表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

あなたエルフじゃないでしょう

 ──なんだいお前、本が好きなのかい。

 あんまり囚われるもんじゃないよ。

 大概の本ってのは、いいかげんな奴がいいかげんなことを書いてるもんさ。

 そう……オークどもが岩陰に引っ込んでからかれこれ二〇〇年は経つねえ。

 お前を見てオークだとわかる人間がいたなら、そいつは相当な老いぼれか、本の虫だね。

 その本の作者? あたしだよ。アッハハハ!





 オークの男は隙を見て、幻術で気配を消して宴を抜け出した。


 酒場の裏口から伸びる裏路地は静まり返っている。


 灯の落ちた商店の看板が風に揺れ、夜だけが持つ音を奏でていた。



 その道端に、あの荷馬車の少女が立っていた。


 片手に分厚い本を抱え、もう片方の手で髪を押さえながら、言った。


 《あなた、エルフじゃないでしょう》



 オークは雷に打たれたかの如く驚いた。


 少女の声が耳ではなく頭の中で聞こえ、はっきりと理解できたからだ。


 言葉を届ける魔法の一種だった。



 《衣装も耳も、杖の持ち方も違う。皆の前では言えなかったけど……気位の高いエルフが人間と同じ食卓を囲むなんてことしない》



 オークは何も返さなかったが、感動で静かに震えていた。


 育ての親を除けば、魔法の素養を持つ者に出会うのは初めてだった。



 “灰の賢者、光持て来たる──”


 彼女は言った。



 《古い本の一節です。皆あなたを、伝説にある救世のエルフだと思っている。面倒を嫌うなら、夜のうちに発ってください》



 オークはやはり何も返さない。


 会話というものがひどく久々だったせいで、喉に蓋がされたように息だけが漏れ出た。



《……そう、わかりました。あくまで英雄を演じるというのなら、私が何なりと手を貸しましょう。……お礼もまだできていません》



 頭の中に響く声は、わずかに熱を帯びたようだった。





 オークは沈黙の民と称される。

 声よりも、行いが重きを持つと信じている。

 怒りは石を割るが、沈黙は大地を耕す──そう教えられて育つ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ