すなわち、殴打
──あたしの杖が欲しいって?
ハッ、馬鹿をお言いでないよ。
こいつはあたしがあの世まで持ってくんだ。
別のをくれてやるから我慢しな。
……ほぉら、これだ。あんたに似合いの不恰好な杖だよ。
オークと少女は月明かりの下、馬を駆る盗賊の集団に囲まれていた。
少女の荷馬車を襲っていたのは同じ集団の一員だったらしいが、彼には見分けがつかなかった。
馬上から口々に罵られたが、聞こうとするだけ無駄だとオークは学んでいた。
片手で少女の目を覆い、もう片方の手で杖を頭上に構える。
決着はすぐについた。
最初に騒ぎ出したのは馬たちだった。
突然の異変に癇癪を起こし、明後日の方向へ駆け出す。
不逞者たちは振り落とされ、大混乱に陥った。
この魔法を使うとき、彼の脳裏では老いた魔女が意地悪く笑っている。
彼が使える魔法は数少ない。その中でも一等得意なものだった。
忌み嫌われ、誰にも受け入れられぬ者同士が家族であった年月の明かり。
杖を中心に光の魔法が迸った。
《……まるで、夜明け……》
少女は太い指のわずかな狭間から、真昼の如き明るさで大きな光が爆ぜるのを見た。
目を眩ませたほとんどの影が、ほうほうの体で逃げ出していく。
それでも戦意を失わない者には、実にオークらしく待遇した。
すなわち、殴打。
巨大な力で細く伸ばされた硬い金属が、年老いた木の蔦や根のように絡まり合っている。
それが魔女から授かったオークの男の杖だった。
決して折れぬ杖が、小さな戦を終わらせてゆく。
《あ、普通に殴るんですね》
腕は折れる。牙は欠ける。
若さは土に削られ、老いれば足もとも覚束なくなる。
だからオークは、一代限りの借り物だと心得て、肉体の力そのものを“信奉”しない。
勝ち残った者も、いずれは土の上から去り、次の世代に居場所を譲らねばならない。
永遠ではないと知っているからこそ、振るうべき時を間違えることはない。
ゆえにその一撃には、彼らの全霊が宿っている。




