、時間はあっという間に過ぎて、考えなくていい。でも、何もしなくなれば、時間が過ぎた分だけ、いつ帰ってくるのか気になってしまう。


 女々しくて、気持ち悪い。

 でも、帰りたくないんだ。


 座り込んで森に日が落ちるのを見ながらぼーっとしていると、肩に何かが乗った。

 突然のことで、びくっと身体が揺れる。

 

(え、あえ、なに?)


 怖くて振り返られない。虫?動物?もしかして魔物?…魔物はない。

 虫でないことを願いながら、恐る恐る振り返ると、巨漢がいた。


 いや、レイさんが居た。なんかむすってしている。


(なんだよービビったー)


「…なにニヤついてんだ」

「え、にやついてないです」

「強張ったくせに」

「強張ってない、気のせいで〜す」


 自分でもにやついているのは分かっている。だって安心したら顔が緩んで、にやけてしまうんだもん。


「いつ帰ってきたんですかー」


 ズボンに付いた草を払いながら立ち上がって聞く。


「…?」


 返事がない。

 聞いてる?この距離で聞こえないとか、年?そこまで年いってはいないはずだと思うんだけど。


 下げていた顔を上げてレイさんを見る。

 むすっとした顔で私を見下ろしている。顔を上げ、目が合う。


「…何かあったのか」

「…なにも、なかったですよ?」

(心配してくれてたのかな?)


 ちょっと嬉しいと思っていたら、腕を引かれそのまま歩き始めた。


「ちょ、いきなり引っ張るのやめてください」

「お前歩くの遅いだろうが」


 そりゃそうだけど、こっちの身にもなれおっさん。


「だからって引っ張られるとつまずきそうになるし、っあれ!あれ謝ってくださいよっ!」

「なんのことだ」

「ほら、はじめて会ったとき、私のこと引っ張って歩きまわしたじゃないですか」

「あぁ?そうだったか?」

「そうだったか?じゃないですーそうだったんですー。それで、私転んだんですけど」

「はぁ」

「レイさんの所為なんですけど」

「違うだろ」

「そうですよ」

「体力のないお前が悪い」

「なぜに私の所為になっているんです?」

「うるさい」

「えぇ…?」


 ぎゃあぎゃあ騒ぎながら家路を辿る。

 なんかこの感じいいかも。気兼ねする必要のないやり取りが楽しく思える。


「レイさん」

「ん?」

「ごはん何にしますか」

「あぁ、町でパンと肉買ったからそれだな」

「肉!!いいですね!」

「後はサラダかなんか作りゃ十分だろ」

「あ、私昼に作ったスープありますよー」


 明日も、その次の日もこんな風に暮らしていけたらいいな。



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