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西方に何があるのか

 ──人間に利用されるのも悪かあないよ。

 ちょいと動いてやれば食うには困らないし、面倒な道案内もしてくれる。

 英雄の皮をかぶせられたら、その時点で役目を果たしたも同然さ。

 適当にやって深入りする前にとんずらすりゃあいい。

 ただし覚えときな、大口叩くのは悪手だよ。

 連中、大して長生きでもないくせに覚えてなくていいことまで覚えてたりするからね。





 壁に掛けられた獣の頭顱が、無言で客人を見下ろす。石畳の冷たさが、革靴を通して足裏に染み入る。


 領主の広間は絨毯と燭台で飾られており、その空気はオークの男には馴染みのない匂いで淀んでいた。


 領主は玉座めいた椅子から身を乗り出し、恭しく手を広げ、言う。



「エルフの魔術師殿。  まさに伝説の再来だ」



 幸いにも、肥えた領主の口調はオークが聞き取れるほど鈍いものだった。


 騒がしくない今こそ、誤解を解く好機。


 オークが息を吸い込むより早く、隣に甲斐甲斐しく付き従っていた少女が快活に、しかしゆったりと口を開く。



「そうです!  このお方は伝説の、光持て来たる灰の賢者!  古き予言に謳われた、救世のエルフ様なのです!」



 オークは小柄な少女からそんなに大きな声が出るものかと面食らって、せっかく吸い込んだ息を吐きだした。



「ご覧ください、この杖からあふれ出る輝きを!  昨夜、私と父の荷馬車を襲った恐ろしい野盗を瞬きの間に葬ったこの光こそ、かつて竜との戦で振るわれた夜明けの大魔法! 西方を目指す旅の道中でこの地にお立ち寄りになったのです! 少々のお心づけであらゆる困難を打ち破り、迷える私たちをお救いくださることでしょう!」



 歓喜のざわめきを背に少女は胸を張り、得意満面に振り返る。


 物語に聞く市場の商人のようで、まるでオークの叩き売りだった。


 西方に何があるのか彼は知らない。



 かくしてオークは、この地にはびこる盗賊団と麻薬組織と森の魔獣と山の怪鳥を相手取ることになった。


 老魔女の笑い声が、記憶の底から響いた気がした。





 オークにとって戦とは、それそのものが定めである。

 ただ血の一滴、鉄の一片が土に還るまでの営みに過ぎない。

 歌には残らず、石に刻まれることもない。

 だが彼らが勇猛であることを疑う者は、戦場に一人もいない。


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