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バオバブ千年桜  作者: summer_afternoon
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設計図にない4棟を探せ

「家事ロボットって、なんでもできますね」

「そうね。コオロギの世話はイリーガルなことだから、指示するのが面倒だったわ」

「いっぱいいますもんね」


コオロギの鳴き声が日本語に聞こえることについて、ルツはコノハナサクヤヒメさんの手伝いをした。どのコオロギの鳴き声か。結論、1種類だけでは聞こえない。数種類の合唱。中でも、アカチャバネコオロギとクロチャバネコオロギはかなり大きな仕事をする。「役立たず」部分の犯人はこの2種。


「10分の1に減らしたの。共食いでも減ったし。どうせ処分しなきゃならなくて」

「そーなんですね」

「別の時代からの生物だもの。虫の死らせの発表をしたらバイバイ」


軽く話しているが、別の時代から来たという点では、ルツや森羅もコオロギと変わりない。


「上からせっつかれてた発表ですか?」

「しつこいの。上司にももっと上からの圧力があるみたい。だからカリフォルニアへ逃亡」


コノハナサクヤヒメさんのリングには、頻繁に連絡があった。それは、コオロギの件だけではなく、ルツのこともだろう。



カリフォルニアのホテルは満員御礼。#ゴールドラッシュに釣られたのか、技術者募集に釣られたのかは不明だが、暇人が多いことは確か。

コノハナサクヤヒメさんとルツは、1室たまたまキャンセルがあった。森羅とハオラン氏は、工事現場近くの臨時宿舎に宿泊することになった。


翌日、臨時宿舎に遊びに行くと、グランピング施設さながら。しかも広がりはアリーナサイズ。中央にステージやスピーカー、ドラムセットとピアノがある。

フェス? なんで?

データセンターの水没は、放っておいてもいいのだろうか。連邦政府にとって重要な施設ではないのだろうか。娯楽をしながらの作業で許されるのだろうか。ふざけたボンバーヘッド集団に任せていいのだろうか。

ルツの頭の中は疑問符だらけ。


「うす」


森羅もボンバーヘッドになっていた。顔はいつもと同じハリウッド俳優で金髪のままボンバー。ハオラン氏までボンバー。


「おうおう、ルツ。ちょうど窒素をなくすやつが届いたんだ」


ボンバーヘッドシールドのサミュエルさんから手のひらサイズの装置を見せてもらった。


「どーやって使うんですか? ここ押すんですか?」


ルツが黄色く「注意」と覆われているプラスチック部分を触ると、取り上げられた。


「こーら。子供のオモチャじゃない」


ケチ。

傍にいた統括のトトも危険だと言う。


「ここいらの気圧が一気に下がるんだぜ。周りから大気がばばーっと来て、ばばーっとなるんだぜ」


両腕を振り回して説明してくれる。


コノハナサクヤヒメさんは、ゼロについて質問した。


「4棟の建物はどんなからくりなんですか?」

「分からないんだぜ」

「「「「え?」」」」


データセンターの設計図があるのは1~3棟。依頼された統括の人は、1~3棟を通常通りにするよう言われただけで、4棟の話は全く出なかったのだそう。


「ふざけてるぜ。何人が視聴したと思ってるんだか。もうみんな4棟のことを知ってるってのに。水が溜まった原因はどう考えても、ゼロが発動したからなんだぜ」


トト統括は「変なの」とボンバーヘッドのニューヨーク部分を掻きむしった。


「オレはジャパニーズレポートを暴きたいなんて思っちゃいない。ただ知りたい、知らせたいだけなんだぜ」


暴くと知らせるって、あんま、変わんないんじゃ? そんなことしたら、子供育てるポイントなんて減っちゃいそう。

ルツは、立場的に明言を避け、迷言になって迷走してしまっているトト統括を見た。



カリフォルニアの雨季はさらっとしている。降った。()んだ。今、晴れ。

データセンターへ行って、ルツは大きさにびびった。

高さは5階建てくらいだろうか、あまりに広い場所にそびえ立っていて見当がつかない。建物の幅はもっと分からない。どこまでも続いている。


「2平方キロメートル?!」


言われて驚いてみたルツ。実は大きさが分かっていなかった。森羅に「東京ドーム何個分?」とこっそり尋ねると「皇居くらい」と返ってきた。

マジか。


動画で、巨大な建物の天辺をプールサイドに見立ててビールを飲んでいたおっさんボンバーヘッド軍団を、ルツは遠い目で見た。

あんな高い場所で遊んでたんだ。命知らず。


集まった観客もボンバーヘッド多数。プールサイドにいるようにパラソルの下、デッキチェアで寛いでいる。運動会や花火の観覧っぽい。レジャー扱い。

日焼け止め塗ってるし。

案内ドローンが、飛んで、データセンターやカリフォルニアの雨季について説明している。

森羅が危ない!

と思ったが、ドローンは素通りした。


「リングは外してるしさ、ほら、これ」


森羅は左肩にある湿布のような布を指差す。ドローンは形と動きで人間っぽいものを見つけ、アンドロイドかどうか→動物か人間か→リングの識別→顔の形状と識別していく。布は、形と動きについてドローンが正しい情報を得られないようにしてくれるらしい。


「あいつらドローンが物って認識する。これつけてると、電磁波で、2%だけ心拍数が上がるんだけどさ、オレ、そんな、感じない」


やっぱりサミュエルさんはおかしなものを使っていた。変わったリングをはめているだけじゃなかった。


トト統括は、排水管の強度を調べ、窒素を窒化物に変える装置を少しずつ使用。それと並行して排水管の破損箇所を修理。建物が巨大なので、排水管は多数。1箇所で上手くいくのを見届けると、チームに分かれて各排水管の詰まりを解消していった。


ルツとコノハナサクヤヒメさんは、タクシーで上から観覧。


「こんなに広かったんですね」

「私も知らなかったわ。中を移動するときに乗り物に乗るとは聞いてたけど」

「水、すっかり綺麗になってますね」

「どれだけタニシちゃんを使ったんだか」


雨の中のハオラン氏の後ろに映っていた濁りの面影はない。澄んだ水は中の人工黒曜石の建物を幻想的に見せてくれる。


「ダイビングとかできそうですね」

「したいわね。ルツはしたことある?」

「いえ」

「楽しいわよ」

「初心者でも大丈夫ですか?」

「大丈夫。酸素ボンベは、ほら、コオロギ部屋で被ったマスクより小さいの」


酸素ボンベはつけるが、大きくない。しかも管を口に咥えなくてもいいのだそう。このときは、まさか自分がそれをすることになるとは思っていなかった。



一見作業は順調だった。水位は90%のところまで下がっている。

が、トト統括は焦っていた。


「このままだと終わっちまうんだぜ。参った」


ボンバーヘッドのアメリカ大陸が横向きになる。

4棟がなかったことになっているからだろう。サミュエルさんも他のボンバーヘッドも考え込んでいる。

ボンバーヘッド軍団は、4棟の存在をはっきりさせたがっていた。


「これが3棟の設計図だぜ。絶対に地下があるはずなのに、設計図にないんだぜ」


集まっているのは、データセンターの敷地内に設けられた詰め所。コノハナサクヤヒメさんとルツが部屋の隅で話を聞いていると、ボンバーなカツラを手渡された。コノハナサクヤヒメさんは、ちょっと不本意そうな顔をしながら被る。美形なので似合う。ルツは、襟についているシールドをボンバーに変更。

データ準備しておいてヨカッタ。


「建物の中を探してみない?」


ほぼおっさんだけれど、女性ボンバーヘッドもいる。


「ゼロの後だ。どーなってるんだろーな」

「動画じゃ生体認証が必要だった」

「電源は落としてある。どこも開かないんでしょうね」

「地下か」

「人が利用する場合は、避難用の階段をつけなきゃならないはずだ」


3棟へ入って、4棟への階段を探す案が出た。

宝探しみたいでめっちゃ楽しそう。

とルツが思ったのも束の間。


「危険だぞ。下の方が水圧がある。万が一窓が割れたり壁が壊れたりしたら死ぬ」

「階段があったとしても、ドアを開けたら水が入ってきてOUTなんだぜ」


怖っ。


「こーゆーときのための探査ドローンじゃない?」


ボンバーヘッド女性の1人がカブトムシサイズのドローンを出した。


データーセンターは密閉されている。どこかを壊す必要があるらしい。現在、工事のために建物の全ての電源が落とされていので、警報は鳴らない。警備ドローンは急激に増えた観光客の警備や案内、音楽フェスで加熱する臨時宿舎の方へ回っている。


「夜。今がチャンスだぜ」


おっさん達はすでにリングを外している。

ちょっと大きめのドローンを飛ばし、3棟の水位が低くなって窓が見えている部分のガラスを切った。そこから、カブトムシサイズのドローンを何個か侵入させた。詰め所の宙にそれぞれのカブトムシドローンの暗視カメラ映像が並ぶ。


「ここが吹き抜けで階段があるぜ。階段が続いているかもかーもだぜ」

「そんな分かりやすいところに作るかな?」

「じゃ、どこ?」


誰かが言った。


「階段は、外に繋がってるかもしれない。3棟じゃなくて1棟にある可能性もある」


どっとみんなの力が抜けた。


「そーだぜ。歳のせいか頭が硬くなっちまってるぜ」


そのとき、1人のボンバーヘッドが立ち上がった。


「私、2棟で社会奉仕してるの。あの日、2棟と3棟の間のバラ園に地底人達が大勢いたわ」

「地底人?」

「4棟で社会奉仕する人達のことを私達は『地底人』って呼んでる」

「バラ園はどこだ」

「ここよ」


と真上からの映像の一部を指差す。

偵察ドローンを戻し、大きめのドローンで水中カメラを運んだ。

水中カメラは3つ。目的のものはすぐに見つかった。


「ここから出たんだな」


バラ園に小さな園芸道具小屋がひっそりとあった。階段を5段ほど降りると小屋のドアがある。


「カメラだけじゃ扉を開けられないぜ」

「くっ。ここまでか」

「あら、開ければいいじゃない」


事もなげにそう言ったのはコノハナサクヤヒメさんだった。


「水中でそんな器用なことできるロボットは、今、ここにないんだぜ」

「私が開けるわ。ダイバースーツは持ってきてないけど、酸素ボンベがあればする」

「それならあるぜ。緊急用に」


ルツはびっくり。夜、電源を落として灯りもない巨大なプールの底。そんなところへ行く名乗りをあげるなんて。


「履歴が残るからタクシーを使えないでしょ? どうやって1棟と2棟を越えるの?」

「荷物運ぶやつで浮かせるぜ。体重0.5t以下なら大丈夫」


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