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流転する想い  作者: ice
第1章
6/32

少女の、名はーーーー。

なんか少しずつ長くなる不具合。

囁くような声が聞こえたのは、教会が既に古びていて、扉もまともに閉まらないから。

要は、「声を遮る存在が無い」――――ただそれだけの理由で。


「……うん、ただいま。 リン。」


窓から少し離れた、日陰(気付けば夕方になりかかっていた。 危ない危ない)で。

影に溶けるように佇んでいる少女――――リンに声を掛けた。


……綺麗だった黒い髪は荒れている。

前髪も、顔を隠すように垂れ下がっている。

服装もボロボロで――ああ、それは僕も同じか――浮浪児のようで。

ただ、それでも。

昔から、その碧い瞳だけは変わらない。

いつも、何かを見透すように。

いつでも、透き通ったままだった。


「……何処まで行ってきたの? ルイン君。」

「離れた森。 ……リンこそ平気だった? 体調崩してたし」

「……うん、大丈夫。 もう、良くなった、から。」


僕と同じく、親を失ったたった一人の友達。

大人の中で唯一優しかった神父様が亡くなってから、僕達はずっと二人で暮らしてきた。

誰も助けてくれなかったし。

誰も、必要としてくれなかったし。

……誰もが要らないと言っていた僕等、二人で。

必死で、死に抗って。


「……今日は何に、する?」

「果実取ってきたから……それと、スープでも作る?」

「うん……。」


口数も少なく。

挙動も小さく。

だから、一見すれば無感情のようにも、古びた、壊れた人形のような儚さも併せ持つ彼女。

ーーーー昔は、ここまで極端では無かったのに。


「ルイン君……お水。」

「分かった、汲んでくる。」


水瓶を片手に、僕は外へと向かった。



ちゃぷ。

少しだけ流れる小川。

水瓶を傾け、水を中に蓄えながら。

僕は、反射した水面の自分を見る。


黒ずんだ茶髪。

自分で適当に切り揃えた、短めの、乱雑な髪型。

子供っぽい、「大人」になりかかった顔。

そんな、流れの中にゆらゆらと漂う、「僕」が其処には映っていて。

いつものように。

なんとも、思わない。

なんとも、思えない。

ただ、世界に佇んでいるだけ。


異物のように。


ただ、愚者である僕は。

誰かに導かれなければ、何も出来ない。

ただ、それだけだった。



水瓶から零さないように、教会へと戻れば。

リンが、すっかり乾ききっていた、兎の干し肉をふた切れだけ取り出している所だった。


「肉、使うんだ。」

「幾ら、乾燥してても……そろそろ、傷んじゃうから。」


いつ振りだろう。

普段は、野草を水で煮て。

貴重な塩をほんのひとつまみだけ。

それで出来る、舌先にほんの僅かだけ塩味のする侘しさすら感じるスープくらい。

それに、多少の果実が増えるだけ。


例外に、肉やパンが食べられるのは……それこそ、獣を捕まえられた時か。

生誕日……生まれ落ちた、祝祭日くらいの、もの。


「保存してある分はまだ大丈夫?」

「ううん……後、1日分くらい、かな。」


思ってたよりギリギリだった。

食べられるだけ、マシだけども。


「祝祭日には、出る……んだよね?」


……チラリと、視線をリンが向けてきた。

ーーーーそうだね。

小さく、はっきり頷いた。

言葉に出さずに、行動だけで意思を告げた。


こんな。

こんな、生活をして朽ちるのを待つだけじゃ。

何も、変われないから。


僕の為でなく。

ただ、彼女の為だけに。

僕達は、この村を出る。

それだけは、ずっと前から決めていた事だった。

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