第二話 ここは異世界
「あれ…ここどこだ?って、これ言うの二回目だな」
ただ、今度は高級そうなベッドの上だが。
「あ!優也が起きたよ~」
扉が開いたと思ったら、またすぐに閉じた。
声から察するに、美咲のようだ。拓斗でも呼びに行ったのだろう。
しばらく待っていると、扉が大きく開き、美咲と拓斗―――――の後ろに、ここに居るはずの無い2人の、計4人が入ってきた。
「……え?」
「なんでお前らがここに居るんだよ!」
「お前を助けようとして、俺たちまで落ちた」
「でもそのおかげで、滅多とない貴重な体験ができたよ」
二度目に俺が気を失ったのは、どうやらあの後、二人が穴から俺の上に落ちてきたからだったようだ。
そう思うと、俺の視線が恨めしげになるのも、仕方のないことだろう。
啓と瑠香。
二人は、俺たちが通っている学校のクラスメイトだ。
と言っても、そこまで面識があるわけではない。なんせ、俺は追いかけまわされていて、そんな暇がなかったからな。
拓斗と美咲は知り合いだったみたいで、よくこの二人の話をしていたので、名前だけは覚えていたのだが…。まさか、こんなことになろうとは。
というか、瑠香よ。貴重な体験の一言で済ませられるあんたはすごい。
「で、なんで俺らはこんなところにいるんだよ」
「ああ、それは、こちらの世界の人に呼ばれたらしい」
「…は?」
拓斗の話を要約すると、俺らは俗に言う『勇者召喚』をされたらしい。
ここは地球とは全くの別世界で、魔王を倒してもらうために、地球から俺らを呼び寄せたらしい。しかも魔法で。
どこのファンタジーだよ、一体。
「それにしても、ここまでとは…」
拓斗と美咲はトラブルを引き寄せる体質だ。それも、かなり重症の。
今までも散々付き合わされたが、まさかここまでひどいとは。しかも、一番被害に遭うのは俺だし。
「呼んだのは一人なのに、5人も来たから驚いた。って言ってたよ」
美咲の言った言葉に、俺は違和感を覚えた。
「それっておかしくないか?だって俺は、無理やりこっちに連れてこられたんだぜ」
「確かに。優也が黒い手に掴まれていたのを見た」
「あたしも見たよ。それで、なんとか助けようと思って、あたしたちは穴に落ちたんだから」
「え?でも、こっちの世界の人は、呼んだのは一人だって…」
どういうことなのか。
その答えは、ノックの音により一時保留となったのであった。
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「王様に会えるなんて、楽しみだね!」
「やっぱり王様といったら、白髭だよな」
「意外と、女の人だったりして」
緊張感の無い会話に頭痛がしてくる。こんなで本当に大丈夫なんだろうか。
啓なら…とかすかな希望を抱いて、ちらりと窺うが、俺はその直後、猛烈に後悔した。
お前もか、啓。
はたから見たら落ち着いているように見えるが、俺には分かるぞ。
絶対楽しんでるだろう、眼が輝いてるし。
せめて俺だけは気を抜かないようにしなければ、と心に決めた瞬間だった。
「この部屋の奥に陛下がいます。くれぐれも無礼を働かぬようお願いします」
無礼って、王との対面の仕方、なんて授業で習ってないぞ。
「はい、分かっています」
ちょっと、そんなに安請け合いしないでくれないか、拓斗よ。
まあ、そんなこと言っておきながら、できないに違いない。
俺は楽観的思考で臨むことにした。というか、そうじゃないと俺がやっていけない。
「勇者様一行が到着いたしました」
門番の声と共に扉が開けられ、その部屋の中へと俺たちは進んでいく。
豪華だ。
俺の第一印象はそれだった。
その本人である王は…と部屋の奥を見て、言葉を失った。
真ん中に居るし、たくさんの人が立っている中で、一人だけ座っているのだから、間違いないだろう。
だが、これはない。
俺は心のなかで、嘆いた。
どうして王様が、白髭を蓄えたお爺さんでもなく、威厳を兼ね備えた女性でもなく、ムキムキの筋肉を持ったおっさんなんだろうか。
他の4人も、内心ではそう思っているのだろうが、おくびにも出さないあたり、なかなかだと言える。
そしてついに、王の前に辿りつき、膝をつき頭を垂れた。俺を除いて。
……え?
「この度は勇者として召喚されました、遠山拓斗、紙野部美咲、立川優也、そして磯崎啓と、神凪瑠香です」
思い切り皆に置いていかれた。しかも、すごく様になってるし。
「俺はリーディエール35代国王の、ガラルド・リーディエールだ。そんなに堅苦しくしなくていいぞ。どうやら一人、付いていけてない奴がいるようだしな」
4人が規格外なだけなんです。
大勢の視線が集まるなか、俺は内心で突っ込んだ。