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俺が侯爵になっても、ハーレムは作りません。  作者: 真木あーと
第一章 俺が主(あるじ)になっても、実家はとても居心地が悪いです。
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第四節

「そういうわけだ。飯にしようアンオツ」

「ジャン様がそこまでおっしゃるのでしたら、そういたしましょう」

「うん、お前が言ってたんだけどな。もういいや、俺も腹減ってたしな」

 俺がそう返したのでリーヤもミリィも微笑む。

 親父が死んだその日だとは思えないくらいの和やかな雰囲気だ。

 ま、実際俺は笑ってる場合じゃないんだけどな。

 親父が死んだのはもちろん悲しいんだが、それを悲しんでる場合じゃないくらい、次々と新しい衝撃があった。

 騎士は辞めなきゃならないし、俺が一番苦手な外交官なんて仕事をさせられそうになってるし、王様にお伺いしないと、カーリャ侯爵にすらなれないようだ。

 ん? 待てよ? 侯爵になれなければ俺は騎士を続けられるんじゃないか?

 爵位がなくなったって、俺がカーリャ侯爵の息子だってのは変わらないから魔法親衛騎士団(マジカルガードナイツ)の入団資格は残る。

 それなら、王様にお伺いを立てる必要もないな。

 よし、それで行こう。

「なあミリィ、俺って別に侯爵を継がなくてもいいんじゃないか?」

 前を歩いているミリィに声をかける。

「はい?」

 いきなりの俺の言葉に、ミリィは驚いて振り返る。

「それなら俺、騎士団続けられるし、何か問題でもあるか?」

「…………お兄さま」

 ミリィがにっこりと笑って俺を見上げる。

 その笑顔は妹ながらとても可愛いくて、思わず見とれてしまうくらいだ。

「もう一度そのようなことを言い出したら、アンオツにお願いして、生まれてきたことを後悔するような目に合わせて差し上げますわよ?」

 うちの妹はとても可憐で優しいのが俺の自慢です。

 あと、怒るととても怖いです、これは自慢じゃありません。

「ちょっとそこにお座りください」

 ミリィは床を指さした。

「そこには床しかないんだけど……」

「お座りください」

「……はい」

 俺は素直に床に座る。

 ひんやりとして冷たかった。

 あれ? 俺って今じゃこの屋敷で一番偉いんじゃなかったっけ?

「お兄さま、このお屋敷、そして、カーリャ侯爵領のお屋敷にどれだけの使用人が働いていると思いますか? お兄さまがカーリャ侯爵領をお継ぎにならないと皆さんの働き口がなくなります。それに私事ですが、私も侯爵家の娘としての良縁もなくなり結婚出来なくなりますわよ? そうなったら責任をとっていただけますか? お兄さまが私と結婚していただけますか?」

 責められついでにとんでもないことを言われてる気がする。

「いや、兄妹で結婚なんか出来ないだろ?」

「誰もなさらないだけで、してはいけないという法はありません」

「法律とか知らないけど、そんなもんは当たり前だからいちいち法律が無いだけじゃないのか?」

「いいえ、貴族の中にはご兄妹でご結婚された例はいくつかあります」

 誰だよそれ! 怖いな世の中!

「私がお兄様に似た、子供を産んで差し上げますわ。そして、その子は私にもそっくりで、私たちは似たもの一家として──」

「分かった、俺が侯爵を継ぐから! 勘弁してくれ!」

 俺の抵抗なんてミリィの知識からするとちっぽけなもので、無力の俺はこの可憐な妹の言葉に従うしかなかった。

 これで解決のはずだが、何故かミリィはまだ綺麗な眉をしかめたまま俺を睨んでいる。

 え? 俺、まだ何かやったか?

「……お兄さまは、私のことがお嫌いですか?」

「……へ?」

「夢や誇りを諦めてまで、私と結婚するのが嫌なのですか?」

「え? なんでそんな話になってるんだ!?」

「ですが、侯爵を捨ててまで騎士に残りたいとおっしゃっていたのに、私と結婚するならと諦めたではありませんか!」

 え? そう取ったんだ!

「いや、別にお前のことが嫌いだからってわけじゃないぞ? お前は可愛いし教養もあるし、妹じゃなかったら、それこそ騎士を捨ててでも結婚したと思うくらいだ」

「お兄さま……」

「だけど、兄妹では結婚できない。法が許しても、誰にも祝福されない。貴族がそれをしたら、地位や財産を守るためだと陰口を叩かれるのは目に見えている。ミリィにそんな辛い目にはあわせられない」

「私はお兄さまとなら……っ! …………分かりました」

 ミリィは喉まで出ていた言葉を押し殺して留めて、一応の納得はしてくれた。

 そう言えばこいつは騎士の俺が格好いいとか言ってたんだよな。

 俺にそれを諦めて欲しくない気持ちと、家のためには諦めて欲しいという気持ちが交錯して自分でも感情がよく分からなくなったんだろうな。

 そうでなければ常識人のこいつが兄妹で結婚なんて言うわけもないだろうしな。

「ジャン様、何をしているのですか。私はお腹がすいているのです。早くしないとジャン様を食べますよ?」

 アンオツがおそらく冗談(ジョーク)じゃない脅しの言葉で俺を急かす。

「俺を食べるって、どうやって食べるつもりだよ!」

性的な(セクシュアル)意味で」

「女の子が食べるとか言うな!」

「おや? ご存知ないのですか? 器官の構造上、女のものが男のものを──」

「分かった! 行くからもう喋るな!」

 俺は小走りに食堂に向かった。

 他の上流貴族の食卓は知らないが、このカーリャ侯爵家ではリーヤやアンオツのような、下流貴族出身の者は、俺たち主人の側と食事で同席することが許される。

 貴族の子を育てて、優秀なら養子にすることもあるからだ。

 で、この屋敷に今いる下流貴族はこの二人だけだ。

 俺たちは同じテーブルを囲んで、食事を取っていた。

 こんな時もミリィとリーヤは葬儀とか今後の話しかしていない。

 多分普段から忙しく、飯を食いながら仕事の話をしてるんだろうな。

 騎士達はどちらかというと食事時に仕事の話はしない。

 する奴が全くいないわけじゃないが、「飯食ってる時に仕事の話するなよ」って考えの人の方が多いから、あまり誰も話をしなくなっている。

 とはいえ、ミリィとリーヤがそういう話をしてるし、でも、それは俺に加われるような話じゃなさそうだ。

 だが、ここは俺も主として、こいつらを主導するためにも話に入って場を仕切ってやろう。

「その件に関しては、抜本的(ばっぽんてき)に──」

「お兄さま、ちょっと黙っていていただけませんか?」

「……はい」

 一瞬で話から追い出された。

 せめて話を聞いてから追い出してくれないかな。

 まあ、話なんてなかったけどさ。

 もう一人、俺の目の前にはアンオツがいるんだが、彼女は尋常じゃないスピートで飯を食ってるので話が出来るようには見えない。

 何ていうか、残念だな、こいつ。

 見た目は美人で、スタイルもいいし、仕事も人類とは思えない速度で出来るんだが、表情が一切無いし、何より言動が残念でしかない。

 メイドに出るような下流貴族の娘とはいえ、貴族なんだからさ、もっと上品な振る舞いが出来ないものかね。

 いや、決して下品なわけじゃないし、それなりに教養のある食事の振る舞いは出来ているんだが、その尋常ではないスピードが全てを台無しにしている。

 などと思いながら、アンオツを見てると、不意に目が合った。

「ジャン様は、カーリャ侯爵になるのですか?」

「は?」

 アンオツのいきなりの問いは、さっきまで打合せした内容聞いてなかっただろうことだけが分かった。

 まったく、なんでこれで有能なんだ?

「まあ、ならないとみんなが困るし、俺も妹に結婚を迫られる羽目になるからなろうとは思ってるけどさ」

「ふむ、では私を愛人にしてください」

「は?」

「私を愛人にして退廃的な生活をするといいです」

 一切表情がないアンオツが、恐らく愛の告白? をする。

 あまりにいきなりの事に、俺は少し動揺していたのも否定はしない。

「あのな? 俺のハーレム計画にはお前は入ってないんだよ──しまっ!」

 だが、それにしてもやってはいけないミスをしてしまったのだ。

 俺はとっさにミリィやリーヤを見る。

 幸い二人は話に夢中で聞いてなかったようだ。

「ほう、ジャン様はハーレムを作るのですね。でしたらそこに私を加えるといいですよ?」

「ははは、何を言っているんだ? 君も冗談(ジョーク)が上手くなったな、アンオツくん」

「私のような経験豊富な歳上のテクニックにメロメロになるといいです」

「いやだから、冗談(ジョーク)……アンオツってそんなに経験豊富なんだ?」

 俺と二歳くらいしか変わらないのに、そんなに男と色々やってたのか。

 見た目は美人とはいえ、こいつの言動は人間の範疇じゃない。

 こんなの相手に興奮する奴がいるのか?

処女(ヴァージン)ですが何か?」

「経験豊富でもないし、メロメロにするテクニックもないのかよ!」

「それはあります。毎晩えろーい物語を読んでいます。そして、その後はテクニックを実際に使うところを枕を相手に仮想実践(シミュレート)しています」

 無表情のアンオツが言うと、余計にエロく感じるから不思議だ。

 いや、今言ったことは例え本当でも、女の子が言っちゃ駄目だろ。

 こいつ、こう見えても貴族の娘なんだぞ?

 俺は遠慮しておくが、上流貴族の寵愛を受ければ、愛人どころか正妻でもおかしくはないような女の子なんだぞ?

「いや、そもそもそれは経験豊富に入らないんじゃないか?」

「ちなみに最近はリーヤに飽きたので、ジャン様を夜の相手にしています」

「やめてぇぇぇぇぇっ!」

 俺はなんだか背筋に冷たいものが走った。

 いやね、この美人が俺を想像して悶々としてるのは悪い気分じゃないんだが、こいつの事だから、どんなマニアックな事をさせてるか分かったもんじゃない。

「実践してなきゃ分からないことなんていくらでもあるだろ、想像で成功してのいきなり実践でテクニック使いこなせるほど現実は甘くないぞ?」

 俺も騎士として、様々な戦い方のテクニックを学んできたからよく分かっている。

「ではこういうのはどうでしょう、経験豊富なつもりで自信満々だったお姉さんが、実践でうまくいかずあわあわするという」

「いや、シチュエーション語り合ってるんじゃないからさ」

「私の魅力では愛人にはなれないのですか」

「いや、喋らなきゃお前以上に魅力的な女の子を探すのも難しいくらいだと思うが、俺は愛人を作るつもりはないからな」

 俺はハーレムという理想を隠して本心でないことを言った。

「では正妻でいいですよもう」

 ふう、とため息混じりにアンオツが言う。

「なんで妥協みたいな言い方になってるんだ。俺には婚約者(フィアンセ)がいるからな」

「ほう、婚約解消してまで私と結婚するのですか」

「するわけないだろ! とにかく俺は、お前に手を出すつもりはない!」

「お堅いですね、上の口は」

「下に口なんかねええぇぇぇぇぇっ!」

 なんだかもう、食事するだけでどうしてこんなに疲れるんだろう。

「お兄さま? 静かにとは言いませんが、お食事中は騒がないようにしていただけませんか?」

 可愛い眉を寄せるミリィが俺に言うが、俺よりもアンオツに言ってくれ。

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