泡沫の夢/変わる前に。
ファンタジー。
少しずつ、世界について出していければ。
侘しい食事を簡単に済ませたら、後はもう寝るだけだった。
日も沈み、辺りを夜と闇の女王が支配する暗闇。
無駄な灯りをつける余裕なんて当然あるわけも無く。
豪華なベッド、と言い張るには多少どころか大分厳しい脚が折れかかった藁の上。
ただ、其処に横たわって眠気を待つだけの筈なのに。
僕とリンは言葉を発する事もなく、机を挟んでお互いを見つめ合っていた。
何かを発しようとしても、何となく言う気が消えてしまう。
「……。」
「……。」
ほう、と吐く息が少しだけ白く世界を濁す。
隙間風には慣れていても、寒くないということは無くて。
窓から微かに白く、夜の月の灯りが差し込み。
リンの碧い目が、じっと輝き続ける。
「……いつまで、こうしてる気?」
堪らず、そう声を投げ掛ける。
何故か、その目から顔を背けたくて。
悪い事なんて、何もしていないのに。
彼女の害になることなんて、する気も無いのに。
なのに、耐えられない。
「……ルイン君は。」
……どれだけの時間が経ったのか。
リンは、そう静寂を破った。
「ルイン君は、私に何も隠してない?」
「唐突に……どうしたのさ、リン。」
一瞬だけ、心が跳ねる。
倒れたこと。
記憶のこと。
それらは、確かに「隠している」事だったから。
「……聞いておきたかった、からじゃ駄目?」
「してない……うん、してない。」
そ、っか。
リンの呟く、その言葉と共に、強い罪悪感を感じながら。
それでも、僕は黙っていた。
事実を伝えれば、予定を変えるのは目に見えていたから。
「なんだか、さ。」
「……うん。」
「ルイン君が、ルイン君じゃなくなるみたいだった……から。」
気の所為なんだけど、さ。
そう言ったのだろう、言葉が。
背中に突き刺さるようにすら、感じた。
静かに、ベッドに横たわる。
色々あり過ぎて、何がなんだか分からない1日で。
(……考えても、答えは出ない気がするし)
目を閉じ、深い安らぎに身を投げた。
その夜、夢を見た。
杖を持った青年ーーーー「僕」と。
白い、修道女のような姿をした「彼女」の夢。
何かを呟いて、小さく笑う。
ポン、とその杖の先から小さな火の玉を飛び出させる。
驚く「彼女」。
「ーーーーーーーー!」
「ーーーーーーーー。」
何故か、動く口から漏れる言葉は聞こえない。
理解出来ない。
ただ、その火の玉を出した「方法」だけは何となく分かる気がして。
そして、その方法に手を出せば二度と戻れない道へ進むような直感も感じていて。
……その、恐らく。
「魔法」の夢を、動けないまま、勝手に動いたまま。
静かに、見続けた。