第四節
「これは素晴らしい」
「で、ですね……初めて見ますけど、これは……」
俺は、力尽きた。
さっきまで俺と死闘を繰り広げていた戦士達は、女の子の表情で興味津々に俺の身体の一部を凝視していた。
ちなみに言い出した本人は既に眠りについていた。
「こ、こんなものを使われては、我が主は壊れてしまいます……! もう少し縮めることは出来ないのですか?」
「で、出来るけど、今は無理!」
俺のそれは、女の子の集団に見られているというだけで興奮しているようで、自分でも恥ずかしいくらいギンギンだった。
「それにリンがもう少し大きくなるまで何かをするつもりなんてないから!」
「そうですか……」
アンメルは安心したように吐息を吐いた。
「では、それまでは処理にお困りでしょう、私を使うといいですよ」
アンオツが真顔のまま、そう言って俺に近づいてくる。
「いやだから、いいって言って……って何パンツ脱いでんだよお前っ!」
「理由が知りたいですか?」
「知りたくもねえぇぇっ!」
「アンオツどの、ずるいですよ、私だってジャン様と許されざる夜を過ごしたいのです」
「わ、私も強い殿方が好きなのです!」
「私だって!」
アンオツをアンメルが止めている隙に、オズとヴァンテもパンツを脱いで俺に迫ってきた。
「では、順番を決めましょう。そして、毎晩当番を決めてお相手をすることにしますか」
「分かりました、お前らもそれでいいな?」
「はい」
アンオツの提案に、アンメルが乗り、部下の二人に告げる。
いや、ちょっと待て、そこに俺が介在してないのおかしくないか?
毎日お相手って、勝手に決めるなよ。
たしかにお前らみんな美人だったり美少女だったりするけどさ!
俺のハーレム計画に加わってもいいような奴らだけどさ!
俺、どうしてだか、ハーレムのことを考えると、物凄く怖くなってくるんだよ!
だからお前らがいくらそんなこと言い出しても怖いだけだ!
「では、まず今日は──あっジャン様」
俺は隙を付いて逃げ出した。
「逃すな、追え!」
「はっ!」
部屋を走り出た俺は、真っ直ぐに部屋に向かう。
追いかけてくるのは、オズだけだ。
これは、ヴァンテは別ルートから俺の部屋に向かって、挟み撃ちにするつもりだな?
俺の部屋へのルートはいくつもあるが、元暗殺者のヴァンテはその中でも最速のルートを最速で通り抜ける事が出来る。
「くっ!」
自分の部屋は危険だ。
俺は暗闇なのをいいことに、少し離れたオズをやり過ごし、そこらへんの部屋に逃げ込んだ。
自分の家だが、俺はいちいち全部の部屋を覚えてない。
ここが何の部屋かはさっぱり分からないが、とにかく音も立てずドアを閉じ、外のオズをやり過ごす。
俺が部屋に入って一呼吸の後、廊下を誰かが駆け抜けていく足音が聞こえた。
何とかやり過ごせたようだ。
俺はほっと腰を落とした。
「お兄……さま?」
暗い部屋の奥の方から、聞きなれた、戸惑いの声が聞こえてきた。
おそるおそる振り返ると、薄暗い部屋の中、大きめのベッドの中で、ミリィが不思議そうにこちらを見ていた。
「ミリィ? どうしてこんなところに?」
「どうしてとおっしゃられましても……ここは私の部屋ですし……」
戸惑った様子のミリィ。
まあ確かに寝ようと思っていたところを兄に踏み込まれたら戸惑うだろう。
「あー、ごめん、色々とあってだな話すと長くなるんだが……」
「お兄さま!? そ、その格好……!」
ミリィは薄暗い部屋でも分かるくらい顔を真っ赤にしていた。
「え? あっ!」
必死で逃げたので忘れてたが、俺の下半身は何も着けてなかった。
つまり、妹に剥き出しのアレを晒してるわけで。
「いやっ! これはっ!」
俺は慌てて隠そうとするが、まだ萎えきってないそれは、簡単に隠せるものじゃなかった。
「だから! 話せば長いけど、色々あったんだよ!」
俺は隠しきれないそれを必死で隠しながらそんないいわけにならないいいわけをする。
ミリィはと言えば、顔を真っ赤にしながらも、薄明かりの中俺の股間に目を凝らしていた。
みんな好きだな俺の股間!
「じ、事情は明日にでもお聞きしますから……とりあえず、今日はお引き取りいただけませんか?」
「そうしたいところだが、もう少し待ってもらえないか? まだ外にはあいつらがうろうろしてるしな」
「あいつら、とはどなたですか?」
「リンのところの屈強メイド三人と、後アンオツ。四人がかりだとさすがにきつくてな」
「……ああ」
その名前と、俺の今の格好から何となく状況を納得したミリィ。
頭がいいのはこういうとき話が早くて助かる。
「あの方はご自分のメイドのお世話も出来ないのですね」
「いや、そういうわけじゃない……わけでもないが、まあ、リンはそんなに関係ないからさ」
こんな時までリンに難癖をつけようとするミリィ。
本当に、こいつはリンが絡むと途端に面倒になるな。
「分かりました。それなら、今日はこの部屋にお泊りくださいませ。明日にはきつく言っておきますので」
「ああ、分かっ……ええ? ここに泊まる?」
一瞬納得しかけたが、聞き捨てならないことを言われて、話を止める。
ここはカーリャ侯爵の娘、ミリーナ姫の寝室だ。
深層のお姫様の部屋に泊まるだと?
ベッドは広いが一つしかないし、ソファーはあるが毛布はない。
毛布を調達するには、メイドを呼ばなければならず、それはあまりにも危険だ。
「いや、さすがにここに泊まるのはまずいだろ。お前だって妙齢の女の子だろ?」
「兄妹で寝るのは普通のことですわよ?」
「子供の頃ならな!」
「今でも子供ではありませんか。お兄さまも外交庁で『あんな子供が』なんて陰口を叩かれてますわよ?」
「聞きたくなかった! そんな陰口は聞きたくなかったっ!」
可愛い顔して思いやりのかけらもない事を言いやがるミリィ。
妹でなかったらこのままお嫁にいけない身体にしてやるところだ。
「他に方法がありますの?」
「……ミリィが今から外の連中を強く叱るってのはどうだ?」
「嫌ですわ」
「嫌って!?」
「私はもう寝るところですから、これから起きて叱るなんてしたくもありませんわ」
そう平然と言われると、何も言えない。
他に道もないのかよ。
「さあ、こちらにおいでまし」
「そこ!? 同じベッドで寝るのか?」
「兄妹ですから」
「…………」
兄妹ってそんなもんだっけ?
そんな疑問を抱いだが、、ミリィが全く気にせず、ベッドの中を移動して、俺の場所を作ったから、俺も下半身裸のまま、妹の毛布に潜り込んだ。
すぐ隣りにはミリィがいて、香水が抜けきれていないのか、いい匂いがする。
汗の匂いもする。
常識的な話だが、この国では夜には風呂に入らない。
昔は魔法も発達していなくて夜は真っ暗だったので魔物や悪霊の類が現れて危険だということで、夜でも明るい今となっても風呂に入るのは夕方か朝というのが習慣になっている。
だから、夜のパーティー後の今、香水や汗の匂いがするのは仕方がない。
それを言うなら、俺だってさっきまでの戦闘で汗をかきまくってたしな。
ミリィの布団に匂いがついたら申し訳ないな。
「おやすみなさいませ、お兄さま」
俺の心配など考えもしていないミリィの声が聞こえる。
思ったより近くて驚く。
「あ、あれ? このベッド、もう少し広いと思ったんだけど」
「もう少し広いですわよ、私の隣、結構空いてますから」
「いや、じゃあ、そっちに行けよ」
「嫌ですわ」
「なんで!?」
「私だってまだ、お兄さまに甘えたい年頃なのです」
そう言いながら、俺の懐に入ってくるミリィ。
「いや、お前って、そんな年頃じゃないだろ」
確かにこいつはバリバリに働いてるが、まだ十四歳ではあるし、十四歳は子供ではあると思う。
だけど、少なくとも兄貴にべたべた甘える歳でもないだろう。
「私はお兄さまの前ではいつまでも子供でいたいのです」
「いや、子供でいるのはいいんだけど、身体は大人になって行くだろ?」
俺が一番困るのはそこだ。
こいつは俺を慕ってて、いつでもくっついてくるのは、まあ、兄貴としては嬉しい。
だが、十四歳ともなると身体も子供ってわけじゃない。
見た目も身体も女っぽくなってくるし、肌も柔らかくなってくる。
どれだけ頭では妹だと思っていても、その感覚にどうしても変な気分になってくる。
「お兄さま、私の身体に興味がおありですか?」
「いや、ないけど!」
俺は全力でそれを否定した。
ミリィはそれにムッとして頬をふくらませる。
「お兄さまは、私の身体に魅力がないとおっしゃるのですね……?」
「魅力的だから困ってんじゃないか!」
「どうしてお困りですの?」
ミリィが不思議そうに聞くんだが、どうして困らないのか逆に不思議だ。
「普通に考えてみろよ、妹の身体に興味を持つ兄貴ってどう思う?」
「……素敵ですわね」
うっとりとした表情になるミリィ。
駄目だこいつ話にならない!
「そう言うのを変態って言うんだ! 俺は変態じゃないからさ!」
「ですが、お兄さまはロリコンではないですか」
「違うよ!? ロリコンじゃないよ?」
あと、ロリコンは変態でもないよ? 多分。
「すぐに否定するところが怪しいですわ」
くすくすと笑うミリィ。
ああ、もう! こいつはまた俺のことをからかってやがるな?
「もういい、寝るぞ!」
「はい、おやすみなさいませ」
俺の胸の中からの声。
まったく、こいつはいつからこんな妹になったんだ。
昔はもっと大人しくて穏やかで、俺の事を好きだったぞ?
……あれ? あんまり変わってないな?
まあいいや、もう寝よう。
俺が一人で考えているうちに、胸元からは小さな寝息が聞こえてきたので、俺も目を閉じた。




