【あなたの寿命を買い取ります】
「たとえばさ、【あなたの寿命を買い取ります】っていう業社がいたとして。きみなら買取してもらう?」
「えっ……?」
それは突然のことだった。
雨雲に気付いた時にはもう手遅れになっているゲリラ豪雨のような、今さらもう逃げ場がないと錯覚させるような問いかけだった。
「実際には人の寿命なんて切り取って売り買いできるモンじゃないわよ。でもね、そこはやりようよ。それっぽい梱包をしたラムネでも食わせといて、『はい、これで寿命が三年縮みました』とか言っておけばいいの。
人間って安直なもんで、体調が悪くなったら『あっ、あの時に寿命を売ったツケが回ってきたな』って勝手に思いこんでくたばってくれるんだから」
彼女は涼しい顔をしてとんでもないことをのたまう。
「で、どう? 寿命は売る気になった?」
「えっ、いや……」
そんな話を聞いて「はい」と答える人間がどこにいるのだろう。
考えが顔に透けていたのか、彼女は嬉しそうに笑う。
「買い取る側に回ってみるのはどう?」
意外といると思うのよ、と彼女は続ける。
「借金で首が回らなくなって、もうどこにも借りるあてがない。でも返済期限は迫っている。こうなりゃもうヤケクソ。内臓でもなんでも売ってお金を作らなきゃ! っていうクズがいっぱいいるでしょう。
そんな時に【あなたの寿命を買い取ります】っていう業社が目に留まる。このまま健康で百歳まで生きるかもしれないし、明日不運な事故で死ぬかもしれない。寿命なんてあるのかないのか自分ではわからない。それなら売っちゃえばいいじゃないか。
……ほら、クズの考えそうなことでしょう?」
彼女は饒舌だった。
こちらが口を挟む隙すらないほど。
激しく絶え間なく叩きつける、豪雨のようだった。
「ま、もちろんタダでお金をあげるわけじゃないわよ。
ちょっとしたツテがあってね。そこで薬の治験っていうのかしら。そういうのをやらせるのでもいいし。ただ、それをやろうにもまだ人手が足りてなくてね。
もし興味があったら連絡してちょうだい」
彼女はそう言うと、一枚の名刺を置いて席を立った。
その間わずか五分。
彼女が来る直前に配膳されたコーヒーに冷める隙すら与えなかった。
それが「南森羊」との出会いだった。




