獣の家族
──獣と戦うなら、獣の気持ちになりきることだ。
言うこと聞かせたけりゃあ、やっぱり獣の気持ちになりな。
言葉を持たないものってんなら、オークに似合いじゃないか。
……舐めるんじゃないよ。おかげでこいつは近頃あたしの言うことを聞きやしない。
まったくお前たちは図体ばかりでかくなっちまって。
やっぱり小さい時に食っちまうべきだったよ。
領主から依頼された“救世”のうち、森の魔獣と山の怪鳥の討伐はこともなく済んだ。
森とはオークの男が育った場所で、魔獣のこともすでに知っていた。
彼と老いた魔女が家族と呼べる数少ない馴染みだった。
身の丈こそオークの何倍もあったが、彼が近づくと木の上からしなやかに跳び下りて、喉から低い音を鳴らしすり寄った。
森にいたほうがこの大猫にとって平和だろうと置き去ったが、こうなってはともに行くほかない。
少女は獣を怖がったが、背中の乗り心地は悪くないようだった。
山の怪鳥は大猫にとって狩りの対象だった。
難なく追い詰め、オークが勇敢な敵に心中で賛辞を贈るころ、少女が声を上げる。
《賢者様! あれを!》
満身創痍の鳥の背後に三羽のひなが鳴いていた。
オークにとって闘って死ぬことやそれによって血が途絶えることに疑問はない。
しかし他者に乞われることに慣れぬ彼の未熟さが、少女の懇願への反論を妨げた。
オークはしばし思案して、大猫の毛と爪を縛り付けた杭を、砦の街のそばに建てた。
森の外まで広がった大猫の縄張りが、怪鳥を遠ざける。少なくともいまは。
人々の中にはひどく恐れる者もいたが、賢い獣はそれを遠巻きに眺め、悠々とあくびをしていた。
オークにとって獣はただ言葉を持たぬ戦友であり、先に土へ帰る兄弟である。
子らは仔獣と同じ地べたで眠り、同じ血と風の匂いを嗅ぐ。
牙を剥かれれば拳で応え、傷を負えば餌を分ける。
名も与えられぬ約束は、誰が命じたわけでもなく、誰が記したわけでもない。
ただ土と血と空の沈黙だけが、その証人として残るのだ。




