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バオバブ千年桜  作者: summer_afternoon
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PJ後大人気ない大人達

天井部分が浮遊しているのは、落下しても下には観客がいない場所。そして、天井中央部「ジャパニーズレポート」というタイトルと「連邦法291条」の文字が空中レンズ機能で拡大される。


「「「「おおーっ」」」」


割れんばかりの歓声が沸いた。内容までは見えなくても、期待していたものの出現。多くの人は立ち上がり、一部ではウエーブが起こる。


ルツは祈るような気持ちだった。

できるかな、うまくいくかな、重いんだよ、人工黒曜石も石板も、石板の金も。

こればかりはトト統括も「できないかもかーもなんだぜ」と頭を抱えていた。


データセンターの1~3棟の上には、観客席を設けてない部分がある。その不自然に空いた部分の上を、ゆっくりと巨大な塊が飛んでいった。人工黒曜石の蓋と天井が目指すのは、データセンター1棟外。すでにその場所は立ち入り禁止エリアになっている。


ドーン!

がらがらがらっ


高度を下げている途中、バランスを崩し、一部、持ち上げていた装置が外れてしまった。


「「「「ああ!」」」」「「「「うわっ」」」」


天井は見事にひっくり返った。地面に落ちた衝撃で、ドーム型だった天井はぼろぼろと石板や合金版が分かれ、解体されたように美しく並んだ。


「撮れ」「動画だ」「SNS」

「なんだあれは」「またなんか飛んでるぞ」


第二弾が飛ぶ。輪切の横ストライプ。鈍色の合金版が太陽光を反射し、石板の中の金の文字もきらきらと光る。それらも、観客の傍を飛んでデータセンターの外に着地した。輪切の横ストライプは計7つ。


データセンターの上の観覧席をゲットできなかった人達は地上に大勢いた。その人達が砂糖に群がるアリの様に、石板と合金版に群がる。


その様子は連邦中だけでなく、世界中に発信された。







連邦総裁はジャパニーズレポートと連邦法291条の存在を認めないわけにはいかなかった。


『公開されている連邦法は290条までですが、実際には291条に遺伝子に関する遺伝子法があります。これは、連邦社会の安定のために熟慮されたものです』


これまで何百年も、政府のトップと少数の関係者しか知らされていなかった。


『遺伝子段階での能力差に関わるものであり、慎重に扱われてきました』


知らされていなかった政治家の1人が連邦総裁に物申す。


『能力差なんて言葉で誤魔化さないでください。遺伝子段階でまとめやすい人間を造ってたってことじゃないですか』

『違います。規律やルールを守るということです。戦争や内乱を起こしやすい状態では安全で平和な社会を保てません。291条は必要だと考えます』

『日本人は消滅したのに、連邦民には日本人の遺伝子の塩基配列が採用されてるんですね』

『正しくは、塩基配列の割合です』


ハオラン氏はリングの映像を消した。

場所はヨハネスブルグ極秘研究所の休憩スペース。


「こんな状態で、とてもルツのことを裁ける人はいないんだ」


テーブルの上にはカップ麺。


「ボンバーヘッド軍団のこともね」


とコノハナサクヤヒメさんはシーフードの偽イカを口に運ぶ。


「トトはヒーロー。モテまくってる」

「あら、まだあなた、ここにいるの?」


コノハナサクヤヒメさんはサミュエルさんに冷たい視線を飛ばす。


「ね、ルツ、森羅。最初の話を覚えてる?『本人達の希望があれば、もとの時代に帰す。日本人消滅の解明後この時代に残る場合、里親の元で未成年のカリキュラムを熟してから社会に出る』って話」

「「はい」」

「上司はね、ほら、あのヒジャブ被ってた女性。子供がいるから2人のことすっごく心配してて、こんな状態なのに里親探してくれたの。それが、希望者がいないの」

「「……」」

「特別じゃない? みんな自信がないんですって。小さなころから育てるんじゃなくて、15歳。あら? もう16? あとたった2年」

「犬でも、子犬から育てたいもんな」


なんてことを。

無神経な発言のサミュエルさんを、コノハナサクヤヒメさんがギロっと睨む。


「でね、上司は言うの『彼らはもう家族を知っているから、あと2年は一緒に暮らせる大人がそばにいればいいんじゃないか』って。ポイント持ってるカップルである必要はないって」


コノハナサクヤヒメさんが言い終わるや否や、サミュエルさんが立ち上がった。


「よっしゃ。森羅、オレんとこに来い」

「いいんですか?」


ハオラン氏はちょっと心配したが、承諾した。


「森羅、善悪の判断はちゃんと自分でするんだよ」


なんと素晴らしいお言葉。


「じゃ、ルツは私ね。まだヨハネスブルグの次に行くところを決めてないの。サミュエルさんはどこに住むの? この2人を離すのは酷でしょ」

「あれ?『本人の希望があれば、もとの時代に帰す』ってのはどーなったんだ? ヒメさん」

「ルツが21世紀から自分で戻ってきた時点で、もう決まってるじゃない。そうよね、ルツ」

「はい」

「森羅は、ルツがいるとこしかダメでしょ?」


コノハナサクヤヒメさんの言葉に、森羅は無言で首を縦に振った。

5人で、はふはふと湯気の出るカップ麺を食べた。



イスタンブールの風は潮の香りがする。

古くからの港町は、異国情緒を残している。VRにチュニジアを出したサミュエルさんは、実はロマンチストなのだろう。と、ルツは思った。が。イスタンブールに居を構えていたのは、別の理由だった。


「中東といー感じの距離で、暗号資産がホットなんだ。闇サイトに通じてるヤツもいっぱいいる」

「ハオランの前で言ったら、森羅のこと反対されてたでしょうね」

「大丈夫です。善悪の判断は自分でシマスノデ」


森羅の言葉を「どの口が言う」と呆れるルツだった。

案の定、森羅は即、通貨「エーロ」によって可視化することに興味を覚え、連邦政府が行った事業をリングにエーロ換算させて遊んでいる。成人するまでは暗号資産に手を出さないことを願うばかり。


イスタンブールで、ルツと森羅はハイスクール生活を始めた。


O(オー)ちゃん、ね、ね、ライブとか、初めて。ドキドキ」


友達はすぐにできた。ルツも森羅も素性を隠していない。人も組織も隠し事はとても面倒。裏も表もないのがルツ流。シンプル・イズ・ベスト。


「ちょっとルツ、ベーシストがウインクしてくれた!」

「きゃー♡ 見た見た」


部活というシステムはないけれど、ノリが同じ数人のグループでかたまっているのはテニス部仲間っぽい。森羅は似たタイプの男の子達のグループにいる。


ルツの友達にも森羅の友達にも、連邦以外の国からの亡命者がいる。連邦外で戦争があり最近増えた。彼らの多くは自然交配だった。前の文化が染み付いていて「これがタダなんて」とことあるごとに口にした。


「ここって天国みたい。爆弾で壊れた建物がないんだもん。お腹が空いたら食事があって」


その言葉を聞いたとき、周りのみんなで彼女をハグした。


連邦外から亡命した彼女は、連邦のことを「家族から子供を無理矢理引き離して洗脳するところ。洗脳の後は、働くことを忘れて堕落する」と聞かされていた。それでも、命を優先する人が亡命するのだと。


私って、そんな目立たない。ヨカッタ。

あれほど不安だった能力不足は、発表やテストがないので全く気にならなかった。

魔改造は、成人して行き詰まってからでもいっか。

ルツは自分の遺伝子を魔改造する計画を延期した。いつまで延期するかは未定。ひょっとすると一生かもしれない。



本日、ハイスクールで、臨時の知識のダウンロードを行った。連邦法291条について。

成人連邦民の直接投票によって、291条が正式に連邦法に加わることとなった。

そもそもデザイナーベイビーだけでいいのかという議論を始めた政治家は「それが連邦なんです」とSNSでフルボッコ。「そこに言及するなら抜邦してください」「女性に激痛出産させるんですか」などなど。


正解なんてないんじゃない?

ルツは思う。それは自分がしでかした経験から。


2304年、武漢の極秘研究所の遺伝子保存庫から日本人の遺伝子1000人分を持ち出したことは、うやむやになった。どこまでを明るみに出していいのか判断する者がいなかった。全てを白日の下に晒したとしても、ルツの行動の善悪をジャッジできる者もいなかった。


もしハオラン氏だったらどうしただろう、とルツはときどき考える。

ハオラン氏だったら、周りに意見を仰ぎ、その上で同じことをしたのだろうか。周りに止められたら? 

人権という正義感から、ハオラン氏は理性的に対処するだろう。ルツの場合は違う。感情だった。どうにもならない、悲しみと怒りだった。


「もう考えないの、ルツ。過ぎたことなんだから」


コノハナサクヤヒメさんは言う。


「え」

「考えてたでしょ」

「あ、はい」

「結局何も変わらなかったわね。ルツのしたことじゃなくて、ジャパニーズレポートのこと」

「直接投票がありました」

「うん。そーね。でもね、私達のこと、ドメスティケーション(=家畜化)遺伝子の人間だって呼んだ誰かがいるんだよね。じゃなきゃ、そんな言葉遣ってないと思わない?」

「私達?」

「ええ、私達。性格的なとこの遺伝子の塩基配列は、日本人がお手本なんだもの。どおりで私、日本人に親近感持ったはず」


コノハナサクヤヒメさんは、日本人に不安遺伝子を持つ人が多いと聞いたことがきっかけで、日本の歴史研究家になった。


「2304年にも、ついこの間のデータセンターでも言われてましたね。KamikazeとKaroshiも」

「ドメスティケーションって、学術的に遣われてるだけで、実質は、高度な社会性を持ってるってことだと思わない? ジャパニーズ割合が採用されてる中に、私達もボンバーヘッド軍団もいて、データセンターの真ん中が輪切りんなっちゃった」

「輪切りでしたね」

「KamikazeもKaroshiも、よくないことって結論が出てる」

「とーぜんです」

「要するに私が言いたいのは、ドメスティケーションなんて言ってた人も、ジャパニーズ割合の一員で、連邦はうちらを、簡単にまとめられると思ってるかもだけど」


コノハナサクヤヒメさんが言葉を選んでいる。一時的とはいえ、里親としての自覚が出てきたのだろうか。


「簡単に思い通りにならないよ、ってことですね」


リングをはめていたルツは配慮したのに、やっぱりコノハナサクヤヒメさんは、大人気ない大人だった。


「そうそう。そっちの思い通りになるかよっ、くそがっ」







                 おわり


読んでくださってありがとうございます。


データセンターの上からの図を変更しました。


「虫の死らせは本当だった」

挿絵(By みてみん)


「ボンバーヘッド工事現場」

挿絵(By みてみん)


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