第一話 穴に落ちて
「疲れた…」
「ほんと、優也は体力ないよね~」
「男の子なんだから、もっと体力つけないと駄目だぞ」
「うるせー。あと男の子って言うなー。恥ずかしいだろうがー」
「「だって、優也って弟みたいな感じがするんだもん」」
「あのなー」
確かに見た目はまあ、あれだけど、これでもお前らと同級生なんだぞ。
俺は拓斗と美咲を睨みつけるが、涼しい顔で受け流された。くそ、地味に悔しい。
腹いせに足でも引っ掛けてやろうとするも、まるでお見通しと言わんばかりに軽々とかわされ、逆に俺の脚が踏みつけられる始末。
もう、ため息すらも出てこない。だいたい、今もこんなに疲れてるのは誰のせいだと思ってるんだ。
二人はとてつもなく美形だ。どれぐらいかというと、十人中、九人は絶対振り返るぐらいの美形だ。
すると、そのうちの何人かは、そんな二人に告白しようとするわけだ。
が、しかし。
驚くべきことに、二人は、自分にはそんな価値なんてない、と心から信じているのである。
俺からしてみれば、輝くばかりのルックスや、誰かれ構わず手を差し伸べる優しさがあればもう十分な気がするのだが。二人は自分を何だと思っているのだろうか。
まあ、それはともかく。
二人にした告白は告白と取られず、簡単に流されてしまう。
では、どうすればよいか。
彼らは考えた。二人に直接言うのが駄目なら、第三者的な立場に居て、なおかつ、二人と仲の良い奴に仲介を頼めばうまくいくのではないか、と。
お解り頂けただろうか?それこそが優也、すなわち、俺なのだ。
実際はそんなことはなく、俺が言ったところで冗談の一言で済まされるだけなのだが、幸か不幸か、彼らはそのことに気がついていない。
毎回毎回言うごとに、優也ってそんな嘘を言う奴だったんだ。という冷たさを増してく視線で二人に見られる俺。
言ったと伝えても、言ってないに決まってる、どうして言ってくれなかった。と頼んだ奴に恨まれる俺。断ると、お前は二人に付き合う人ができるのが嫌なんだろう。となじられる俺。
もう嫌だ!!←心の切なる叫び
というわけで、俺は彼らから逃げることにした。
が、彼らは執拗に(それはもう恐ろしいほどの執念で)ずっと追いかけてくるため、俺は毎日学校で逃亡生活を送る羽目になっているのである。もちろん今日もだ。
疲れるのは当然。というか、これで疲れない奴がいたら、俺はむしろ化け物だと思うね。
本当に疲れる奴らだ、と思いつつ歩いていると、突然拓斗と美咲が転んだ。
「うわっ!」
「なにこれ!?」
普通の道路で、ましてや二人同時に転ぶなんて、どんだけ仲がいいんだよ。
呆れつつ様子を窺おうと振り向き―――――あまりの非常識さに、思考が凍結した。
二人の姿は何処にもなく。
代わりにあったのは、先の見えない真っ暗な穴。
突如道路に現れたそれは影のように張り付いていて、今もなお広がり続け、こちらにもその手を伸ばしてきていた。
ここにいては危険だ。
俺は本能の命じるままに逃げようとして、
『やっと見つけた』
何処からか、一つの声を聞いた。
少年とも少女ともとれる、曖昧な声。
俺はその声に、不思議な感覚を呼び起こされた。
まるで、大事な人をみつけたかのような、そんな―――――
「危ない!」
物思いに耽っていた俺は、それに咄嗟に反応することができなかった。
浮遊感。
動かない思考でやっと、ああ、俺は浮いているんだな。と認識した次の瞬間。
視界が急速に変わって
―――――俺の意識はそこで途絶えた。
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「う、ううん……あれここ何処だ?」
眼を開けた先には、大理石のような天井と、そこに不似合いな、さっきの元凶たる穴があった。
どうやら俺は穴の中に落ちたらしい。落とされたというべきか。
「なんかグラグラするんだが…」
とそこで、妙に自分の乗っている床が安定しないことに気付いた。
否、これは床ではなく―――――俺は恐る恐る下を見て、緊張を解いた。
そりゃあ、安定しないわな。
俺が乗っていたのは、拓斗と美咲の上だった。どうやら二人は俺より穴に落ちたらしい。
試しに美咲の頬を突いてみるが、応答無し。完全に気絶しているようだ。
まあ、人が乗っていることに気付かないのだから、当然か。
とりあえず、現状把握。
周りを見渡すために顔を上げて―――ようやく周りに大勢の人がいることに気付き、ギョッとした。
もう、なにがなんだか分からない。
とりあえず声を掛けようとして、思い切り頭を打ち付けたところで、俺の記憶は途切れた。
あれ、これ二度目じゃね?