森の外へ
──おやまあ、オークの捨て子とはね。
……“役立たず”? それがお前の名かい。
なんとも、魔女の森に似つかわしいことだね。
いいかい、負け犬の中には二種類いるのさ。
遠吠えして終わるやつと、ベソかきながら星を数えるやつ。
どうせなら後者でおいでな。夜は長いけど、退屈じゃあないよ。
枝の間をすり抜ける風が低くうなり、はるかに遠い記憶を運んでくる。
血と煙と、叫ぶ一族の声。――その残響を追い払うように、オークの男は杖を地に突いた。
火は呼ばなかった。彼にとって炎は奪うものの象徴だったからだ。
代わりに青白い光が杖の先に灯り、足もとをほんの少しだけ照らす。
森に捨てられ、拾われ、育てられ、そして見送った。
老いた魔女の教えは、故郷の教えを守る彼を矯正することはなかった。
しかしこの昼夜を問わず深い闇に包まれた森の中に、いつまでも彼がとどまることを良しともしなかった。
オークは天を覆う背の高い木々の間を抜け、森の外へと足を踏み出した。
これまで見るばかりだった荒野が、彼の目には日の光以上に眩しく映る。
天気雨が降る丘を越え、ひたすら歩いて日が暮れたころ、彼方に人の街の灯が見えた。
外套のフードを深くかぶり、その門を目指す。
そこに彼の求めるものがあるか否かは、オークには重要ではなかった。
ただ、この光を携えて行く。それが彼が自分に課した約束だった。
オークは饒舌であることを好まない。
人間はそれを「野蛮」「愚鈍」と言い換えた。
風が吹けば風を吸い、砂が舞えば砂を噛む。
言葉は声だけではないと彼らは知っている。




