カリフォルニア恋の後悔
21世紀に強制送還されちゃうかもしんないから、最後にタイムマシンで頑張ったことを褒めてくれてるんかな?
タイムワープでのズレの原因はプレートテクトニクスで、ルツが気づいた。
違った。
「ゼロがズレてたことだよ」
「え?」
「さっき、ルツ、人工黒曜石の割れ目から4棟の地下に行ったよね」
「はい。行きました」
「カリフォルニアはサンアンドレアス断層がある。太平洋プレートと北アメリカプレートの境。そんな複雑な場所だから、200年も経って、ゼロが発動したとき、正常に終わらなかったんだね。これは僕の仮説でしかないけど」
「それですよ。きっと!」
プレートテクトニクスで仮に大地が1年で3cm動いているとしたら、200年で6m。データセンターは巨大。なんてったって皇居サイズ。たとえ同じプレートの上にあったとしても、200年の間には地震やらなんやらで地殻変動があるだろう。ゼロが完全でなかったのは当然とも言える。
ルツは疑問が解消されてすっきりした。
だよね。あんな大掛かりな物、造るときにちゃんと設計するよね。
ぐるっと見回して森羅を探す。と、
寝てるし。
森羅はサミュエルさんの座るイスの奥で寝ていた。サミュエルさんが森羅をパリピからガードしている。でもって、一見パリピに混じりそうなサミュエルさんは、地球ボンバーヘッドのトト統括と真剣に話し込んでいる。
「お疲れ様です」
ルツは森羅の傍に行きたくて、2人に挨拶した。
「よ、ルツこそ、お疲れ」
「なかなかだぜ。ルツ」
「4棟のことをどうやって公表するか話し合ってるんですか?」
尋ねると、まだ、その前の段階だと2人は項垂れる。
なんで?
「どうかなさったんですか?」
ボンバーヘッドサミュエルさんが話し出す。
「オレ達としては、4棟を衆人環視の中で発掘したい。が、だ。人工黒曜石をぶっ壊すとなると、下にある肝心の石板や合金版が壊れる。石板がある程度壊れること覚悟でぶっ壊すこともできる。合金版が残る」
「嫌だぜ。」
「2つとも同じだ」
「2つとも綺麗なままがいい。じゃなくても、石板の方は絶対だぜ」
「なんでだ、トト」
「石板の方がかっこいいんだぜ」
分かる。
「もう1つ。水没工事が終わったら、引き上げなきゃならない。時間がない」
「じゃ、水を抜くのを遅らせればいいじゃないですか」
ルツは安易な提案をした。
「そんなやり方はオレの方針に反するんだぜ。スマートに全力を尽くすのがモットーなんだぜ」
なるほど。
「オレ達の中に化学分野に詳しい人間がいないのも致命傷だな」
「あんなに人いっぱいいるのにですか?」
「ああ。なぜか工学、物理、数学系の得意なやつが多い」
「人工黒曜石に詳しい人がいたらいいですね」
「知らないだけで、いるとこにゃいっぱいいるんだろーな」
「近くの大学生をスカウトするとか」
「大学生よりも、企業の研究員が理想なんだぜ」
「人工黒曜石の企業ってあるんですか?」
「ガラス企業だぜ」
「ガラス?」
「人工黒曜石は強度マックスな防弾ガラスを作ってるときに偶然できたんだぜ」
「素材の弱点は、一応、企業秘密なんだな」
「200年も前にできた建物なのにですか? 人工黒曜石はもっと前ですよね?」
「そ。だから、一応。たぶん、ガラス企業の研究員だったら知ってる」
「ここから出たら、リングで探してみますね」
ルツは社交辞令でお茶を濁しつつ、寝ている森羅の鼻の穴を塞いだ。口が開いた。
起きないかなー。ぐっすり。
「ルツ、調べなくてもあるぞ。近くに石英の鉱山があって、企業の研究所がある」
「え。だったらお願いすればいいじゃないですか」
「どーやって。オレ達の仲間は来る者ウエルカムだけど、こっちから勧誘はしない」
「そーなんだぜ。ことがことだけに、自主性を重んじるんだぜ」
おっさんって、どーしてこう、ゆーずーが利かないんかな。
「人工黒曜石の性質を聞くだけでいいじゃないですか。使われているのは4棟だけじゃないんですから」
「そうか」「そーだったんだぜ」
ガラスの企業の研究所を訪れる際、抜擢されたのは、コノハナサクヤヒメさんだった。
「はあ? どーして私」
翌朝、二日酔いが全く残っていないコノハナサクヤヒメさんは驚いた。
「オレは雲隠れ中の身、トトは現場がある」
「他にもいっぱいいるじゃない」
「頼む」「お願いしたいんだぜ」
コノハナサクヤヒメさんは、ネットの企業紹介を見て、承諾した。
金髪に翠の瞳、日焼けマッチョの研究員がいた。
1日目。
「ふふふふ。ルツ、新しい恋の予感がするの」
ええーっ。オベール支配人への気持ちは?!
2日目。
「土地柄かしら。小麦色の肌。ヨットで競技をしてるんですって。筋骨隆々」
コノハナサクヤヒメさんの報告には、黒曜石のコの字もない。
ルツはセクサロイドとかアンドロイドじゃないよね?と気になった。敏感なコノハナサクヤヒメさんは、それを感じ取った。
「ルツ。心配してくれてる? 大丈夫。セクサロイドじゃなかった。お尻にイジェクトピンを挿すところはなし」
「ええーっ。もう確認したんですか?!」
「恋って本能なのよね」
なんて手の早い。
コノハナサクヤヒメさんは実力を発揮。3日目には、データセンターへ金髪マッチョを連れてきた。
人工黒曜石の講義が行われた。人工黒曜石の扱い方、人工黒曜石の切り出し、研磨、溶解、接着について。希望者が受講。
先日感動の涙を流したルツは、もう4棟のことはどうでもよかった。
アシカ見に行こ。
日向ぼっこしているアシカの大群がかわいい。エサやり禁止、近づくのも禁止なのが残念。ルツ以外にも親子連れや若いカップルが見学していた。
未成年じゃん。
31世紀初の未成年だった。
タクシーでデータセンターへ行くとき、空から眺めた。昨日よりも水位が下がっていた。
詰め所へ行ってみると、ハオラン氏が考える人。テーブルに向かっている。テーブルの上のお皿にはパンケーキがあり、中がくり抜かれて巾の少ないドーナツ型。ハオラン氏は、そのドーナツ型の中へホイップクリームを入れる。一旦、どさっと入れた後、お皿から3mmくらいの厚さに均一にのばし、余りは口の中へ。
何考えてるんだろ。
気になって、ルツは話しかけるタイミングを待った。
「……。
……。
……」
25分経過。30分変わらなかったら、その場を離れようとルツは思った。
28分後、ハオラン氏はお皿をそーっと回し始めた。それからやっと、冷めたコーヒーを飲んだ。
「あの、それって、データセンターですか?」
思い切ってルツは質問した。
「あ、ああ、ルツ。お行儀の悪いとこを見られたな。そうなんだ」
「何を考えてたんですか?」
「データセンターのカラクリを。ほら、ゼロのとき、最後に真ん中が土砂が出てきてた。あれはどこにあったか考えてたんだ」
「どこにあったんですか?」
「3棟と4棟の間の地下。4棟が沈むとき、最後、ゆっくり回りながら沈んでいたんだ」
ルツは回っていたことに気づかなかった。ハオラン氏によれば、恐らく4棟は、地上と同じ高さのところまではまっすぐに沈み、そこから回転を始めた。同時に3棟と4棟の間の地下から4棟の上に土砂が雪崩れ込む。ただ土砂が出てきただけでは4棟は隠れない。回転することにより、土砂がならされた。一方、4棟の沈んだ部分は、蓋のように地下のフロアを覆った。最後、回転したら、きっちりと蓋が閉まるように造られていたのではないか。しかし、蓋は閉まらず壊れてしまった。その隙間を水中でルツが通った。
「3棟と4棟の間の地下には、土砂をストックしていた部分があって、恐らく、下から底上げするような感じで土砂を押し出したんだと思う。だから今は、その部分が空洞になって、たぶん水が溜まってる」
「水が」
トト統括は4棟発掘のために時間を稼ぎたがっていた。地下にまで水があるなら、時間がかかる。しかも、3棟と4棟の間を掘削する理由ができる。
説明を終えたハオラン氏がパンケーキを食べ始めると、タイミングよくボンバーヘッドサミュエルさんが来た。
「そーか。そーゆーカラクリになってるのか。トトに伝えてやって」
サミュエルさんに言われ、パンケーキを食べ終わったハオラン氏はトト統括を探しに行った。
今度は軽やかな足取りでコノハナサクヤヒメさんが登場。
「ごきげんよう」
めっちゃご機嫌。恋愛モード全開バリバリ。
その様子を見て、サミュエルさんは一言。
「食った?」
コノハナサクヤヒメさんは、キッと睨む。
「下品な言葉やめてくださいます?」
「いや、教えといた方がいいかなって思ってさ」
「なにかしら? その含みのある言い方」
ルツは「また始まった」とイスに深く腰掛け、コント的なやりとりを見守る。
「ヤツ、未成年だぜ」
「「はあ?」」
これにはルツも一緒に驚いた。どう考えても金髪マッチョ研究員のこと。
え、だって、企業の研究室にいるじゃん。
「近くのハイスクールの生徒。飛び級で大学の講義を受けて、興味のある分野だからって、ガラス企業の研究員やってる」
「それ、ホントなの? そんな情報、どこで」
コノハナサクヤヒメさんの声が震える。
「さっきヨット競技の話したんだよ。そしたら、近所のハイスクールの選手だった」
「情熱的なんじゃなくて、覚えたてでガツガツしてたってこと?!」
とうとうコノハナサクヤヒメさんはムンクの叫び。
サミュエルさんは、苦虫を噛み潰したような顔をして、逃げた。
_| ̄|○
コノハナサクヤヒメさんは打ちひしがれた。
「なんてこと、私ったら。これじゃ下衆グリーンと一緒。未成年とのセックスは犯罪。消去されちゃう」
「大丈夫です。誰も聞いてません」
リングすらも。ここは一時的に作られた詰め所。ハウスキーパーはいない。怪しい話もするので、詰め所へ入る際はリングを外すことになっている。コノハナサクヤヒメさんもルツもリングをしていない。
そこからの行動は早かった。コノハナサクヤヒメさんは詰め所を出ると、即、金髪マッチョに連絡して別れた。
「はぁぁぁ。日焼けって皮膚を老化させるのよ。歳なんて分からなかった。確かに若いとは思ったけど。やめとけばよかった。いいわね、ルツ。何もなかった。OK?」
「了解です」




