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彼は短く否定する

 ──もし人里へ行くのならね、相手をよく見ることだ。

 なにしろ連中、数だけは多いからねえ。

 尻尾を振るやつも、笑顔で毒を垂らすやつも、同じような顔して見分けがつかないもんさ。

 大事なのは、お前にも相手にも、間違いを犯す権利があるってことだ。

 せいぜい“お行儀よく”しておやり。





 人間の街へ向かう道中、荷馬車を襲っていた人影を光る杖で追い払った。


 荷馬車に乗っていた商人の親子は礼を申し出たが、彼は取り合わず歩みを進めた。


 老いた魔女の、物語を読み聞かせるようなゆっくりとした口調に慣れていた彼には、早口すぎて聞き取れなかったのだ。



 門の兵士は泡を食った。


 闇の中、馬車を伴い光の玉を携えて現れた男の異形のせいだ。


 身の丈も隆々とした筋骨も、なにより突き出た牙は人間のものとは思えなかった。


 

 夜にもかかわらずオークを囲んだ人だかりをかき分けて、身なりのいい老人が震える目で彼を見据える。



 「おお、おお……長躯、灰色の肌、緑の瞳に……魔法……! あなた様、まさか、エルフか……!?」



 エルフという異種族がかつてこの地にあったことは、話好きの魔女に聞いていた。


 魔法に長ける長命の民の名で呼ばれ、彼にとっては光栄でもあった。



 しかし排斥されたとはいえ血を継いで生まれた種族の名のもと、彼は短く否定する。


 その小さく低い声は、老人を中心とした大きなどよめきにかき消され、誰の耳にも届いてはいなかった。





 オークは名を飾らない。

 問いかけられぬ者こそ強く、名をつくろわぬ者こそ強い。

 死に損ないが死者の名を継ぎ、死に損なうほど長い名を持つ。

 ゆえにオークは名を誇らない。

 それは死後にだけ許されている。

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