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俺が侯爵になっても、ハーレムは作りません。  作者: 真木あーと
第二章 俺が外交官になっても、周りからは冷たく扱われます。
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第一節

 そんなわけで、親父の葬儀は盛大に行われ、数多くの参列者が訪れた。

 これも親父の人望が呼んだものなんだろう、他国の貴族からも弔問の使者が多く訪れていた。

 みんなそれぞれに悲しみを口にしていたが、俺たち迎える側は忙しくて悲しんでる場合じゃなかった。

 一通りの葬儀を終え、親父を埋葬するまでにはかなりの日が流れたし、その間にも細々とやることが多くて、大変だった。 

 それを終えるとやっと一息つけるかと思ったら、今度は王様への侯爵就任内諾のお伺いだ。

 これはさすがに緊張する。

 俺は王様に会ったことがほとんどない。

 遠目に見たことだけあって、謁見みたいに話をしたことはない。

 一応、俺は親衛騎士団(ガードナイツ)って、王族を守るための騎士団に所属してるんだが、俺はそもそも、まだ任務にはほとんど付かず、王の従兄妹(いとこ)の息子って人の周辺警護を一度か二度した程度だ。

 王族って言っても何人もいるし、特に国王陛下の護衛なんてのは親衛騎士団(ガードナイツ)の中でも精鋭が任務に当たるから、当然入ったばかりの下っ端な俺なんかにはそんな重要な任務は回ってこない。

 つまり、これが初めての謁見でもある。

 緊張しないわけがない。

「ジャン様、こちらです」

 俺を誘導するのは頼もしき男リーヤだ。

 全ての手続きや手筈を一人で整えたこいつは、親父の付き添いや使者として、何度も王様に会った事があるらしい。

 まあ、とにかくこいつが慣れてるのは俺にとって心強い。

 とりあえずこいつの後について、適当に挨拶しておこう。

 俺が通されたのは、あまり大きくはない一室。

 磨かれた大理石の床と、豪華な調度があり、俺はリーヤに勧められるがままに座る。

「ここで王様と会うのか?」

「いいえ、ここは謁見の待合の間です」

「待合の間かよ」

 つまりは、謁見の順番待ちをするための部屋か。

 王様に会うには、前の人の謁見が終わるまで待ってなきゃならないが、貴族が会いに来た場合、こういう人らを立って待たせちゃ悪いから、こういう部屋を作ったんだろうな。

 何時間も待つわけじゃないのに、ここまで豪華にしなくてもいいんじゃないか?

 まあ、貴族ってのは、そういうところワガママなのかもしれないな。

 俺だって貴族だし、その中でも上流貴族なんだけどさ、騎士をやってたせいか、あまりそこにこだわりないんだよな。

 立って待っててもいいくらいだ。

「さて、ジャン様」

 リーヤがいつになく真剣な表情で俺を正面から見つめる。

「なんだよ?」

「この謁見で、これからのあなた様、そして、カーリャ侯爵家の行く末が決まります。決して……決しておふざけになることのないようお願いします」

 強く、そして懇願するように俺をじっと見て、リーヤが言う。

 こいつ、俺が一応騎士として礼儀とかそういうものを学んでるとか思ったことがないのか。

「大丈夫だ。俺だってそのくらいは分かってるさ。騎士として、最大級の敬意を払えばいいんだろ?」

「まあ、それで間違いはないと思います。ですから、決して──」

「分かってるって言ってるだろうが、信用ないな」

 リーヤは心底心配しているようだったが、俺としては、それが逆に緊張を解す事になった。

 その後は、しばらくそこでぼーっと待っていた。

「失礼いたします、カーリャ侯爵家のお方、謁見の順番です」

 来たか。

「リーヤ、行くか」

「はい」

 俺とリーヤは立ち上がり、歩きだした。

 ヤバい、緊張してきた。

 俺の侯爵就任が否定されることはないだろうが、だが、それでも機嫌を損ねたら否定も出来るし、機嫌の善し悪しや気まぐれで、いくらでも俺の人生を狂わせる事が出来る権力を持ってる人だ。

 先導の従者(ヴァレット)の後ろをリーヤが続き、その後ろを俺が続いて、豪華な廊下を歩き、大きな扉の前まで来る。

 従者(ヴァレット)が扉の前の、武装した従者(ヴァレット)の人に敬礼をする。

 って、この人、魔法親衛騎士団(マジカルガードナイツ)の人だ。

「失礼いたします、カーリャ侯爵家の方々が王に謁見を願っております。お通し願います」

「伺っております。どうぞお通りください」

 親衛騎士団(ガードナイツ)の方は、俺をちらり、と見て微笑むと、また真剣な顔に戻りそう答えた。

 まあ、当然、俺とは顔見知りだし、親衛騎士団(ガードナイツ)の中でも優れた能力を持つ人だ。

 俺も一応騎士風の礼をして前を通る。

 騎士の人が扉を開くと、その奥にまたすぐ扉があり、そこにまた同じ親衛騎士団(ガードナイツ)の人がいて、さっきの騎士の人がその扉の前の人に何かを伝えて、俺たちが中に入ると外に出てまた扉を閉じる。

「カーリャ侯爵家の方々が参られました!」

 中の騎士の人は扉が閉まるのを確認して、大きな声で叫びながら、目の前の扉を開く。

 厳重過ぎるくらい厳重だな。

 何だか待ち時間が多くて、逆に緊張が解けてしまった。

 そんな色々な過程を経て、なんとか謁見の間と思われる広間に出る。

 大きさはホールくらいありそうな広さだ。

 長く絨毯の引かれた一本道の先は階段状になっていてその上に玉座がある。

 その道の脇にはずらりと人が並んでいて、玉座の周囲にも何人か人が立っている。

 玉座に座っている、王冠をかぶった中年男性が陛下だろう。

 従者(ヴァレット)を数多く配置し、調度も最高級、服装や装飾も最高の物を着こなしているが、何ていうか、普通のおっちゃんにしか見えない。

 体型は太めで、顔も丸めなあたり、もう完全にそこらの中年太りのおっちゃんにしか見えないんだが。

 俺はもっとこう、内から湧き出る威厳があって、顔も精悍な人を想像していたんだがな。

 後でリーヤにそう感想を言おうと思ったが、長い説教が始まると思うのでやめておこう。

 こいつもミリィも俺には従順だが、俺が間違っていると思ったら、俺が納得するまで意見してくるからな。

 それはもうたまったものじゃない。

「失礼いたします、カーリャ侯爵長男のジャン・ダラー・カーリャ及び、カーリャ侯爵家執事長(スチュワード)のリーヤ・ツヴィ・チリュが王様にお目通りをお許しいただきました。我々のために貴重な時間を割いていただき、ありがとうございます」

 リーヤが頭を下げるので、俺は打ち合わせ通り頭を下げる。

「カーリャ侯爵か。惜しい者を亡くしたの……。それで用というのは何じゃ?」

 想像していたより高い声で王様が聞く。

「はい、カーリャ侯爵亡き後、息子であるジャン・ダラー・カーリャがカーリャ侯爵を引き継ぎたいと思い、まずはその内諾をいただきたいと思い参じました」

「ふむ、それは構わんが、その息子は今何をやっておるのじゃ?」

「はっ! 現在は魔法親衛騎士団(マジカルガードナイツ)に所属いたしております、陛下!」

 俺は緊張しつつも騎士風にそう答えた。

親衛騎士団(ガードナイツ)か、強いのだな。じゃが、侯爵のする仕事ではないな。ふむ……息子の名前は何と言ったかの?」

「ジャン・ダラー・カーリャです、陛下!」

「そうじゃったな、そのジャンが死んだらどうなる? 新たな侯爵を探さねばならん。侯爵に満たぬ貴族など山ほどおる。それらがこぞって我が我がと言ってくるのだ。面倒でかなわん」

「存じております! ですので心苦しい限りですが、陛下のご安全を守る身を解任させていただきたいと存じます!」

 ことここに至っても、俺は残留の道も考えてなかったわけじゃないが、これはもう引くしかないだろう。

「そうか、それならばよい。次の奉公は何か考えておるのか?」

 王様はちゃんと奉公と言うんだな。

 爵位を持った、国王から土地を預かる貴族は、無償で国の仕事をすることが義務付けられる。

 それは正確には奉公と言うんだが、その言い方は貴族でもない下っ端が身一つだけで住み込みで働くことを言うような感じがするので、貴族は誰も使わないようだが。

 礼節を重んじる騎士ですら奉仕と言ってるくらいだ。

 ま、この、御恩に対する奉公、という言い方は国の黎明期に、王の一族が貴族の一族である地方の豪族を力で従えた頃に出来た言葉だからな。

「横から失礼いたします、彼にはカーリャ侯爵と同じ外交の方面で働かせたいと存じますが、次期侯爵として相応(ふさわ)しい地位を(うけたまわ)りたいかと存じます」

 リーヤが自分で言ったとおり横から口を挟んできた。

 余計なこと言うなよ、せっかく下っ端で楽な仕事しようと思ってたのに。

 多分こいつはこう言う事で、俺に少しでも高い地位に付けられる流れにしたかったんだろうが、俺としては迷惑でしかない。

「ふむ、そうじゃな……確か外交司監が足りないのではなかったか?」

 王が、後ろに控える従者(ヴァレット)に聞く。

 司監って、確か総監の次じゃなかったっけ?

 正確には、総監、副総監の次だ。

 そんな仕事、剣と魔法に生きてきた俺に出来るわけないだろ。

「はっ、外交を希望する貴族様がいらしゃいませんので、外交分野はかなり幹部が不足しております」

 王様の問いに従者(ヴァレット)が答える。

 外交分野をやりたがる奴がいないって、そりゃ俺だって一番面倒そうなそこはやりたくないしな。

 国家を背負って国家と対するって、考えただけでも胃が痛くなる。

 こっちの王様と向こうの王様連れてきて、酒でも飲みながら話し合ったほうがいいんじゃないか? などと思ってしまう。

 それを言うと、説教が始まるので言わないが。

 あれ? 侯爵って結構立場弱いな。

「では、外交司監……いや、侯爵とはいえ、まだまだ子供のような年齢の者に、いきなり高位を与えても、困るだろう、ふむ、では外交副司監ではどうだ?」

「ありがとうございます、誠心誠意をもってお仕えいたします!」

 心の中ではなんて地位与えんだよ、とか思っていたが、表面上は身に余る光栄にうち震えてる感じを出してみた。

 副司監は司監の下で、総監、副総監、司監に次ぐ四番目の地位だ。

 あとでリーヤに聞いたら、司監が五人くらいいて、副司監は現在七人。

 総監は外交に関する全権を委任されているため、自らの決定をもって交渉を行うことが出来る。

 それこそ小規模な威嚇行為や戦闘行為なら独自の判断で行うことが出来るくらいだ。

 副総監もそれに準じた権限を持っており、司監は宣戦布告などを除けばほぼ全権を委任されている。

 この辺り、他の分野よりも、権限が多く渡されているらしい。

 外交はスピード感が必要なので、この辺りの権限委任は大きくなっているようだ。

 で、副司監は多くを委任されているが、全権というわけじゃない。

 だから、王様が初心者でかつ高い地位が必要な俺のために、副司監という地位を与えたのは適切と言ってもいいだろう。

 俺としては平の外交官から始めたかったところだが、まあ、仕方がない。

「後は世継ぎを早く作ることだな。外交は騎士よりは安全な仕事とはいえ、危険もなくはないし、カーリャ侯爵のようにいつ何時死ぬかわからぬ。妻は何人いるのだ?」

「あ、いえ、まだおりませんが……え? 何人?」

 確かに結婚は一人だけって決まりはないし、王様は何人も奥さんがいるんだろうけど。

 いや、待てよ、ということはハーレムも作れるのか?

 俺がハーレム作っても、法には触れないのか?

 おいおい、野望に一歩近づいたじゃないか!

「それはいかんな。すぐにでも結婚するがいい。侯爵の任命式は結婚の後としよう」

 俺がどんなハーレムを構築するかを妄想していたら、王様が軽くそんなことを言った。

 え? 結婚?

 結婚しないと侯爵になれない?

 ちょっと待てよ、俺まだ十六だぞ?

 この国に結婚の年齢制限はないけど、普通はもっと上でするもんじゃないのか?

 戦乱の時代には俺みたいな年齢で結婚して子供産んでから戦地に赴いたって事も多いらしいが、それなりに平和な今の世の中では、大抵結婚は二十を超えてからだ。

 まあ、それはいいとしよう。

 十六で結婚する奴がいないでもないし、今回は特殊だからな。

 いや、確かに俺も貴族の世継ぎだし、婚約者(フィアンセ)ってのがいないわけじゃない。

 でもさ、俺の婚約者(フィアンセ)ってまだ十歳だぞ?

 どうするんだ、あの子と結婚しろってのか?

 結婚しても世継ぎなんて産めないぞあの子。

「かしこまりました、すぐにでも婚儀の準備を致します。現侯爵が死んだすぐというわけには参りませんのでしばらくお時間をいただきますが、本日は内諾を頂いたと考えてよろしかったでしょうか?」

 俺が呆然としてるので、リーヤが代わりに言った。

「ふむ。まあ、それでよい。しばらくは代理ということでカーリャ侯爵領を治めよ」

 本当に結婚するのか俺?

 呆然としている間に謁見が終わり、俺はリーヤと屋敷に戻った。

「さて……ご結婚相手ですが、いかがなされますか?」

「あー、いや、リンしか考えてないし、事情が事情だからと言って結婚相手を変えたら、リンやカザキ男爵を侮辱した事になるから仕方がないだろ」

「そう、ですか……ですよね……」

 リーヤが微妙な目で俺を見ていた。

 いや、俺は決してロリコンじゃないよ?

 確かに侮辱とかなんとかは建前だが、将来絶対美人になるはずのリンという婚約者(フィアンセ)を手放したくないってのが本音だ。

 確かに口は上流貴族のそれとは思えないが、荒くれ者の中で暮らしてた俺にとっては、あの程度大したことじゃない。

 今の時代、親が決めた相手と結婚するのが普通だし、リンだって親が決めた相手だが、リンを手放して、じゃあ次は誰かと言っても、俺が選択できる幅はとても狭い。

 侯爵家の嫁として相応(ふさわ)しい家柄でなければ駄目な上に、結婚によって何らかのメリットが双方になければ駄目だ。

 うちの領地には農産物も豊富だが、鉱物も多い。

 鉄やら銅が多いんだが、ステラスなんていう、よく分からない鉱物も多く採れる。

 ステラスは綺麗な金属だが、宝飾品となるような金や銀、あとダイヤなどの宝石に比べると見劣りするし、硬いが鉄ほどでもない。

 これを何か実用化出来ないかと、ネイガル魔法学園の研究施設に依頼しているんだが、そこの理事がエメル・ド・カザキ、つまりカザキ男爵だ。

 その関係で相互扶助出来るようにと俺とリンが婚約してるわけだ。

「では、カザキ男爵に連絡をして、婚姻を早めていただくよう、段取りをいたします」

「ああ、そうしてくれ」

 俺はリーヤの、生暖かい微笑みから目をそらしつつ、そう言った。

 こうして俺は若干十六歳にして、十歳の奥さんを迎えることになった。

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