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バオバブ千年桜  作者: summer_afternoon
それぞれの苦悩

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ペン型携帯機器情報履歴




クリスマスはなにごともなく過ぎた。特定の宗教行事だから、とりたてて何もしないのだそう。

なのにツリーは飾るんだ?

ルツには少し不思議に思えたが、ツリーがないのは寂しい。あってよかった。


新年を迎えるカウントダウン、ヨハネスブルグの極秘研究所では、食堂でパーティが開かれる。

誰もが、友達にすら、ヨハネスブルグの極秘研究所にいることを明かせない。なので、近況報告をし合う集まりには行きにくく、結果、ヨハネスブルグで年末年始を過ごす研究員がほとんど。


「ルツと森羅は19:00までね」

「「え」」


ぜんぜんカウントダウンできないじゃん。

出会いの場なのだろうと推測。


新年。ルツは森羅に「神社でおみくじを引きたかったね」と言ってみた。


「リモートでおみくじ引けば?」


と返ってきた。

なんかちがう。

ルツがしたいのは、人混みの中を森羅と一緒に(なんなら手を繋いで)歩いて参拝し、白い息を吐きながらお互いのおみくじを見せ合い、木の枝に結ぶこと。


結局、ヨハネスブルグではできないので、日本の神社にリモート参拝&クリックおみくじ。おみくじには大吉や中吉と漢字で書かれていた。


「ひさびさに漢字見た」

「大凶とか凶ってあるんかな」


森羅は、リングにおみくじを1000回引かせて、大凶と凶がないことを確認していた。


「ヤバ。大吉35%もある」


年始から、森羅は森羅だった。







ヨハネスブルグの夏。コノハナサクヤヒメさんは、コオロギの排出物から有害物質を見つけられないでいる。


「ごく普通のコオロギなのよね。排出物の成分、唾液の成分とも異常なし」

「唾液。」


排泄物の場合は、落ちている物を調べればいいだけ。しかし、唾液はどう採取するのだろう。取り出し方を想像しないようにしたルツだった。


「コオロギって雑食でなんでも食べるの。ハムやソーセージ、草、お菓子、ジュース、昆虫の卵や死骸」


雑食加減がG(ゴキブリ)で嫌。

ルツは顔をしかめた。


「参ったわ。これじゃ、過去に5年もいたのに空振り。2200年ごろの日本に、もう1度行くしかないかもしれない。それだと、純日本人を探すのも難しそう。2132年でも少なかったんだから。寿命を迎えそうな高齢者がほいほい出歩いてるわけないじゃない」

「ですね」

「連邦が知りたいのは、全体的に衰退して0に近くなる過程であって、0人になる日じゃないわけ」


コノハナサクヤヒメさんは行き詰まっているようだった。

ルツは、31世紀に来た最初の日に聞いたプロジェクトの方針を思い出す。


 ・タイムマシンで1000年遡ることが可能か実験する

 ・日本人が滅びたとされる2200年ごろまでを過去見で調査する

 ・重要ポイントと思われるころへタイムワープして調査する


1つ目のタイムマシンで1000年遡ることは可能。実験は成功と言える。

2つ目は、机上の空論。過去見は真上からの映像しか見ることができない。真上からでは純日本人を特定できない。また、社会的な動きを確認不可能。

3つ目は、2127~2132年にコノハナサクヤヒメさんがタイムワープした。日本の歴史を考えれば、2126年日本直下大震災、2127年外国人富裕層受け入れ、2128~2132年世界大戦不参加は、これ以上ない重要ポイントに思われる。


以上より、あとはコノハナサクヤヒメさんが結果を出すだけ。


ルツは、待つことに決めた。他のことなら「手伝います」と言える。が、日本人のみが罹患する病原菌を持っているかもしれない危険な虫。ーーー本音は違う。45~50mmのコオロギ、しかもアカチャバネコオロギ、クロチャバネコオロギなどとG的な恐ろしい名前の生物に接することなどできない。アカチャバネコオロギとクロチャバネコオロギは21世紀にはいなかったことは伝えてある。


「日本のコオロギって、もっと小さかったんです。私、虫が苦手で画像は見てないんです。名前がGっぽくて。GはGでちゃんといたんですか?」

「いたわ。あの、どこの厨房にでもいて迷惑な虫。ホテルの厨房も、あの虫には相当苦労してるって言ってた」


それでもまだ、ホテルのレストランには定休日があり、都合によって休業という形も取れるため、駆除することができる。年中無休の店、病院や介護施設は悲惨な状態らしい。


「今でもいるんですか?」

「ええ。ルツ達がいた時代よりもはるか昔から、ずーっと同じ姿で今もいる」

「こんなに技術が進歩してるのに、撲滅できないんですか?」


してよ。


「ちょっとした駆除くらいならできる。せいぜい、目に見えるところに現れないようにするくらいね。排水溝の中なんかにびっしり住んでるって話よ。Gが全滅するのは、とりあえず人間が暮らせない環境になってからでしょうね」


@_@。


希望のない話を聞いてしまった。







ナイロビからの資料の部屋で1人。ルツは、テーブルに転がっているペン型携帯機器を見つめる。


「リング、シールドで顔作るってどーやるの? サミュエルさん、ナイロビ行くときにやってたんだけど」

「シールドに入力モードがあります。そこに自作の顔を入力できます」

「へー。簡単?」

「ハロウィン用なら簡単ですが、実際の人間の顔となると手間がかかります」

「手間?」

「あらゆる角度からの画像が必要です。1番いいのは動画を入力することです」

「えーっとね、ちょっとやってみたいんだけど」


ルツは、ペンの中にあった画像からジュンユー・ホーの画像を全て入力。しかし、後頭部のデータが足りないから作れないと言われてしまった。当然。わざわざ自撮りを後ろからする人はいない。ネットから様々な後頭部を探し、振り向いたらジュンユー・ホーっぽい人を選んでみた。

できた!


ペンからの映像を壁に表示し、ジュンユー・ホーになった顔を壁に近づけてみた。反応なし。


「リング、ペン型携帯機器って知ってる? そのペンが顔、認証してくんない。どうしてだと思う?」


ルツは、シールドでジュンユー・ホーになりすまし、顔認証でペン型携帯機器のロックを突破しようとしていた。理由は特にない。思いついたのでやってみたかっただけ。


「状況が分かりかねます」


そっか。リングって視覚がないんだった。


「ペンからの映像を壁に映して使おうとしてるんだけど。シールドで顔変えてもバレるの?」

「31世紀の顔認証では、シールドで顔を変えても反応しません。ペン型携帯機器は2300年ごろに使われました。2300年ごろにはシールドの技術がありませんでした。シールドの技術は宙に映像を映し出すものに近いので、誕生は、その技術と同じころです。ですので、2300年ごろの顔認証ならば反応するはずです。最後にもう1つ。ペンからの映像を壁に映すことはできますが、それでは顔のデータを読み込むことができません」

「それじゃん」


そっち先に言ってよ。


「ペン型携帯機器は壁に映りますが、それは、動画を大きな画面で観たいという要望に応えたものです。ペン型携帯機器は液晶とセットです」

「液晶」

「はい」

「ね、ね、もしさ、液晶繋いだらできる?」

「はい」

「やり方教えて」

「液晶を用意してください。そして、ペン型携帯機器にミラーリングの設定をしてください」


だめだ。

ペン型携帯機器にログインしなければ設定などできない。


「顔認証でログインしなきゃ、設定変えられないじゃん。話の内容から状況察してよ」

「すみません。察することは苦手です」

「あそ」


ルツが諦めると同時にリングは説明を開始した。


「ペン型携帯機器の顔認証は、カメラから画像を読み込み、データ化して本人との一致度を判別します。液晶とペン本体がやりとりする信号を出しています。その特定の信号を受信してください。液晶画面と共に必要なカメラ機能は……といった方法で……することにより可能です」


リングはかなり長く詳しい説明をしてくれた。もちろんルツは食いついた。


「する」


液晶画面ならある。2127年で使ったスマホが。

スマホを分解し、必要部分を取り出した。そして、ペンから受信。

顔認証の画面が現れた。ルツは急いでシールドを起動。ジュンユー・ホーになる。

おおーっ。マジか。

ロックが解除された。

森羅が前に言ってたけど、私って何気にできる子じゃね?

とルツはご満悦。


鼻歌をふんふん♪歌いながらアプリを眺める。当然、アプリを起動しようとしてもネットに繋がっていないというメッセージを表示するだけ。

が、写真のホルダーは開いた。

もう見たし。


ネットに繋がっていないとメッセージを出した後、履歴を見られるアプリがあった。2つのチャットアプリ。1つはプライベート用。もう1つは、グレーの星が並んだアイコンのアプリ。カラフルなアプリのアイコンの中、燻銀のような渋さを放っていた。


6月6日20:21

『歴史的に暴動が少ない

 という点に注目し、調

 査されたとあった』

         『監視と罰則が厳しかっ

          たのでは?』

『その点はNOだ。

 残された1000人分

 ・貧しい生活を送って

  いた者

 ・大変と言われる仕事

  に長年従事した者

 ・犯罪歴がない

 ・鬱の病歴がない

 と判明』

         『貧しさに甘んじる、社

          畜として耐え得るとい

          うことでしょうか』


は? 何これ。


『Kamikazeの遺伝子は

 Karoshiに受け継がれ

 ている』


Kamikaze「神風」、Karoshi「過労死」。日本人のこと。じゃあ、残される1000人分って、日本人の遺伝子1万人分のうちの1000人。ドメスティケーション度が高い。


         『武漢空港から尾行され

          ている気配あり』

『気をつけろ』


そのやり取りが最新だった。

日本人の遺伝子について会話しているのに、ペンが見つかった場所はアフリカのナイロビ。登場したのは武漢空港。

首を傾げながらも、ルツは更に古い履歴を見ていく。


6月6日13:44

『今回の目的は、販売さ

 れる1000人分の救出。

 組織の残党には近づく

 な。危険。既に組織は

 解体された。いずれ、

 残党も消滅する』

         『分かりました』

『ナイロビの

 NZURI USEDCAR。

 A-CARという企業が買

 収。古い書類を事務所

 ごと放置。青いファイ

 ルの中で見たという記

 録が残っている』


今度はナイロビ。武漢からナイロビに来たのかな? で、武漢空港から追われてる。NZURI USEDCARって、暗号資産の公開台帳にあったドメイン名じゃん。

更に画面をスクロール。


6月6日11:03

         『現在は大学隣の正規の

          遺伝子研究所に保管。

          極秘研究所の遺伝子保

          存庫ができたら順次移

          管予定。

          11月26日9:00、

            遺伝子保存庫稼働

          11月27日9:00、

            Aランク納入

          11月27日13:00、

            他Sランク納入

          11月28日9:00、

            SランクD納入』


これって。Dはドメスティケーション。AランクとかSランクは遺伝子の貴重度。

警察に提出されたジュンユー・ホーの音声は2304年6月6日のものだった。ルツは、マッチョに武漢の極秘研究所を案内されたことを思い出す。極秘研究所ができたのは、2305年と説明された。

その少し前、遺伝子保存庫が11月26日に稼働し始めたと考えられる。


ルツは更に古い履歴を見る。


『遺伝子販売は長期に渡

 り組織的に研究員を送

 り込んでいる』

        『関与している研究員は

         不明』

『需要があることが恐ろ

 しい。戦争に備えてい

 る者がいるかもしれな

 い』

        『阻止します』


は? 戦争? なんでいきなり。遺伝子の話じゃないの?

スクロールして現れた文にぞっとした。         

       

『兵士や奴隷として販売

 するなどあり得ない。

 人道的に決して許して

 はいけない。廃棄しろ』


日本人の遺伝子を売ろうとしていた。兵士や奴隷として。遺伝子って人になるんじゃん。人間だよ。


6月6日9:32

        『ジャパニーズレポート

         を入手しました』

『OK。データを受け取

 った。媒体は?』

        『結論と概要が紙、それ

         と一緒にレポート全文

         のカードです』

『消去を』

        『はい』


ジャパニーズレポート。きっとこれに、日本人の遺伝子がドメスティケーション遺伝子だって書かれてる。


頭の中を整理しながら、ルツは写真のフォルダを見た。位置情報はないが、日付はある。6月5日、ジュンユー・ホーは、反り返った屋根の特徴的な建物を写真に残していた。

これって、武漢の正規の遺伝子研究所じゃん。

このころ、極秘研究所は建設中。ならば、ジュンユー・ホーは、正規の遺伝子研究所の方を訪れたのかもしれない。そこで様々な情報を得たと考えられる。

警察に提出されたのは、6月6日の音声だった。


『ホーです。廃棄されたのは、ドメスティケーション度が低いと判断された遺伝子です』


これだけでは何のことだか分からない。警察に提出するべきはメッセージ。けれど、もしも連邦が遺伝子について何かを隠しているなら、メッセージは警察に提出できない。


連邦の平和維持対策局員、元中国籍のジュンユー・ホーは、日本人の遺伝子が非人道的に扱われるのを阻止しようとして消息を断った。


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