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バオバブ千年桜  作者: summer_afternoon
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地下に佇む真実と熱い涙

満月の中、トト統括とコノハナサクヤヒメさんが詰め所を出て行った。

しばらくすると、宙に表示されている映像の小屋のドアが開く。小屋の中にはスコップやレンガ、土の袋があった。正面には木製の壁。コノハナサクヤヒメさんが体当たりすると、壁ごとドアのように開き、普通サイズのドアが現れた。生体認証。電源は落ちている。詰め所にいる誰もが諦めたとき、コノハナサクヤヒメさんは、銃を数発撃った。開けた。

2つ目のドアに水中カメラが入っていく。


コノハナサクヤヒメさんは、真っ暗な中、水中カメラに掴まって行動を共にしていた。通路は階段。進んでいくと、水中カメラの前に壁が立ち塞がった。黒い。水中カメラは壁の隅を映していく。下の部分には子供が通れるほどの隙間があった。隙間の周りの階段と壁は壊れている。人工黒曜石の壁が割れてできている隙間だった。


チャレンジャーなコノハナサクヤヒメさんは、その隙間から入ろうとして断念。戻った。

水中カメラは、隙間を潜り抜ける。宙に表示された水中カメラの映像は、曲がった金属のドアを映した。それが原因で人工黒曜石が割れている。曲がったドアからどこかに迷い込んだのか、水中カメラに階段以外のものが映り始めた。デスクの脚、イスの脚。


「4棟の地下フロア!?」

「「「「イエーイ!」」」」


詰め所の中は歓喜に沸いた。立ち上がり拳を突き上げる。そして拍手。周りのおっさん達は、なんとなく宴モード。ハイタッチ&乾杯の後、飲んだり食べたりし始めた。


ルツはコノハナサクヤヒメさんを心配した。連絡を取りたくてもリングを使えない。

たぶん大丈夫だと思うけど、大丈夫かな。


待っていると、肩から下の髪を濡らしたコノハナサクヤヒメさんが現れた。既に着替え済み。


「ルツ」


詰め所の入り口でコノハナサクヤヒメさんが呼ぶ。


「大丈夫ですか?」


走って近づくと、とんでもない依頼を受けてしまった。


「私じゃ入れないの。あの隙間。ルツだったらきっとイケる」


コノハナサクヤヒメさんは、手をシャクトリ虫のようにしてルツの肩幅や身幅、頭の奥行き、腰の辺りを測り始める。

能力チートって、他の人を自分と同じだと思ってるんだよね。ムリムリムリ。


「だって、暗いんですよね?」

「水中カメラが照らしてくれるから大丈夫。頭にライトつけるし」

「水圧すごいんですよね?」

「ボディスーツだから平気。水の中で作業するかもって思った人が持ってたの。女性用よ」


ダイバースーツはダイビング専用。ボディスーツは違う。体が濡れないように覆ってくれるくらい。体が浮いてこないようにその辺にあるものを巻けばいいと、コノハナサクヤヒメさんが腰に巻いていたものをルツに手渡す。

いえいえ水圧!

……促されるまま、着替えた。


「あの〜、このボディスーツ、ぶっかぶかです」

「あら、ホント。胸のところがこんなに。大丈夫よ」


コノハナサクヤヒメさんはGOと言う。他の人達は宴状態でこちらのことなど気にしていない。

私、行かなくても良くない?

と怯んだルツだったが、見たくなった。フロアの壁を。


ネットではジャパニーズレポートを晒せと連邦への声が止まらない。データは研究員によって持ち出された。SNSでは誰が持ち出したのか特定しようと盛り上がっている。


ルツの推測では、ジャパニーズレポートは、日本人がドメスティケーション(=家畜化)遺伝子を持っているという内容。ルツは、コノハナサクヤヒメさんから、ドメスティケーション遺伝子の正体ははっきり分かっていないと聞いた。ジャパニーズレポートにはそれがはっきり記されているのだろう。

すると疑問が残る。


だったら、第3の規定って何?


@サミュエルチャンネルのライブ動画の壁は、石板と鈍色のジャパニーズレポート。きっと。

確かめなきゃ。


「ルツ! どこ行くの?」


森羅が詰め所の外まで追いかけてきた。


「さっきの映像観たでしょ? あの隙間」

「なんでルツが」


それにはコノハナサクヤヒメさんが答えた。


「私じゃ入れないの。体が分厚すぎて」


特に胸の辺りがですよね?


「だったらオレが行きます!」


何言ってんの?!


「森羅、泳げないじゃん」

「……。」


コノハナサクヤヒメさんは、森羅の肩幅を手で測る。シャクトリ虫で。


「泳げたとしても、育っちゃったからムリね。こっちへ来たころだったらギリ、イケたかも」


それでも森羅は2棟の上まで着いてきてくれた。


2棟の上では地球ボンバーのトト統括が待っていた。何の疑いもなく、ルツが潜ると信じているところがすごい。

足に、脱ぎ揃えられていたフィンを履く。


「じゃ、ルツ、GO」

「行きます!」


とぷん


ルツは水に飛び込んだ。最初はまだ月の光が届いていた。どんどん暗くなり、水中カメラの人工的な光だけになる。


これいい。

左手に1つ、右手に1つ、水中カメラに掴まると、連れて行ってくれる。操縦しているのはトト統括。3つの光に導かれ、小屋の開いたままのドアを2つ過ぎる。階段の通路の中は、水が少し濁っているのか、光が届きにくかった。

あった。

泳いで人工黒曜石に遮られている場所に辿り着く。ゼロなどという大掛かりな仕掛け、これほどの建造物なら緻密に計算されているはず。

なんでこんな風に壊れちゃってんだろ。

ルツは疑問に思いながら、階段と人工黒曜石の割れ目が作っている隙間を通った。


するり


余裕。

壊れた金属のドアは折れ曲がっている。映像で見て想像したよりもずっと大きく分厚いドアだった。しかも2枚。1枚は壁から取れてしまっている。

その先の空間にはゴミが浮遊する。頭のすぐ上に紙コップが見えた。

浮いてる?

上へ行くため体を縦にしようとすると、足が着いた。


ざばっ


水の深さは足の付け根辺りまでしかない。空気があったため、浸水が食い止められている。

水中カメラの光が水面の下をぷかぷかと泳いでいる。その光だけでも石板と鈍色の壁の横ストライプが分かった。ここは、4棟の地下フロア。

デスクの上は水深数センチ。想像以上に体力を消耗していたルツは、デスクの上で休んだ。

めっちゃ遠かった。


頭に付けていたいたライトの光度をマックスにした。そして、近くで泳いでいた水中カメラを手に取って、壁の模様をゆっくりと映していった。

ルツは結論と概要を探した。壁は窓を挟んで丸くドーム型の天井へ繋がる。窓の部分は黒く見える。窓枠の手前のところどころに丸いライトがある。恐らくはアラートのときに点滅した赤いライト。カメラを天井に向け、撮影する。

あれ!

天井の中央にタイトルと結論と概要がある。その部分だけ石板と合金板が大きい。他の8枚分の大きさになっている。


『日本は、監視社会ではなく罰則が厳しいというわけでもない。しかし、長期にわたって規律が守られ、総じて統制のとれた安定した社会を形成してきた。原因には歴史や慣習と共に、遺伝的要素がある。様々な、社会性遺伝子、不安遺伝子、従順さの遺伝子、協調性遺伝子、忍耐力遺伝子、友好性遺伝子、攻撃性遺伝子に注目し、調査と実験を行った。


重要なのは、先の特定の遺伝子における、集団の中でのパターン別の割合である。

集団において特定の遺伝子をジャパニーズ割合にした場合、統制がとれ、問題や争いが極めて少ない集団となった。特定の遺伝子が全く同じであっても、ジャパニーズ割合の中では問題を起こさず、そうでない場合にはトラブル源となる事例が多くあった。


日本人遺伝子サンプル数1万体 2031~2141年採取

個々の詳細は**以下参照

特定の遺伝子の割合**〜**

その他の遺伝子の割合**〜**

比較対象****

ジャパニーズ割合による集団事例

比較対象との違い』


もう1対、他より大きな石板と鈍色が天井の中央にある。


『連邦法第291条 遺伝子法

・デザイナーベイビーは人として存在しなければならない。これを遺伝子の第1の規定とする。

・デザイナーベイビーは、アレルギーを含む遺伝的疾患を含まないこととする。これを遺伝子の第2の規定とする。

・連邦内の知的水準を維持し文化的科学的進歩を促すため、デザイナーベイビーには、高い知能、勤勉さ、向上心の遺伝子を装備する。これを第2の規定に加える。

・連邦内の平和維持のため、連邦内全体・コミュニティ・学校・集団の中で、ジャパニーズレポートで指定される特定の遺伝子について、ジャパニーズ割合を保つよう調整する。ジャパニーズレポートで指定される特定の遺伝子の割合を第3の規定とする。

・ジーニアス(天才)遺伝子は第2、第3の規定の例外とし、出現を0.01%までとする』


水中カメラで、長い時間「連邦法291条」を映していたルツ。気づくと、涙が頬を伝っていた。

どこにもドメスティケーションなんて書いてない。

それどころか、日本人の内面的な部分が遺伝子の割合として連邦民に受け継がれている。平和維持のために。


連邦成り立ちの知識のダウンロードの際、連邦法が登場した。連邦民一人一人が幸福を実現できる社会であること、地球上での人類存続を目的とすることなどがあった。そして、連邦法は290条までだった。

天井の中央では、石板の291という数字が金色の光を反射している。


すん、すんっと鼻をすする。いつの間にかルツは、自分が日本人の代表になったように誇らしく胸を熱くしていた。顔を綻ばせながら嬉し涙を流していた。



ルツは3台の水中カメラと共に階段のある通路を泳いだ。静寂に包まれて上に昇っていく。水の中から見えた満月は美しく輝いていた。


森羅とコノハナサクヤヒメさんの手を借りて、2棟の上に到着。


「どーしたんだよ、ルツ。怖かった? 頑張ったな。えらかった」


ルツが泣いたことに気づいた森羅は、少ないボギャブラリーで労ってくれた。

違うよ。怖くて泣いたんじゃないよ。

ボディスーツのおかげで、濡れているのは髪の裾だけ。シールドを起動させてハーマイオニーになっても、濡れた黒髪がはみ出た。森羅が自分の上着を脱いでルツに掛け、それを隠した。


詰め所に戻ったコノハナサクヤヒメさんとルツは英雄扱いだった。


どんちゃんどんちゃんどんちゃん


お酒をさりげなく避けるのが大変なほど。コノハナサクヤヒメさんは、めちゃくちゃ飲んでいる。


「ルツ、グレートテクトニクスかもね」


頬を赤く染めたハオラン氏がにこにこと話しかけてきた。

酔っ払ってる? 


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