望み
──お前って子は肝心なとこで抜けてるねえ。
だから魔法がちっとも上達しやしない。
いいことだ。
半端に才のある奴から死んじまう。いいや、大げさじゃあないよ。
いいかい、これだけ気をつけな。
ことをなす直前がいちばん危ないんだよ。
手順が整った、用事が済んだ、もう終わった――そう思った瞬間を疫病神は待ってるもんなんだ。
これまでの報告に戻ると、砦の門で子供たちに囲まれた。
高い歓声が四方から降り注ぎ、言葉の意味を拾うことさえ難しかったが、少女の楽しげな促しに従い、彼はただ静かな岩山のように歩んだ。
両腕に四人、愛用の杖に三人がぶら下がる。その重みは不思議と心地よく、彼の心を仄かに癒した。
“救世”の顛末を聞いた領主は、少女の言った“わずかな心付け”の額面が気に掛かっているようだった。
「師の、名誉を……」
オークの男はゆっくりと言った。
彼を育てた老魔女はなんらかの咎を負い、ひとり森に隠れ住んでいた。
それは灰燼の魔女という怖ろし気な呼び名からも察せられた。
オークはただ、温かな指先を持った彼女が、後世でもなお禍々しい名で呼ばれることをよしとしないのだ。
「それと、馬車で隣国へ渡れるだけのお金です」
少女ははっきりと付け加えた。
領主は魔女の異名にやや眉をひそめたが、救世の締めくくりとして麻薬組織を退治した暁には、必要な手配をすると約束した。
《よかったですね、賢者様。では、張り切って悪者をぶん殴りにまいりましょう》
少女との同道も、これが最後になるだろう。
ふと覚えた胸の疼きは、老魔女との別れの日に似ていた。
件のならず者どもは街の地下水道に拠点を構えているという。
少女がさらわれたのは、街の裏手の水門近くを通りかかったところであった。
オークの身の上に、永き名誉の証は存在しない。
いかな強者も蛇蝎の愚者も、死した後に吹く風を変えることはない。
受け継がれる掟の輪のみが、かつて他のオークがあったことを示している。
本来、オークは後世に名を知らしめることを求めない。
しかし一族が謂れのない悪名で語られれば、その限りではない。




