婚約破棄、イェーイ!!!
婚約破棄が流行りに流行る現代。
もはや破棄する為に婚約する男女も珍しくない有様。どれだけ華麗に破棄できるかを競い合い、洗練された婚約破棄は新聞の一面を飾る。
その様相は、後の世にこう呼ばれることになる。『大婚約破棄時代』と。
真っ当に婚約破棄を目指すカップルに、外見だけは清楚な略奪系肉食女子が絡み三つ巴を演じるのはよくあること。
計画通りに華麗に婚約破棄してのけた者たち。
婚約破棄の途中で事もあろうに婚約相手と恋に落ち、婚姻してしまった愚か者たち。
略奪女子の乱入により、破棄はしたもののグダグダな流れになってしまった者たち。
乱入されたものの、それを良いスパイスとして完璧な婚約破棄を演じてみせた者たち。
実に様々である。
たった今ここでも、一組の婚約破棄が行われていた。
金髪の男と茶髪の女の組み合わせのようだ。
暇つぶしがてら、一つ見物していこうか。
「君とは婚約破棄だ!」
「望むところよ!あなたとは婚約破棄だわ!」
体を半回転させながら、ビシッと女性を指差し叫ぶ男性。合わせ鏡のような動きで男性を指差し、言い返す女性。
……これはまた、キレの良い婚約破棄で。
「そもそも君のことは、最初から気に入らなかったんだ!」
「奇遇ね!私もよ!」
「それをお情けで婚約してやったというのに」
「お情けで婚約を受けてあげたというのに」
「おまえときたら!」
「あなたときたら!」
「一向に俺の足元に這いつくばらないじゃないか!」
「一向に私に傅かないじゃないの!」
……これ、お似合いなのでは?
「本当に腹立たしい!」
「全くもって、腹に据えかねますわ!」
「そういう訳で、君との婚約を破棄する!」
「今日限りであなたとは赤の他人ですわ!」
「婚約破棄だ!」
「婚約破棄よ!」
歌うように挑むように婚約破棄を叩きつけ合う二人。
脇で一部始終を見ていた黒髪の男性が、手早く紙に何かを書き込んだ。
二人がその男を振り返る。
「どうだ!?」
「どうなの!?」
黒髪の男はささっと紙の下の方までペンを走らせると頷いた。
「そうですね。総合点で7.5点、といったところでしょうか」
黒髪は、婚約破棄協会が派遣した審査員だ。
(知らない人の為に説明すると、婚約破棄協会とは増え続ける婚約破棄を格付けする為に、主要な新聞社が合同で立ち上げた比較的新しい組織だ。審査を希望する者は、協会に審査員の派遣を要請し審査を受ける。依頼料は10万ルー。因みに上流貴族の婚約破棄は、依頼がなくとも勝手に調査され審査される。そして記事にされる)
微妙な点数に、金髪が食ってかかった。
「なんでだ!何が足りなかった!」
「そうですねー、ドラマ性でしょうか」
「ドラマ性……」
女が小さく繰り返した。
「はい。やはり世間の皆様が婚約破棄に求めるのは、ドラマチックな展開な訳ですよ。例えば先月のルーン公爵家の件」
「ああ、あれか」
婚約破棄者として、主要な婚約破棄は当然チェックしている金髪が頷いた。
「あれは実に良かった。個人的には今年一番ではないかと思っています。何故だかわかりますか?」
「……先ずは、公爵家というネームバリューだろうか?」
「そうです!この国の五大公爵家の一つ、しかも長男!これだけで既においしい!」
「くっ……俺の身分がもっと高ければ……」
金髪が、悔しげに唇を噛んだ。
黒髪は続ける。
「けれどそれだけではありません。お相手は運命的な出会いをした平民の娘だった!」
今度は女が悔しげに呻く。
「っ……私の身分がもっと低ければっ……」
「渋る公爵を一年かけて説得して、ようやく婚約にこぎつけたというのに!」
「っ……もっと家族の反対が必要だったかっ……!」
「婚約証明書を手に愛する女性の元へと向かってみれば、相手の女性は他国の王子に乗り換え済み!」
「っ……!もっとビッチにならなければいけなかったのね!」
「公爵家の長男は失意のあまりーー(中略)ーー婚約破棄とは、本来このように己の人生の全てをかけて行うものなのですよ。所詮遊びのエンジョイ勢がランカーを目指そうなど、片腹痛いというものです」
「そんな……」
「私たちだって頑張ったのに……」
二人はそろって肩を落とした。
それを気の毒に思ったのか、黒髪は言葉を続けた。
「まぁでも、悪くはなかったですよ?」
「本当かっ?」
「ええ、テンポといい勢いといい。婚約破棄してる癖に妙に気の合ってるところなんかも、オリジナリティーがあって良かったです」
「そ、そうか?」
「私が5点以上付けるケースは、そう多くはないんですよ?」
「そうか!」
「そうなのね!」
ジャッジのフォローに、顔を輝かせる二人。
「やったな!」
「やったわね!」
手をガシッと握りあって喜んでいます。
……仲よさそうに見えるんですけど、婚約破棄したんですよね?
「今回の反省点を元に、更なる高みを目指してもう一度婚約しないか?」
「より練度の高い婚約破棄の為ね!いいわ、婚約してあげる!」
婚約破棄直後のプロポーズを、女は秒で受けた。
また婚約するんかーい!これだからエンジョイ勢は。
「じゃあ早速、そこの喫茶店で君の好きなケーキでも食べながら作戦会議といこうじゃないか」
「いいわね。あの店、あなたの好きなパフェもあるしね!」
エンジョイ勢カップルの二人は、仲睦まじそうに腕を組み、お気に入りらしき喫茶店へと消えていってしまった。より完璧で華麗なる婚約破棄を目指して。
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