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俺が侯爵になっても、ハーレムは作りません。  作者: 真木あーと
第二章 俺が外交官になっても、周りからは冷たく扱われます。
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第三節

 翌日の朝、俺はいつもの時間に起きて、メイドに付き従われて食堂へと向かった。

「よお、おはよう」

 そこには既に四人が座っていた。

 四人というのは、リンとミリィとリーヤとアンオツだ。

 アンメルも貴族だからここに座る権利はあるんだが、「主君と食の席を共にするなんて!」とか言って、リンの後ろで控えている。

 カザキ男爵家には、下流貴族も同じ席に、という風習はないようだ。

 俺の隣にミリィ、向かいにリン、その隣にリーヤ、アンオツの順に座る。

「おはよう、リン」

 俺は更にリンへ挨拶をした。

「……おはよう」

 リンは少し不機嫌そうに挨拶を返した。

 昨日あんなことがあったし、照れくさいんだろう、などと思っていたらそうではなかった。

「あらあら、お兄さまのご挨拶にそのような挨拶を返すなんて、本当に婚約者(フィアンセ)ですの? それとも、十分な教育をされていないのかしら?」

 ミリィがそんな嫌味を返す。

「こんな奴、これで十分よ」

 リンは、ふん、とそっぽを向く。

 ああ、昨日の事がどうのよりも、朝からこんな嫌味を聞いてたから機嫌が悪かったのか。

「こんな奴とは失礼ですわね。これでももうすぐ侯爵様ですのよ? 男爵の娘程度のあなたにこんな奴呼ばわり出来ますの?」

「そんなもん、知らないわよ」

「ふふふっ、何も知らないんですのね。これだからお子様は困りますわ」

 ミリィは嘲笑で返す。

 ちなみに爵位っていうのは一応ランクがあって公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順にはなっていて、この爵位をもらえないのが下流貴族と呼ばれている。

 だけど、この爵位のランクはただ、王様からもらえる領土の広さのランクであって、実際はその貴族の社会的地位で誰が偉いかが決まることが多い。

 ただ、俺が侯爵にふさわしい地位として外交副司監という役職に就いたように、爵位が社会的地位を決める一要因になっているのも事実だ。

 とはいえ、自ら地位がもらえるわけじゃない女の子は、父や夫の爵位が全てだと思うことも多いらしい。

 一応親父の手伝いをしていたミリィはそれを知った上で、リンがそうでないと思ってあえてそう言ってるわけだ。

「まあ、お前ら落ち着け──」

「ま、あんたよりは大人だけどね、心は」

「なんですって! ……いえ、私は大人ですから寛容なのですわよ。お子様の暴言くらい許して差し上げます。ただし、お兄さまの悪口は許しません」

「言ってあげるわよ、あんたのお兄さんはロリコンよ!」

「くっ! そんな反論できない事を!」

「いや、そこは反論しろよ」

「だってお兄さま!」

「いいから一旦やめろ。」

 俺は強めの口調でミリィに言う。

 ミリィは一瞬反論しようとしたが、すぐにしゅんと項垂(うなだ)れた。

「とにかく、飯くらいは穏やかな気持ちで食べよう、な?」

「だけど、そっちの方から──」

「続けるなら俺も絶対に食事中にしてはいけない類の話をする」

 俺はミリィやリンのようなお嬢様なら、食事時でなくても顔をしかめるような汚い話を沢山知っている。

 それを言われると、多分今日だけじゃなく何日かの食欲に影響が出るかもしれない。

 それを知っているミリィの顔が蒼白になるし、知らないはずのリンですら嫌そうな、少し恐怖を含んだ表情をする。

「ほう、その話はとても興味深いですね」

 だが、それに意外な人物……でもないか、アンオツが食いついてくる。

「いや、あのな、アンオツ……」

「さあ、その話をしてください!」

 なんだこの食いつきよう。

「これはさ、二人の喧嘩を止めるための──」

「ジャン様がされないのであれば、まずは私から。昔、私の実家の裏に、とても大きな──」

「やめろ!」

「やめて!」

「アンオツ!」

 俺たちは慌てて、アンオツを止める。

「何故止めるのですか! 始めたのはジャン様ですよ?」

 表情は変わらないまま、どうも怒った口調で俺を見るアンオツ。

「あー、うん、悪かった。悪かったからもうやめろ」

「分かりました。では、その代わりにジャン様は私を楽しませる話をしてください」

「分かった。じゃあ──」

「ちなみに私はえろーい話で楽しめます」

「そんな話、婚約者(フィアンセ)と妹の前でできるかっ!」

 全く、こいつのペースに乗ってしまった。

「出来るか、って事は、そんな話を知っているのね?」

 リンの目が俺を睨む。

「どういう事ですの、お兄さま?」

 ミリィまで俺を問い詰める。

「いや、だから、人から聞いた話に決まってるだろ」

 一般に騎士ってのは、上品で高潔だと思われてるし、まあ、実際そうなんだが、やっぱり武の道の荒々しい野郎どもで、そういう話は夜な夜な宿舎で行われている。

 ただ、それだけの事だ。

 それだけの事だが、どうもリンもミリィも信じてくれない。

「落ち着けって、俺みたいな脳筋(ノーキン)が女にモテると思うのか?」

「……思ってるわよ」

「お兄さまはおもてになるのでは?」

「モッテモテでしょうな」

「ジャン様……素敵です……」

 一斉に否定された。

 リンの後ろから不穏当ともいえる声も聞こえたがあえて無視しよう。

「だが、俺にはそういう経験はこれまで一切ない。残念なことにな」

「残念、ですか」

「そりゃあ、経験豊富なら、もっと器用に振舞えるんだろうけどな。こんなことでは将来ハーレ……ハムレタスはまだかな?」

「……そんな料理はありませんわ。お兄さま、今何とおっしゃりましたか?」

 ミリィの目が座っている。

 怖いよ、俺の妹、こんなに怖い。

「いや、何も言ってない」

「確か、ハーレムと言おうとしたわね」

「ですわね」

「前にも言ってました」

「そこに入れてください!」

 何だかヤバい雰囲気になってきた。

 いや、この国は重婚出来るんだよ!

 現に陛下も複数の奥さんと結婚してるだろ?

 俺は侯爵だ、それが許される立場なんだよ!

 などとは、口が裂けても言えない雰囲気だ。

 ゆらり、と、リンが立ち上がる。

 それを受けて、ミリィも立ち上がる。

 ヤバい、こいつら、本気だ。

「お兄さま、ここでは埃と血が飛びますから、お部屋を変えましょう」

 リンが俺の腕に絡み付く。

「そうね、あと、音が漏れない部屋がいいわ」

「それなら地下室がありますわ、さ、お兄さま、参りましょう」

 右をミリィ、左をリンに掴まれて、引っ張られる俺。

 地下室には、昔は本当に使われていた拷問道具がいくつもあったりする。

 ヤバい、こいつら本気でヤバい。

 このままでは、人格変わるまで拷問されてしまう……!

 ていうか、なんでさっきまでこの二人は喧嘩してたのに、いきなり団結してんだよ!

「ちょっと、待ってくれ……!」

「さあ、行くわよ」

 俺の言葉は全く気にされず、俺は連れ去られた。


「ハーレムハ、ヨクナイノデス」

「ジャン様、本日は親衛騎士団(ガードナイツ)へ退職の手続きと、宿舎の引き払いに使いを出します」

「ハーレムハ、ヨクナイノデス」

「あと、王城近くの外交塔に、ジャン副司監の部屋が出来たそうです。出勤は二日後ですが、まずはそこに赴いてから任命の儀を受けて、各所に挨拶に回りましょう」

「ヨクナイノデス」

「聞いてますの? お兄さま」

「ハイ、ワタシハ、ミリーナサマトリネーラサマヲ、ケイアイシテイマス」

「お兄さまっ!」

「ひぃっ! ごめんなさい!」

 妹の怒鳴り声に半泣きになって謝る俺は、最強の騎士団に所属し、これから侯爵になるようだ。

 地下牢で人格や信条が変わるまで痛みという説得を受け、今ではハーレムという言葉を聞いただけで怖くなるようになった。

 そうだ、ハーレムなんて怖いだけだ、俺は一生リンと生きていくんだ。

 そんな明るい明日を考えているときに、リーヤが語るのは過去の栄光からの決別だ。

「ということで、本日をもってジャン様は魔法親衛騎士団(マジカルガードナイツ)所属ではなくなります」

「……ああ、分かった」

 前から分かっていたことだが、改めて言われると、こう、心に来るものがある。

 魔法親衛騎士団(マジカルガードナイツ)に入るためにやってきた努力の日々が頭を駆け巡る。

 親衛騎士団(ガードナイツ)入団の許可が下りた時の高揚も懐かしい。

 俺は結局、何も結果を残さないまま、これまでの人生の大半を(なげう)って来た親衛騎士団(ガードナイツ)と決別することになった。

 そう思うと、寂しいものがある。

「それで、近日外交副司監任命があり、それ以降は外交の世界でご活躍していただきます」

「ああ、分かった。で、それからは何をすればいいんだ?」

 俺が聞くと、リーヤとミリィが残念そうな顔をした。

「お兄さま、私たちがずっと教えて差し上げていたことを覚えていないのですか?」

「覚えてるさ、外交は気合と根性だろ?」

「そんな事を言った覚えはありませんわ……」

 ミリィが物凄く残念そうにため息をついた。

 だって仕方がないだろ? 俺の人生の大半、武器や魔法の扱いを覚えて生きてきたんだから、外交なんて知るわけもないだろ。

 まあ、仕方がないでは済まされないのは分かってるんだけどさ。

 そう考えると結局気合と根性だろ?

「とにかく、登庁日までもう日もありません。恥をかかないためにも、せめて基本的なことくらいは覚えてください」

 ミリィが結構本気の顔でそう言って、リーヤも同じような表情だった。

 ほら、結局気合と根性だろ?

 そう思いながら、俺は今まで使ったことのない脳の部分を酷使した。

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